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2024-12-16
2020-08-11
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写真家、齋藤陽道。彼の写真は、生の躍動を感じさせながらも、どこかしんとした落ち着きを持っています。そんな彼の新刊は、家族の物語でした。
ろう者でありながら日本語を第一言語とする陽道さんと、日本手話を第一言語とする妻のまなみさん。同じろう者、と少し乱暴に括ることもできますが、ふたりが携えてきた言葉、そこから見ていた世界は別物です。さらに、新しく家族に加わった樹(いつき)さんは「聞こえる子供」でした。
異なる3人の生活。自然と、言葉について意識が向かいます。
印象深いのが、まなみさんが「い」「つ」「き」の3文字を用いて指文字による即興の寝物語をつくりだすシーン。ひらりひらりと空間を自由に行き来する指が描くのは、インクやドットで表現される文字とは別の、生身の体から生まれる”ことば”でした。音声や手話、といった形に縛られず、自分たちの身体のふるまいにことばが宿っていく。
本書を読み進めるうちに、文字の輪郭が薄れ、言葉と世界が溶けあっていくような心地を覚えます。この体が”ことば”を生み出し、世界と繋がっていく。そんな気づきに、ぶるっと体が震えました。
生まれて一度も海を見たことがない人々に、はじめて海を見せ、海原を見つめる背中と振り返った顔を撮る。ともすれば、ソフィ・カルの本作品はそんな一言で言い表せるかもしれません。
でも、まっすぐこちらを見つめる彼らの表情は、いくつ言葉を用意しても形容するのが難しい。戸惑いや、笑みや、涙を浮かべながら、新しい世界に出会ってしまった瞳が僕らを射すくめます。
posted by バリューブックス 編集部
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