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2024-12-16
2020-02-19
生きることのなかで、悲しいことから逃れられるひとはだれもいないと思う。
この本は、ほんとうに悲しくてなんのちからもでない時
自分の内側から自分を支えてくれる助けになる、かもしれない、そんな小説です。
「ささやかだけれど、役にたつこと」はこの本のなかの短編のひとつ、35ページの短い物語。
物語の中心には交通事故でこどもを失ってしまった夫婦の深い悲しみがあります。
家に残されたこども用の自転車が悲しい。そこについ最近まであったこどもの気配が悲しい。
なにもかもが悲しくてむなしい、その気持ちは読んでいるこちらがわにも伝染してきて
喉のあたりがぐぅ、とつまる。
そんな時、夫婦に差し出される「ささやかだけれど、役にたつこと」。
まっくろの悲しみの中に取り残されていた夫婦と読者の目の前に
ほんとうに「ささやかな」ものが差し出されます。
それによって悲しみが消えるわけでも、事態が好転するわけでもなく
悲しみ以外の何かが波立つ、それでこの物語はおしまいです。
村上春樹に言わせれば「自分のからだを通過した言葉しか使わなかった」
カーヴァーのことばのひとつひとつには、カーヴァー自身の痛みや苦しみの気配がたしかにある。
こんなに「信頼できる」小説は、なかなかない。そんな1冊です。
レイモンド・カーヴァー(著)・村上春樹(翻訳) 中央公論社 (1989/04)
posted by 池上 幸恵
バリューブックスが運営する本屋「NABO」店長を経ていちど退職、その2軒となりの店舗「バリューブックス・ラボ」スタッフとして復活。
会社ではたらきつつ、自分で作った土偶の展示販売、イラストの仕事など受けて暮らしています。
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