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2020-10-06

「本の中の星を見に行く」星にまつわる5冊の本を紹介

 

星を眺めること。
それは多くの人に開かれた癒しの体験の一つです。
夜空に浮かぶ優しい星の瞬きは、私たちの心を鎮め癒してくれます。

今回は「本の中の星を見に行く」をテーマに、夜空にではなく本の中に星を探してみました。星座の本や写真集、作中の星空が印象的な小説など、星にまつわる5冊の本。

実際の星は今夜にでも外で、今回は本の中の星を見に行ってみましょう。

 

 

本の上に浮かび上がる星座

『立体で見る〈星の本〉』/ 杉浦 康平

 

 

付属の3Dメガネを通して見ることによって、紙の上に星座が浮かび上がってくる、立体で見る星の本です。
本の上に浮かび上がる星を眺めること、それは現実の星を眺めるのとはまた違った楽しさがあり、つい時間を忘れて見入ってしまいます。

そしてこの本の素晴らしい点は、そうした楽しい仕掛けの先にしっかりと豊かな知識が存在していることです。
好奇心を刺激する仕掛けが、豊かな知識への架け橋として機能し、お互いに良い影響を与えあっている。
それがこの本が企画から完成までに10年以上の歳月を要し、1986年の初版から重版を重ね、今でも愛され続けている理由なのだと思います。

宇宙飛行の気分で全天88の星座を楽しめる、子供はもちろん大人にもおすすめの一冊です。

 

立体で見る〈星の本〉

 

 

 

雲の上から眺める星

『夜間飛行』/ サン・テグジュペリ

 

サン・テグジュペリの代表作の一つである「夜間飛行」は、郵便飛行業がまだ危険視されていた草創期に、事業の死活を賭けた夜間飛行に従事する人々を描いた作品です。
作中、パイロットが嵐に巻き込まれるシーンがあります。暴風と暗闇、燃料もつきかけた極限の状態。行き場をなくしたパイロットは暴風雨の切れ間に輝く星を見つけ、すがるようにその星を目指して上昇していきます。やがて雲を抜けたパイロットの目の前に、忽然と驚きの世界が現れます。

満天の星と月、照らされて眩しい程に光る雲。ついさっきまでの暴風雨とは真逆の、穏やかさと静けさに支配された凪のような世界。

パイロットはその光景を目にし、息を呑み、そして微笑を浮かべます。
生死をかけた極限の状態にありながら、そしておそらくはその後の自らの運命を理解していながらも。

初めて読んだ時、そのシーンがとても印象に残り、何度も読み返したのを覚えています。

今でもたまに物語を追体験したくなって、パイロットが雲の上で見たあの静かな星空に出会いたくなって、読み返す一冊です。

 

『夜間飛行』

 

 

 

あの頃に眺めた星

『逆光の頃』/ タナカカツキ

 

マンガ家タナカカツキのデビュー作。京都の街を舞台にした全12話の短編連作集です。

短編の一つ「銀河系星電気」という作品の中で、中学生の主人公が同級生の女の子と星を眺めるシーンがあります。
夏休みのある1日。誰もいなくなった夜の校舎。窓から差し込む月明かりの中、二人は宇宙の不思議さについて言葉を交わし、夜空を眺めます。
ほんの数ページの短いシーンですが、星を眺めるという体験を通し、思春期特有の心情のゆらめきときらめきが巧みに描かれたシーンです。
多感な時期に眺める星、それはやはり特別なものです。人はその時期を通り過ぎて初めてその特別さに気づかされます。

いつだって過去に戻ることはできないけれど、本を読むことによって、思春期の感覚でさえこうしてなぞり思い出すことができる。

静かな夜に腰を据えてゆっくりと読みたい。そんな物語です。

 

『逆光の頃』

 

 

 

全身で星を見るということ

『センス・オブ・ワンダー』/ レイチェル・カーソン

 

化学薬品による環境汚染にいち早く警鐘を鳴らした「沈黙の春」の著者であり、海洋生物学者でもあるレイチェル・カーソンの最期のメッセージ。
自然との触れ合いを通し、神秘さや不思議さに目を見はる感性を磨くことの大切さを説いた一冊です。

言葉、それはとても便利なものです。星を眺めるという行為一つとっても、言葉があるからこそ私たちは星の名前を知ることができ、その光が過去のものなのだと知ることができます。
ただその反面、言葉があるからこそ意味を限定し、本来もっと豊かなはずの星を見るという体験を、“ただ目で見る”という範囲に閉じ込めてしまっている場合もあるのではないでしょうか。

知ることは感じることの半分も重要ではない。作中の言葉です。

本の中の文字を追っていると、言葉を読みながら言葉から解き放たれていくような、そんな不思議な感覚があります。
知るのではなく感じるということを、そして神秘さや不思議さに目を見はる感性の大切さを、素晴らしい言葉の連なりによって教えてくれる、そんな名著です。

 

『センス・オブ・ワンダー』

 

 

 

私たちの星

『地球/母なる星』/ ケヴィン・W・ケリー

 

「宇宙から撮った一枚の地球の写真。それが人の目に触れると、それまでなかった新しい力強い考え方が解き放たれる」
天文学者フレデリック・ホイルが1948年に残した言葉です。
その言葉から半世紀以上、地球を宇宙から眺めて考え方が根本的に変わったという宇宙飛行士はたくさんいます。自分と地球。そして宇宙の中の人間の位置について、全く別の目で見るようになったと彼らは語ります。

例えばサウジアラビアの宇宙飛行士スルタン・ビン・サルマン・アル=サウドは、宇宙飛行の後次のように語っています。

「最初の1日か2日はみんなが自分の国を指していた。3日め、4日めはそれぞれの大陸を指差した。5日めには私たちの念頭にはたった一つの地球しかなかった」

宇宙から地球を眺めること、または写真でそれを目にすること、それは過去フレデリック・ホイルが予言したように確かに何かしら特別な体験なのでしょう。
宇宙飛行士の言葉が、そして何よりこの本を読んだ後の自分自身の変化が、そのことを教えてくれます

太陽系の第3惑星、宇宙に浮かぶ青い星、私たちの住む地球の写真集です。

 

『地球/母なる星』

 

 

 

 

今回は「本の中の星を見に行く」をテーマに5冊の本を選んでみました。
特殊な状況下で眺める星や宇宙から眺める地球など、現実では見ることが難しい星との出会いもあり、本の中の星は実際の星とはまた違うかたちで私たちを癒してくれます。

そして読書は時に、実際の星を眺めるという体験をより豊かにしてくれることもあると思うのです。
例えばある知識を得ることによって、あるいは何かしらの物語を通過することによって、いままでとは違う何かを星の瞬きの中に認めることができたのなら、それは本の力だとも思うのです。

 

本の中でも夜空でも、どうか皆さんが素敵な星空に出会えることを願って。

 

posted by バリューブックス 編集部

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