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2021-06-21

「本屋未満」が本屋になるまで|前編

 

バリューブックスの実店舗である「本屋未満」がオープンしてから約1年。

どう変化するかわからない未来に対して、いろいろなことを試しながら、つまづきながら店を作っていくやりかたもあるのかもしれないと、さまざまな挑戦を重ねてきました。

 

いつか未満じゃなくなる日を目指して走ってきたこれまでの1年を、バリューブックス取締役の内沼晋太郎、本屋未満スタッフ3名とともに振り返ってみました。

 

左から、内沼、池上、向口、市川

 

 

“未満”の日々のはじまり

 

内沼:
本屋未満を振り返る前に、まずその手前の話を僕から話ができればと。2019年9月にNABO を一旦閉めてから、そもそもこのまま実店舗を続けるのか、という話がありました。NABO としての1つの役目を終えたんじゃないか、つまり本気でここをやりたい人がいなければ、実店舗をやめるのも考えとしてはあるんじゃないかと。それに対して、店舗が入り口になってバリューブックスを知ってくださる方もいるでしょうし、そのほかにもたくさんの価値があるものだと僕は思っていて。

そこで自分が上田に引っ越してきたタイミングで、お店をしっかりとやろうと思っていた矢先に台風がきたんですよね。台風直後は、復興のこととかやっていたり、それが落ちついたら今度はコロナになって。

コロナの対応で、自分の会社の経営、B&B のこととかもあり、なかなかお店づくりに着手できていない期間がありました。そんな中で、なにか小さくてもやろうよと池上さんが言いだしてくれたんです。

それからサードハンドブックスの販売をやってみたり、当時スタッフだった小野村さんがカレーのイベントを開催したりと、暫定的な店舗運営をしつつも、どうせやるならしっかりやりたいとみんなもモヤモヤしている中で・・・。

 

池上:
流星のごとく向口さんがあらわれて(笑) これならやれる!ってなったんです。

 

向口:
前職でお世話になっていた生江さん(バリューブックス スタッフ)のいる会社が上田で本屋をやっていることは知っていたので、当時は静岡に住んでいたのですが連絡もなくいきなり訪ねてみたんです。お店を見れたらいいなと思って、行ってみたら閉まっていて(笑)

きちんと調べてこなかった自分が悪いんですが、そこではじめて生江さんに連絡してみたら、ご飯を食べることになりました。その夜、いろいろと自分が考えていることを相談する中で、バリューに入社するため面接していただこうとなり。

 

 

内沼:
まさに流星のごとく、彗星のように入ってきたわけですか(笑) そこで小野村さんと向口さんとが中心になってお店を開いていくことになったのですね。

最初は毎週とにかく新しい挑戦を重ねようとお店を開いたと思いますが、本屋未満という名前はどのように決まったんでしたっけ?

 

池上:
きっかけは内沼さんからポロっとこぼれた言葉でした。NABO という名前で再びやるかという話も出ていたと思うんですけど、私はその当時からそれはちょっと違うかも、と思っていて。内沼さんが「本屋、未満?」と聞こえるかどうかの声で言ったのになんかピンときたんです。

 

向口:
入社して、メンバーも決まり、お店を前と違う形でやるにはどうしたらいいのかという話をしていたんです。ただ、コンセプトを固める前に、まずは色々やってみるべきなんじゃないかと。だったら「未満」と名付けて、どういった本屋が理想なのかやりながら考えればいいんじゃないかと、内沼さんが名付けてくれたのがきっかけでした。

 

 

内沼:
自分からでしたね(笑)覚えているのは、社長の大樹さんも含めて話をする中で、毎週違うことやるのがいいのではというアイデアが出ていて。足掻いていることを、そのまま見せるのもいいんじゃないかと。僕も、当時自分の会社でそういう動きをしていたんです。なにか立ち上げては note で発信したりと。それがすごい面白いと言ってもらえて。

いまはかっこつけて、これだということをやるというよりも、みんな答えなんかはわからないのだから、なんかかっこ悪くてもそれを見せているのがいいんじゃないかと。

 

池上:
もう来週にはお店を開けてみれば?となり、すぐさま取り掛かりましたよね。

 

内沼:
店には「捨てたくない本」が並んでる状態でしたし、やれるんだからやればいいのじゃないか。それで……池上さん手になにか持っていますが、それは何ですか。

 

 

池上:
これは本屋未満の歩みを書き出してみたんです。オープンしたのが2020年、6月13日の土曜でしたね。本屋未満の歴史はそこからスタート・・・なわけなんですけど、まず最初にがっつり全員で取り組んだのは「大掃除」です(笑)

ゴミ捨て用に2tトラックとかも出してもらって、オープンしてしまうとやれなそうなところの掃除までできたのはとても気持ちがよかったです。

 

 

池上:
その「大掃除」を経て、そんなに大きな告知もせずにニュルッとオープンしました。最初の週は「
1ドリンク注文につき、店内の本どれでも1冊差し上げます」、という取り組みをスタートさせています。オープン初期の取り組みは、おおかた編集部の神谷くんが記事にまとめてくれています。すごい、今見ると店内にモノとか本が全然ない・・・。植物もまだ置いてないので、スッキリしてるけどちょっと寂しい感じ。これはとても「未満」っぽくていいですね。

 

オープン初日の店内の様子。本棚に並ぶのは全て50〜100円の「捨てたくない本」。

 

池上:
次の週は、新品の本を販売すること、その次の週にはオンライン配信にチャレンジしてみることを6月にやっています。

 

内沼:
インスタライブをやってみたりもしましたね。ドリンク1杯で差し上げている本はもともとバリューブックスで「古紙回収に行く予定だった本」たちです。古紙回収にいく予定の本から、ほんの一部ではありますが、選書して、お店に並べていたんですよね。

それらの本を「捨てたくない本」と僕たちは呼んでいるのですが、お店を開くにあたって、バリューブックスしかできないお店にした方がいいねと話をしているときに「捨てたくない本」がこれだけあるのは1つ象徴的なことであることだなと考えがありました。

なんでもいいから、捨てたくない本の中から自分で1冊選んでみたら、そこから本を読むきっかけというのが生まれてくるかもしれない、本と人との新しい出会いを生み出せるかもしれないと。今でもその取り組みは?

 

池上:
続けています!レジ前で案内することが増えてくる過程で、紹介しきれないこともあって、実は一度やめてしまおうかと思ったこともあったんです。ただ、取材いただいた際にはそれが店舗の1つの象徴になったり、NABO 時代に本をあまり手にしていなかったお客さんがこれをきっかけに本を手に取るようになってくれたりと、嬉しい体験が結構あって。これはずっと続けるべきだなと思っています。

 

 

 

毎週1企画、気づけばの20以上もの「やってみる」が積み重なっていった

 

内沼:
そして、捨てたくない本のみが最初並んでいる状態から、新品の本を取り扱いも早々にはじめたんですね。この時って本のセレクトは。

 

向口:
小野村さんが、めぼしい新刊を300タイトル選んでくれました。その中で、コロナで店に来れない方もいて、新しい販売方法と言いますか、そういう方にもいい本を届けたいねという思いで配信のチャレンジをしてみたんです。

 

新刊300タイトルを本棚に並べる

 

池上:
そんなにたくさん、という訳ではないですけど DM で連絡いただいて本を送ったりしていましたよね。それが6月の動きでした。

そして、7月やったのが本の収穫体験本屋がつくるラブレターを並べる24時の本屋未満バリューブックスの在庫にある古本を並べてみたり。あとキャンドルナイトもありました。モリモリですね。

 

内沼:
結構やってますね(笑)こういうのってあとから振り返ると、すごいなって思います。

 

 

池上:
そうなんです。書き出してみると、結構やってるんですよ。本の収穫体験というのは私がやりたくて、本のキャプションをツルに吊るしてみたんです。くだものの収穫体験をするように、本に出会えるというものでした。見た目はすごいよかったんですけど、あんまり収穫はされなかった・・・。

 

本の収穫体験

 

24時の本屋未満

 

向口:
仕事が終わったら本屋未満が閉まっているといった人や、土日はこれないよって人でも来れるように、お店を開きたかったんです。読書体験も変わると思っていて。本屋で非日常感を味わえるといった意味でもとてもよかったのですが、流石に24時まで営業するのは大変でした(笑)

 

内沼:
いい企画ではあったんですけどね。バリューブックスの在庫から選書にした本を並べることに関しては、テーマを設けて本を選んでいたと思います。ちょうどその時、バリューブックス独自の本の販売サイトをつくっていて、なにかキーワードをもとにお店で選書をすることで、後にそのサイトにも活かせるなと思っていたんです。その頃に小野村さんがバリューを離れるってことになって、置き土産のように選書してくれた本を置いていってくれました。

 

本屋未満オープンから1年後、2021年6月現在の店内の様子

 

池上:
2020年の7月には、バリューブックスの在庫にある古本を店内に持ってきて、ジャンルを設けて並べるようになりました。いまの本棚の骨格が、この時にできはじめていた・・・自分が思っていたよりだいぶ早いです。

そして、キャンドルナイトですか。

 

向口:
キャンドルナイトでは、「あぶり出し」をやってみました。何も書かれてない紙を火であぶると、本のタイトルがじわじわ出てくる・・・というものです。これも収穫体験の時のように、普段と変わった形で本との出会いをつくりたいという思いから始まっています。

お店づくりの面でいうと普段より店内の照明を落とし、音楽も落ち着いた音楽を流したりして。ワイン片手に本を選ぶ夜もおもしろいものだなと。

 

 

池上:
8月は怪談売買、本のえんにち、CHAIRO の茶葉販売をはじめました。ほんとは8月末にお茶の試飲会をやる予定だったんですけど、ちょっと難しい時期だったので中止になったり。ドリンクを改革しようとしたタイミングでしょうか。いろいろと試行錯誤を重ねる中で、コーヒーよりもお茶をやったほうが、独自性も出たりするんじゃないかと話が出ていて。最初は茶葉販売だけで、正式に「本とお茶の店」としてやっていこうとなったのは、今年の1月ではあったのですが。

 

内沼:
8月はメニュー開発が夜な夜な行われるようになった時期ですね。怪談も結構盛り上がっていた印象です。

 

池上:
お客さんがワッときた感じではないですが、本屋にきたお客さんが怪談を売るというのは、なかなかない体験だと思っていて。実際来ていただいた方の反応はとてもよかったです。

その後、9月からの取り組みに関しては、毎週なにかをやってみるというスタイルだと疲れてしまうので、もっと本のセレクトに注力できる時間をとったり、トークイベントやフェアのようなちょっと中規模の企画を練って実行することに切り替えていきました。

 

もう、“未満”じゃないかもしれない

 

内沼:
そのあたりから、本屋未満をどう終わらせるか、っていうのを考えはじめたんだと思います。どう未満じゃ無くすかと。ある程度チャレンジは重ねてきた、では、どう未満をやめるのか。

 

池上:
そうですね。一旦本棚のリニューアルに注力してみようと。ちょうどこのあたりから市川さんが加わったんでしたっけ?

 

 

市川:
そうですね、9月くらいでした。小野村さんがバリューを離れるということで、人手がたりなくなることもあり。それまではブックバスの出店をメインに担当していたのですが、コロナでなかなかイベント出店も難しい状況になっていたのも背景にはあります。

 

池上:
市川さんもスタッフに加わって、11月の本棚リニューアルに向けてやってこうと。ちなみに10月やったことでいうと、本の紹介をSNSできちんと投稿しはじめたり、店頭での古本買取を始めたことですね。定休日を少なくして、火水以外は営業していた時期でもあります。

リニューアルしてからは、店頭でのフェアをはじめたり藤原印刷さんとのトークイベントを開催したり。

 

2020年11月、リニューアル後の店内。植物も入ったり、
以前の「NABO」には無かった本棚を、10棚分ほど造設した。

 

内沼:
トークイベントは、バリューブックスとしても久しぶりの開催でしたよね。なかなかお店は来れないって方に向けて、オンラインでも配信しました。

 

池上:
11月からは結構、今の感じになったというか、お店として固まってきたのかな。毎月イベントやフェアをやるようになって、さっき話をしていたバリューブックスの販売サイトが出来たので、それと連動した企画を組んでみたりとか。オンラインで本を売るのを試してみたりとか・・・。2021年1月からはCHAIROが入店して、本とお茶のお店になり、定休日もいまと同じの金土日の営業になりました。

 

11月〜2月の間に開催したさまざまなフェアや企画

 

内沼:
ほんとにいろいろとやってみるを重ねてきましたよね。ついにお店とバリューブックスのサイトが連動しはじめたこともあったり、もうほぼ今のお店と同じ形になってきたわけですか。

 

池上:
そんな感じで今にいたると。

あれ、これはすでに私たちは、未満じゃない、かもしれない……?

 

 

 

 

後編では、ついに本屋未満が店舗名を変え、リニューアルを決意した経緯、それぞれのスタッフの思いついて触れていきたいと思います。

後編はこちらから

 

 

posted by 神谷周作

愛知県生まれ。
都内にてウェブメディアを運営する企業に勤めたのち、愛猫と一緒に上田に移住してきました。
趣味は、レンチキュラー印刷がされたグッズの収集。

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