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本に触れる。
その小さなきっかけを届ける
ウェブマガジン。

2020-07-06

バリューブックスからのラブレター。「納品書のウラ書き」にまつわる話。

 

 

こんにちは。

 

バリューブックスの神谷です。

 

自分は、今年の4月にバリューブックスに入社しました。

入社して以来、会社の事など勉強を重ねる毎日ですが、日々わからないことだらけ。そこで、わからないことはなんでもかんでも聞いてしまおうと、様々な先輩のもとに実際行ってみることにしました。

いままでバリューブックスから、本を購入いただいたことがある方はご存知かもしれませんが、一部の納品書の裏には、「納品書のウラ書き」という、本にまつわる文章が綴られています。

一体ウラ書きとはなんなのか? なぜ納品書の裏に? 担当者の飯田さんに話を聞きに行ってみました。

 

飯田光平  バリューブックスの編集者

神奈川県藤沢市生まれ。書店員、本のある空間づくり、書籍の編集などの経験を経てバリューブックスへ入社。

 

 

 

別に、本の紹介じゃなくてもいいと思っている。

 

神谷:
今日、飯田さんには「納品書のウラ書き」について聞いていきたいんですが、このウラ書きのはじまりの経緯というのはどういうものだったんですか?

飯田:
「納品書ウラ書き」は、自分が企画してはじめたプロジェクトで。いまはバリューブックスの編集者として、ウェブとか紙の印刷物の文章を書いたりしているんだけど、最初は社内の広告の分野にいたんだ。
広告の運用とかをしていて、その時はお客さまに対するアプローチって何があるのか?どんな形なら接点を持つことができるか?って考えていた。
そこである日、本を送るのもお客さまと繋がる手段の1つじゃないか、と気づいて。
ただ本を送るのではなく、その時に何かほかのこともできないかな、と考えていたら……

神谷:
納品書の「ウラ」に気がついたわけですね。

飯田:そう。いい場所みつけた!って(笑)

 

 

神谷:
このウラ書きで色々な本を紹介していますが、どういう目的をもって書いているんですか?

飯田:
まず言えるのは、本を紹介するためだけにやっているわけではない、ということ。お客さまとの接点を増やす、そしてその接点をより良いものにするというのが1番の目的かな。
バリューブックスは基本的にオンラインの本屋で、売り手と買い手が直接会うことがない。そうなると、僕たちとお客さまとの接点の1つって、本が届いた瞬間。その一瞬しかない接点を、なるべく豊かなものにしていきたいと思っている。

神谷:
たしかにそこで「おっ!なんだこれ?」と思ってもらえば、バリューブックスについて興味を持たれるきっかけを作れるかもしれないですね。

 

 

飯田:
そうだよね。たとえば amazon でうちの本を買う時って、「バリューブックスから本を買った」っていう認識を持っている人ってほとんどいないと思っている。みんな 「amazon から本を買った」と感じているんじゃないかな。
だから、このウラ書きがきっかけで、「自分はバリューブックスという本屋から買ったんだ」と認識してもらえたら、嬉しい。
そこから、本の販売だけじゃなくて、買取もしていることだったり、ブックバスで全国を巡ったり、自分たちの活動も知っていってもらえるといいなって。

バリューブックスに興味をもってもらえるようなきっかけをつくりたい、そのために本が届いた瞬間をわずかにでも豊かにできないか。その方法のひとつが、納品書のウラ書きを通して本の紹介をすることであって、極端なことを言えば本の紹介じゃなくたっていいとも思っている。
でも、そうした様々な可能性があるなかで、今は「本を紹介する」という方法を取っているからこそ、魅力的なものにはしていきたいな。

 

季節とともに、思いを届ける。

 

 

神谷:
今日とても聞きたかったのが、紹介する本の選び方について。本ってものすごい数があるじゃないですか。どうやって1冊(厳密にいうとメインとサブの2冊)を選んでいるんですか?

飯田:
このウラ書きをはじめるにあたって色々考えて、バリューブックスに在庫が多くあるものを紹介する案も頭に浮かんだんだ。でも、そもそもの目的を考えた時にそうじゃないなって。

紹介した本に関しては、バリューブックスにあって、それを買ってくれたらもちろん嬉しい。だけど、ほかの書店で買ったり、図書館で借りたりして読んでくれてもいいと思っていて。読んでくれた人が「こんな本を読みたかった」って新しい発見につながったり、単純に喜んでくれるような本を、なるべく紹介していきたい。だから、その可能性を高めるために、なるべく最近出た本とかを紹介するようにしているよ。

最初の方は、そこまで考えきれてなくて、紹介した時点でネットでもなかなか手に入らない本を紹介しちゃったりもしたけど(笑)

神谷:
なるほど……ただ、その中でも何かしらのルールはあるのかなと思っていて。たとえば東野圭吾さんの新刊は間違いなく面白い本だとは思うんですが、多くの人がすでに知っているし。

飯田:
あまりにメジャーな本は避けよう、という考えははあるけど、それよりもテーマを設けて紹介することを大切にしているかな。
納品書のウラ書きって老若男女の手に渡るもので、特定の層だけに届くものではない。だから、テーマをつくることを重要視している。1つのテーマを掲げて、そのテーマで本を届けることで、手にとってもらう人を少しでも増やせるんじゃないかと。

 

 

神谷:
へぇーー、そう聞くと、それぞれの号のテーマが気になってきます。1号だけ黒い背景でデザインされたウラ書きがありますが、この号のテーマはなんだったんですか?

飯田:
これは、真夏の時に出した号なんだよね。季節は誰しもに訪れるものだから、テーマの1つによくしていて。この時は「夏の夜空を見上げる 」っていうのをテーマにした。だから、デザイン的にも夜空をイメージしたものをつくりつつ、加古里子さんの『宇宙
を紹介したんだ。
ほかに、夏の時期だと、夏休みに自由研究の本を送りたいな思って、“大人だって自由研究でいそがしいんだぜ” をテーマに『キリン解剖記という本を紹介したり。

全体的に気にしている点では、あまりジャンルや内容に偏りを持たせないことかな。そして大前提として、すべて自分が読んで面白かったものを届けるようにしている。

 

 

神谷:
このウラ書きって、単純に本の説明をしているだとか、この本はここが面白い!といった解説ではなくて、飯田さんの近況や心境も綴られた手紙っていう感じがするんです。飯田さんの人柄も伝わってくるようなものになっている。

飯田:
「バリューブックスという会社から買った、ということを知ってもらいたい!」って、言い換えたら、自分の顔を知ってもらいたい、覚えてもらいたいっていうのに近くて。クサい言い方になるけど、ウラ書きというラブレターを送っているとも言えるかもしれない。
そこで覚えてもらえる「顔」っていうのは、もちろん自分だけじゃなくて、ほかの人だっていい。リアルの書店だと、顔や名前がわかる関係性でお客さまとやりとりをしていて、それがある種、安心や信頼や親しみに繋がっているんだと思う。

だから、オンライン書店のバリューブックスでも、顔が見えてくるようなものを発信していきたいんだ。

 

ラブレターの返事が、かえってきた。

 

神谷:
ウラ書きを読んだくれた方の反応はありましたか?

飯田:
とてもありがたいことに、結構あって。twitterとかのSNSでシェアしてくれたり、メールもらったり、直筆の手紙が届いたりもする。体にお気をつけて、みたいなものも(笑)

 

 

神谷:
えっ!すごい、本当にラブレターの返事が!

飯田:
そう。ラブレターの返事がきたり、これをみて買取の申し込みをしましたって言ってくれる人もいて、それはとても嬉しかったなぁ。

神谷:
著者の方から連絡いただいたっていうのを小耳に挟みましたが。

飯田:
過去に『ダイナソー・ブルース
っていう本を紹介したんだけど、ウラ書きを見てくださった出版社の人が、著者の方に連絡してくれて、ありがたいことにバリューブックスに直接電話を頂いたんだ。「飯田さんって人にぜひお礼を言いたいから、連絡先を教えてくれないか」って。自分もすごく嬉しくて、すぐ返信して色々やり取りをしていたんだけど、ある日「額に入れました!」ってメールと共に、本当に額に入れられたウラ書きの写真が送られてきて(笑)

神谷:
ウラ書き作家として冥利に尽きますね(笑)

飯田:
あと、この本には、不思議な循環も生まれていて。

『ダイナソーブルース』は、恐竜が絶滅した理由をめぐる、科学者たちの激しい論争を、地質学者である尾上さんがノンフィクションとして書き下ろした一冊。実は、文献を集めている中で、バリューブックスでも本を買っていたんだって。

ほんの小さなひとさじだけど、この本を生み出すことに自分たちも関係していて、それがまたウラ書きで紹介されるという、不思議で嬉しい循環が発生していたんだ。

 

 

神谷:
本当に素敵な循環だなぁ。あと、この本って「
閑人堂」という出版社の創業1冊目の本なんですよね。

飯田:
そう、なんでこの本が1冊目だったのか、すごく気になる(笑)尾上さんにも出版社の方にも、話を聞いてみたいんだよね。
この本を紹介した時の裏話というか、1つのきっかけがあって、この本読んでとても面白かったから、色々と情報を調べている中で、ある本屋で出版イベントをやります!っていう情報をtwitterで見つけたんだ。でも、ちょうどこの頃にコロナが広がってきて、結局イベントは開催できなくなってしまったようで。

創業1冊目のとても大切なイベントだっただろうし、こんな面白いものが知られる機会がなくなるのはすごく悲しくて。ウラ書きで紹介することで、ちょっぴりでも本が知られる機会をつくれれば、という思いもあった。

 

お客さまとの接点をより豊かにするために。

 

こちらの「納品書のウラ書き」では、映画化もされた「こんな夜更けにバナナかよ」を紹介している

 

神谷:
本じゃなくて、映画をメインに紹介している回がありましたよね。

飯田:
そうそう、バリューブックスって映画用のセットとして本の貸し出しもしていて、この回で紹介した「こんな夜更けにバナナかよ」では、映画内の本棚づくりにも協力しているんだよ。
原作の本も好きだったから、映画が上映するタイミングで紹介したんだよね。

映画を紹介することで、映画を見て、それがきっかけで原作の本にも手を伸ばす、そういうこともあるんじゃないかって。本を紹介して、本を手にとってもらうっていうパスの出し方もあるし、別にそれに限らず、映画を紹介するっていうパスを出すのもいいなって。

神谷:
じゃぁ今後も本に限らず、別のパスを回していくこともあるかもしれないんですね。

飯田:
もちろん、そうしていきたいな。あと、自分はお客さまとの接点をつくりたい、豊かにしたいだけだから、必ずしも自分自身が書かなくてもいいなって思っている。

もしかしたら、作家さんに書いてもらって、ここだけで読める連載小説があるとかもね。ここは自分のためのスペースだとは思っていない。色々な展開ができるはずだよね。

神谷:
連載小説面白いですね!読んでみたいです!ちなみに、毎月どれくらいの部数が人の手に渡っているんですか?

飯田:
ざっくりした計算だけど、1日1万冊の本を発送しているから、1ヶ月で30万部くらいは送っていることになるね。ウラ書きはすべての納品書には書かれていないし、そもそも読まれているかどうかわからないけど、30万部って考えると、コンビニに並んでいる雑誌と近いかもしれない(笑)

神谷:
「納品書のウラ書き」ですが、直近はどんなことを書かれたんですか?

 

直近に発行した「納品書のウラ書き」

 

飯田:
最近は、やっぱり新型コロナウイルスに関連せざるえなくて。
ただ、ストレートに感染症に関連する本を紹介するのも違和感があって。なんと言うか、みんないま疲れているんじゃないかと思ったんだ。

神谷:
俗にいう「コロナ疲れ」ですか。

飯田:
うん。世の中では在宅が増えて、本を読もうとする需要が伸びている。バリューブックスとしてはありがたい話だよね。だけど、いろいろな情報が溢れているなか、さらに本を読むことは、結構体力を使うんじゃないかな。
実はただぼーっとしてる方が価値あるのかもしれないと思ったり。
だから、そんな状況下でわざわざ本を買ってくれた人に対して、そういうメッセージを伝えたくて。焦らなくて大丈夫ですよ、と。本を紹介しつつも、読まなくたっていいんだ、というメッセージも含めて今回は書いたんだ。

基本的には、隔月で新しい号を出しているんだけど、いつ状況が変わるかわからないから、今回は特別号として期間を限定せずに送り届けてみようと考えているよ。

神谷:
これからもいち読者として納品書のウラ書きを楽しみにしてます!
そしていつかは自分も書けたら(ボソり)。

 

 

 

 

 

「納品書のウラ書き」の第1号の記事は以下のリンクよりご覧いただけます。

 

納品書のウラ書き vol.1『世界をもう一度、味わいなおす』

 

今後バリューブックスの各 SNS にて、過去のアーカイブも含めた「納品書のウラ書き」を配信してきたいと思います。ぜひ覗いてみてください。

 

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posted by 神谷周作

愛知県生まれ。
都内にてウェブメディアを運営する企業に勤めたのち、愛猫と一緒に上田に移住してきました。
趣味は、レンチキュラー印刷がされたグッズの収集。

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