発売前より話題を呼んだ高橋悠治と坂本龍一による幻の対談本『長電話』の復刊によせたコメントを公開中!
2024-10-01
2019-05-12
「問tou」の開店準備にお邪魔した、代表・平田はる香さんへのインタビュー後半です。
前半はこちらから。
DIYを活かしたお店づくりの話から、話題は自然と”偏愛”をテーマにした本棚へ。
平田さんの全身全霊をかけた本の読み方にも、圧倒されます。
—— 「問う」という言葉、はじめは自分と物が一対一で向き合うようなイメージを抱いていました。でも、そうではなくて、いろいろな物がこの空間には散りばめられていて、「あなたはどれに価値を見いだす?」と問われているようなものなんだと気がつきました。
平田:ああ、価値を見いだす、すごく好きなんです。私たちはDIYをするんですが、このテーブルも土台はおそらく園芸用のものです。
—— あ、たしかに!
平田:そこにちゃぶ台をくっつけて。ほかにも、横長のベンチを立たせてそれもテーブルにしたり。めちゃくちゃではあるけれど、現代版の見立てだと思っているんです。また新しく命を吹き込む、という行為がとても好きで。
試着室も自分たちでつくったんですが、気に入らなかったらまた壊して新しくできる。組み立てた人は、壊し方もわかるんです。なので、はじめから簡単に取れるようにもしていて。
平田:あの板はカウンターになる可能性もあるし、椅子になるかもしれない。本当は、お金をかけて全部用意してしまえば便利だし、すぐできちゃう。そうすれば、オープン前にこんなにバタバタしないで済みますし(笑)
でも、それがいいと思っていて。
—— どう使うかで、物の意味がガラッと変わるんですね。
平田:もともとおやきが販売されていたときのカウンターテーブルは、ベンチにしたんです。長年の汚れもあったので、サンダーで磨いて。昔からここを利用していた人は「あれ、これって?」と思うかもしれないですよね。それもいい「問い」だな、て。
ここの什器は、そういう風にDIYしたり、繋がりのあるお店から買わせてもらった物なんです。
平田:商品の仕入れもそう。何度も何度も会って信頼できる人からしか、仕入れていません。
また、ここにある約2000冊の本は、新刊も含めてすべて買切なんです。
※ 新刊の書籍は、委託販売が一般的。委託販売の場合、お店に残った本はあとから出版社に返品できますが、買切だとそれができません。
—— これらすべて、買切なんですね!
平田:「わざわざ」も同じで、仕入れはすべて買切なんです。委託だと気合が入りにくいと言うか、背水の陣で臨む、ということが私にとっても必要なんです。怠け者なので、そうやって自分を追い込んでいるんです。
—— 問題を解決しないといけない状況まで、自分を持っていく。
平田:買い切るというのは、覚悟ですね。自分が買えないモノを人に売るのか。それは店として問われた姿勢だとも思っているので、委託という考えはないんです。
—— “覚悟”で言うと、常設の本棚とは別に用意されたテーマ棚にも驚きました。これ、1タイトルの本を何十冊も集めていますよね。
平田:数ヶ月に1回更新していくつもりで、同じ本を100冊用意しました。今回は、糸井重里さんの『インターネット的』。ワンタイトル100冊、めちゃくちゃですよね。
—— めちゃくちゃです。
平田:それもすべて、買切というめちゃくちゃさ(笑)
—— めちゃくちゃです(笑)
平田:あの本は2001年に刊行された物だけど、この店はそれへのアンサーだ、という感じもしているんです。インターネット的でないものへの、回帰。だからこそ、あの本をもう一度手に取って読んでみてほしい。
もちろん、インターネットと決別する、ということではないです。ともに生きてはいくけれど、依存はしない。そのことを私たちはこうやって解釈した、というのを感じ取ってもらえたら。
—— 常設の本棚は、”偏愛”がテーマですよね。平田さんと、ツバメコーヒー店主の田中さんと、バリューブックスの生江さんが自身の偏愛を根っこに選んだ計300冊。
平田:そうですそうです。選書の過程がみんなバラバラで、面白かったです。
—— バラバラ。
平田:ツバメコーヒーの田中さんは、”100冊選ぶ”というお題にたいして、きっちり100冊を選んできたんです。現状のベストを絞り込んできて。
私は、選書の時は思いついたのをただ書き連ねただけなんです。Excel に向かって、思いついた本のタイトルを打っていく。いろいろな本の中から100冊を選ぼう、と思ったわけじゃないんです。あとは、タイトルだけでなく作家の名前も書いていきました。江戸川乱歩、池波正太郎、ヘルマンヘッセ、武者小路実篤……て。
なので、見返すと抜け落ちている本もたくさんあるんです(笑)でも、田中さんはそうではないですね。100冊、きっちり選んできた。だから、そうした意味では、私がしたのは”選書”ではないですね。
—— なるほど。ただ、サラサラと読んだ本のタイトルが出てくる人も、そうそういないですけどね。
平田:私は、読書量は少ないんですが、偏っているんです。たとえば、池波正太郎さんの面白い作品に出会ったら、他の作品も全部読んでしまう。その中で気に入ったものを、何度も何度も読み返すんです。
小さい頃からその繰り返しで、中学校2年生の時は吉川英治の『三国志』しか読んでないんです。全8巻を、計6回!
—— それはすごい! 読書量は少ない、とおっしゃいましたけど、むしろ量はかなりのもので、読書”数”が少ないという意味なんですね。
平田:たしかにそうですね。毎日読書はしていて、1巻から8巻まで読んだらまた1巻に戻って……を繰り返していたら、中学校の1年間が終わっちゃったんです。もう、めっちゃ面白くて。
—— 当然ながら、結末はわかっているわけですよね。それでも、面白い。
平田:読むたびに、見えてくるものが変わるんです。着目するところが変わって、別のお話みたいになってくる。
平田:池波正太郎の『剣客商売』、なかでも6卷の「新妻」という作品が大好きで、おそらく100回くらいは読んでいます。高校生の時に出会った宮沢賢治の「春と修羅」は、何度読み返しても飽き足らなくて、最後には1ページ目から全部を暗記しちゃいました。
—— いやぁ、極端だ!
平田:あ、高村光太郎の「智恵子抄」も暗記してましたね。「いやなんですあなたのいつてしまふのが……」という始まりから、全て。今はもう覚えていないですけどね。こういう行為を「記憶にこすりつける」と私は呼んでいて、そうした作業が好きなんです。
—— 何回も読み返すって、回数の話でもあるけれど、自分に流れた時間とも呼応しますよね。自分も、高校生の時に志賀直哉の『城の崎にて』を読んで、「なんてつまらない小説があるんだ!」て驚いたんです。それが、自分が成長して大人になってから読み返すと、味わいがまったく違う。あの時は感じられなかった滋味をすくい取れるというか。
平田:わかります。私も中学生の時にサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んだんですけど、最後まで意味がわからなくて。だから、10回は読み通したのだけど、最後までわからないままで。だからこそ、今改めて手に取りたいんです。あの時わからなかった何がわかるのだろう、て。
—— わからなくても、10回は読んでしまうんですね(笑)平田さんは、”わかろうとするパワー”がとてつもないですね。
平田:それはありますね。推理小説って、伏線が張られていますよね。1回目はそれに気がつかないから、2回3回と読み直す。
ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』という名作も、大好きで。あれほど裏を書かれた推理小説は、ありません。予想外の展開で、気づけなかった自分が恥ずかしい。だからもう1回、つかまえにいくんです。
—— つかまえにいく。
平田:「ここだった!ちゃんと書かれていた!」て。それに、気づきたいんです。
—— そうやってつかまえにいくから、自然と頭にこびりついちゃうんですね。
平田:そうです、だからタイトルがすぐに出てくるんです。そうなるまで、頭に刷り込んでいるから。
—— お話を聞いていると、「記憶にこすりつける」作業って、本を読むことだけに限った話ではなさそうですね。
平田:ええ、人との会話もそうです。人と話す時は、必ず横に携帯を置いていて、いいワードが出てきた時にパッとメモを取るんです。飲み会の最中もずっと。
《こいつやったな=パンクス》
《子供は山で育った方がいい》
《東京に来たときには俺が相手してやる》
《酒の歯ごたえ》
酔いの席の言葉たちだから、意味がわからないものもあります(笑)
でも、この会話をした人とまた会った時に、メモを引っ張り出して聞くんです。「これってどういう意味でしたっけ?」て。
そうすると、話がまた深まって、頭に完全に定着する。その繰り返しです。
—— 本であれ会話であれ、忘れないためにとことん反復するんですね。
僕も会話内容をメモすることはあるけれど、あくまでも自分の言葉として残してあります。でも、メモを見ていると平田さんは相手の言葉のママで書き残すんですね。
平田:そうですね。だって、言い方ひとつひとつにみんなの個性が出ているじゃないですか。その人なりの言葉でしゃべっている。私は、それが大好きで。
だから、自分の言葉には直さないんです。
自分の言葉には、直さない。
本ではなく、いつも平田さんが取っているというメモについてポロリとこぼれた一言ですが、今回の取材を象徴する言葉に思えました。
お店のつくりかたや、本の読み方について聞きながら感じたのは、平田さんは”とことんわかろうとする人”だということ。
取材中、何度も「大好き」という言葉が平田さんの口から出たけれど、その感情をなおざりにせず、自分の腹に落ちるまで理解の歩みをとめない。
そうして、本当によいと自分が感じたものを、集めて、お客さんに提案していく。
そこには平田さんの熱量がたしかに込められてはいるけれど、その商品自身の、”モノの言葉”を書き換えてしまうような押し付けがましさは、ありません。
インタビュー終了後の 4/18、めでたく「問tou」はオープンしました。
気軽にぶらりと立ち寄れるような場所ではないけれど、だからこそ、そこに「問tou」がある意味を感じ取りながら、思い思いの時間を過ごしてみてほしい。
ただ珈琲を飲むだけでも、ただ本を読むだけでも、ただそこにいるだけでも、とても気持ちのよい空間が広がっています。
営業日:木・金・土
営業時間:11:00~16:00
※イベント開催時は営業日が異なります。詳細はイベントカレンダーをご確認ください。
posted by 飯田 光平
株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。
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