音楽x本がテーマのフェス「ミュージションフェス2025」開催!|ブックバス出店します
2024-11-26
2021-03-08
2020年11月12日(木)から30日(月)まで、バリューブックスの実店舗「本屋未満」にて松本の老舗印刷会社、藤原印刷さん協力の元「紙のさわりごこち、めくりごこち」展が開催されました。
「紙のさわりごこち、めくりごこち」展では6種類の紙を使用した『吾輩は猫である』を6冊ご用意。紙によって本の触り心地、重さ、読書体験がどのように変わるのか、直接体験することができる展示でした。
https://www.valuebooks.jp/endpaper/6836/
本記事では、展示に伴い 11/23 (月・祝)に開催されたトークイベント「紙と本に、相性ってあるの?」 のイベントレポートをお届けします!
藤原隆充さん(藤原印刷 取締役)と 内沼晋太郎( バリューブックス 社外取締役/NUMABOOKS 代表)による1時間半のトークをぎゅぎゅっとまとめた記事となっております。
企画展についてはもちろん、紙をつくること、本を売ること、本と出会う場所の大切さ、そして印刷業界の今とこれからにまで、話は広がっていきました。
さらに多くの事例を交えたディープな話を知りたい方は、イベントの全編を収めた動画も併せてお楽しみください。
写真左:内沼晋太郎 写真右:藤原隆充
内沼:
今回、本屋未満で行っている展示は「紙のさわりごこち、めくりごこち」展ということですが、本企画について藤原さんからお話してもらえますか?
藤原:
この企画は、本を作る工程で作成する束見本(本番と同じ種類の紙つくるで白紙の冊子)を比較していただくものです。一冊の本でも、本文の厚さをちょっと厚くしてみたり、表紙の紙を変えてみたりと複数の束見本をつくる場合があるんですよ。結局最終的には一個に選ぶためにやってるんですけど、採用されなかったものたちにもある程度市民権が得られるんじゃないかと思って。
内沼:
ボツの中にもいいところがあるよ、てことですよね。
藤原:
そうです。例えば、皆さんが着ている洋服でもウールはあったかい、シルクは肌触りがいい、今でいう化学繊維は軽くて動きやすいって着心地を選べるじゃないですか。本もその人が好きな紙や重さ、触り心地を選んでみたら面白いなと思って。「じゃあ同じタイトルでサイズは一緒、ページ数も一緒で本文の紙だけ変えてみたら、どう感覚や読書する時間が変化するのかな」というのを比べて体感してもらいたいという目的で作ったのが今回の「紙のさわりごこち、めくりごこち」展です。
内沼:
なるほど。本はある程度大量生産するものなので、なかなか「あなたのためにこの紙で」っていうわけにはいかないですもんね。
藤原:
今回、実際訪れた人に一番良かったと思う紙に投票してもらっているんです。一番人気があるのが一般的に小説に使われる紙なので「やっぱりこれが人気なんだな」と感じました。でも、この封筒用紙も意外と人気で。古書っぽい焼けた感じの紙を好きな人が多いのはバリューブックスらしいなと思いました。
内沼:
他で実施した時の投票結果は違いましたか?
藤原:
塩尻図書館で同じ企画展を実施した時は違う紙が人気でしたね。バリューブックスとして古本の文化がちゃんと上田市民の方に行き届いてて、「これもいいよね」って言ってるのがすごくいいなと。
内沼:
さっきの紙の話は好みもあるけど、コストによって諦める場合もありますよね。「こちらの紙はすごくいいんだけど2,500円になっちゃうから今回はやめよう」みたいな。だけどひょっとしたら「自分はすごいお気に入りの本だから、1万円しようが一番お気に入りの紙で欲しい!」ってこともありますよね。
藤原:
そうですね。
内沼:
そういう時代がいつかやってくることもあるんですかね?
藤原:
あるかもしれないですね。中世では自分で好きな本の装丁を選ぶ文化があったんですよ。街場に装丁屋さんみたいなのがあって、そこに頼んで自分なりの本を作るんです。今は情報伝達のために大量複製ですけど、今後、本の嗜好品的な力が強くなっても全然おかしくないなと思ってます。
藤原:
内容もですが、全体的な雰囲気がいいということで本を買われてる人は多いですよね。いわゆる普通の本というよりかは「様になるかどうか」が結構最近の本では求められてるなって思います。
内沼:
なるほど。より本がモノらしくなってるってことですよね。それはすごく感じます。ただ読むだけ、大量に流通させるためだけだったら正直みんなインターネットで読んだり、スマホで読んでるわけじゃないですか。「わざわざ紙で欲しいな」みたいな、わざわざ感が出てきていますよね。「自分の部屋に置いておきたい」とか「自分が持ち歩いていてちょっと気持ちいい」とか、そういうことを気にするようになっているからこそ、これからは触りごこち、めくりごこちの時代であると。
藤原:
そうですね。ちょっと触りごこちとは違うんですけど、空間も大事じゃないですか。例えばコーヒーは、ルノアールで飲むコーヒーと台所で飲むコーヒー、ホテルで飲むコーヒーじゃ全然感覚が違うと思います。
内沼:
そうですよね。
藤原:
それと同じで、本もどこで読むかによって感覚が違ってくると思うんですよね。なので、場所とプロダクトは、よりこれから注目されると思います。僕らは場所を提供というよりかは、「本というプロダクトをどういう趣向を持った人たちに届けられるか」というところを注目していきたいですね。
内沼:
なるほど。まさしく我々は場所を作らなきゃいけないと思ってますね。このお店と2軒先に「バリューブックス・ラボ」ってお店があるんですけど、さらにこの辺りで物件を借りて、本を読むことをテーマに、いい場所作りをしていきたいなと思っています。
藤原:
どういう軸で本を読む場所を考えてるんですか?
内沼:
読むのももちろん大事なんですけど、やっぱり本と出会う場所ですよね。
藤原:
なるほど。
内沼:
同じ本でも「この本屋で買った」って記憶と結びついているものと、そうじゃないものがあるじゃないですか。もちろん僕たちの会社はインターネットで古本を売っている会社なので、これはどっちもいいところがあるわけなんですけどね。クリックしてパッと届いた本と、「あの旅先で、あの時買った、あの本」っていうのはやっぱり違うわけじゃないですか。同じ本でも出会い方が変わると印象が違う。それは友達と出会った時に似てるかなって思ってて。旅先の飲み屋でたまたま隣になったおじさんのことって、なんか覚えているじゃないですか(笑)。
藤原:
覚えてますよね。
内沼:
その出会いをどういう風に演出するかは、買う場所でも、図書館のような借りる場所であっても、なるべく気持ち良い場所でありたいと思うし、記憶に残る空間でありたい。けど過度にうるさいのも嫌なのでそのバランスは難しいです。
藤原:
今、本と接する機会って特別じゃないですか。本屋のない自治体なんてどんどん増えてますし、本屋さん自体も一日一店舗以上閉店している状況で、「じゃあ本屋さんに行けば本に出会えるか」って言ったらまたそれも違う問題で。図書館のことを否定するわけでも嫌いなわけでもなくて、図書館の並べ方といわゆる大型書店の並べ方って探しやすさを全面に出していると思うんですよ。でもそれって、目当ての本を見つけに行かないと出会いがなかなかないですよね。一方、本屋未満さんや松本の栞日さんや本・中川のような街のセレクト系の書店だと全然並べ方が違うんです。一冊一冊が自分に刺さる感覚があります。本との出会いは、量だけじゃなくて棚の作り方や本の選び方のような編集も大切だなと感じます。
内沼:
どっちがいいとか悪いじゃなく、それぞれ機能が違いますよね。探している本がそこにあることが価値である時もあるし、何も探してないんだけど気になるものが見つかることが価値の時もあるじゃないですか。
藤原:
うんうん、そうですね。
内沼:
今は「探してる本を見つける」ってことに関してはインターネットがすごい強いですよね。だから大型書店のあり方っていうのは結構難しくなってきていて。ただ、「現物を見て欲しい」という人のために書店は必要なんだけど、今はインターネットで検索したら探している本は見つかっちゃうじゃないですか。なので、なんでも揃ってるってものの価値が相対的に下がってるっていうのはあると思うんですよね。
藤原:
わかりますわかります。実は僕たちも二年前くらいから本屋をやっていて。「印刷屋の本屋」をコンセプトにして、製造の立場からプロダクトの魅力を伝えようとブックイベントに出店しているんです。
内沼:
本当にいいですよね、それ。全ての印刷屋さんが作った本を売ったらいいと思うんですよね。
藤原:
ありがとうございます(笑)。
内沼:
印刷的なプレゼンテーションはさすがに書店の店頭でもできないし、直接印刷屋さんに言ってもらうと、やっぱり説得力が違いますよね。
藤原:
価格の妥当性も変わると思います。農家で言ったら「農業がどれだけ大変だったかを伝える」みたいな。土や肥料の話、手間や技術の話など、かけた労力をちゃんとプレゼンテーションすることによって、1個200円のりんごでも「これで200円って安いじゃん!」みたいに価格に対してのハードルが少し下がるんじゃないかなって思って。
内沼:
なるほど。
藤原:
イベント出店では、生産する側の視点を伝えることによって新たに価値を発見して喜んでもらうことをテーマに掲げてやっています。印刷屋としてただ製造していくだけじゃなく、製造の過程での気づきを伝えていくことは、作者や版元に向けても価値になる部分じゃないかと思っていますね。
内沼:
「日本の紙はすごい」とか「高品質ですばらしい」って世界ではまだ言われているけど、実際現場ではどんどん廃番なっていて。この現状、これからどういう風になってくるんですかね。「この業界、何年保つんだ?」みたいな危機感をブックデザイナーさんは持ってるって話を聞くんですけど、印刷屋さんとしてもそういう気持ちですか?
藤原:
間違いないですね。皆さんにお配りした束見本の中にも廃番になっているものが何種類かあります。紙業界全体で考えると、ダンボールをつくる方にいってるんですよ
内沼:
ダンボール!
藤原:
はい。書籍のマーケット自体が縮小してるので、需要が安定しているティッシュやダンボールに方針を変えるというニュースはちらほら聞くようになりました。
内沼:
「書籍用紙を作ってたけどやっぱ辞めてダンボール作るわ」っていう。
藤原:
そうそう。製紙会社から「この紙を買いたいなら今のうちにどうぞ」というお知らせは結構きますね。
内沼:
どうしたらいいんですか?この紙のさわり心地を守りたい我々としては。本を沢山買うしかないんですか?
藤原:
紙からオリジナルでやっていくという試みが製造生産の方でできれば、面白くなると思います。ものすごい小さいですけど、書籍を作る際に「紙もオリジナルで作りたい」ニーズはポコポコあるんですね。
内沼:
へえ!
藤原:
以前にJTさんが環境配慮のリーフレットのためにタバコの吸い殻を10%混ぜたオリジナルの再生紙をつくられていたことがありました。
内沼:
なるほど、小ロットで製造するクラフトビールみたいです。雑誌が何百万部も出てた時代には、特定の雑誌のために紙を作るなんてこともあったようですね。今は「オリジナルで紙をつくりたい」と言ったって、全然ロットが成立しないですもん。でもクラフトビールのように元の作り方とは違う作り方だけど、小ロットでオリジナルの紙を生み出す方法ってなくはないですよね。
藤原:
そうですね。同じ長野県企業のエプソンさん「ペーパーラボ」というオフィスで再生紙をつくれる機械を作っていて、その辺にある紙をポンって入れると紙が出てくるんです。オリジナルの紙は、本に物語性を付け加えられますよね。
内沼:
藤原さんが買ってくださいよ、その機械。
藤原:
買いますか(笑)。
内沼:
そうしたら僕たち使いますから(笑)。本をリサイクルしてその場で紙に出来たらすごくいいですよね。バリューブックスが買い取れずに引き取った本も、最終的にでっかい流通工場で古紙になるんです。『エンドペーパー』でも、本が命を終えてまた紙になる古紙再生についての記事を動画と共につくりました。ぜひ見ていただきたいのですが、ああいう大掛かりなことをしないと紙にならない世界から、自分の思い入れのある本を手軽に紙に戻すことができたらすごいです。
藤原:
そういえば、これはまだ構想なんですけど長野をブックツーリズムをできたらいいなと考えています。ワインツーリズムってあるじゃないですか。製造現場からワインセラーに行って自分で体験するっていう。
内沼:
はい。
藤原:
去年の5月に松本の工場を一日開放して心刷祭というイベントを行ったんです。会社のキーメッセージ「心刷」を皆さんに体験していただこうと、インクを練ったり、一緒に印刷機を動かしてもらったりワークショップを100以上用意しました。そしたらなんと、2週間くらいで予約が埋まっちゃったんですよ。「これ、体験として成り立つな」とわかったので、例えばブックホテルに泊まりに来た方へ印刷工場で印刷を体験、本屋さんで編集を体験、紙は漉くところから体験と全部ひっくるめてツーリズムにできたら最高だなと思っています。
内沼:
いいじゃないですか。
藤原:
じゃあもう「ペーパーラボ」買うしかないですね(笑)。ところで話は変わりますが、内沼さんは、なんの制約もなく自分で自費出版するとしたらどんな本をつくりたいですか?
内沼:
やっぱ変なやつを作りたくなりますよね。例えばすごいでかいとか。とはいえ、びっくりする仕掛けってなかなか難しいもんね。
藤原:
かっこいい本って結局、無謀で意味わからないやつですよね(笑)。
内沼:
そういうかっこよさってありますよね。でも逆に普通の佇まいで「うわ、めちゃくちゃいいな」っていうのもいいんですけどね。
藤原:
「なんでこんなことしたの?」というのが今すごく共感されやすい気がします。
内沼:
ブックデザイナーの祖父江慎さんがカレー粉で印刷してて、やっぱり五感に訴えたい気持ちはありますね。先程話したようにどんどん本がモノとして捉えられるようになってきているから。タイヤが付いて動いちゃう、みたいなむちゃくちゃなやつも作りたい(笑)。
藤原:
いいですね(笑)。
内沼:
時間もそろそろいい感じなので終わりましょうか!今日は本当にありがとうございました。
posted by バリューブックス 編集部
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