納品書のウラ書き 特別号「交換不可能でかけがえのない優しさの記憶」
2024-09-10
2024-10-01
復刊前から話題を呼んだ『長電話』の発売前重版が決定いたしました。
現在、バリューブックスの以下のサイト、全国の書店から購入可能です。
今回の復刊によせて編集者・若林恵氏や哲学者・國分功一郎、小説家・朝吹真理子氏、ラッパー・TaiTan氏らによるコメントを公開します。
「ププーッ・プーッ・プーッ……グッギリ・グッギリギ・グッギリ……プーッ・プーッ・ププー・プッ」まで再現した、ほとんど手を加えていないように思われる、ライブ感にこだわった文字起こしにも、異様に充実した、匿名の執筆者による脚注にも、〈知りたい〉という時代の渇望が映し出されている。高橋悠治についても知りたい、坂本龍一についても知りたい、彼らが話していることも知りたい、彼らがどんな風に話しているのかも知りたい、とにかく知りたい、知りたいんだ!それは僕が少しだけ知っている八〇年代のもう一つの姿である。昔々の、インターネットなど影も形もない時代、プラザ合意もまだ先だ。日本社会は浮かれつつあった。けれどもそこにはまだ〈知ること〉に対する粗野な欲望がこんな形で生きていた。今の人たちがどんな風にこの本を読むのかは知らないが、そこにあふれる〈とにかく知りたい、知りたいんだ!〉は僕にとって活力の源だ。
本をひらくと、ふたりがいましゃべりはじめたようにきこえてくる。言葉は、読むひとがいるかぎり、新鮮に、何度も生まれなおす。
電話での会話は、文字になることはないから、切った後、おしゃべりした体感だけ残るものなのに、通話が文字で残ってしまった。約40年前の通話記録だけれど、いまとなにが違うのだろうと思って怖くもなる。
時間は、昨日今日明日へと一本の線でつづいているようにふるまっているだけで、現在(いま)はあらゆる時間とつながって同時に流れている。その感覚を読みながら思いだしていた。
言葉が遅くて安心する。これだけ博識同士の会話なのだから、さっさと結論を急げばいいのに、ふたりはそうしない。あくまでも会話のための会話を楽しむように、意味よりもリズムを、情報よりも冗談を、断定よりも可能性を、常に優先する。どんなに議論が深まって核心へ迫っても、どちらかが必ず筋を逸らして、「フフフッフ」とか笑いながら別の話題へと逃げてしまうのだ。無論、その度に、読者は宙吊りになる。だけれども、なぜだろう。そうしたやりとりの応酬が、現代を生きる私には羨ましい。ふたりは普通に会話をしているだけだろうに、たったそれだけのことが充分に羨ましい。総じて、言葉が論破だとか動員だとかの道具に成り果てた時代の処方箋として読んだ。今、復刊されることに価値がある。
若林恵(編集者・黒鳥社)による長文レビューは以下よりご覧いただけます。
『長電話』は、1984年に坂本龍一主宰の出版社《本本堂》から最初に出版された、 作曲家・ピアニストの高橋悠治と坂本龍一の対話を収録した一冊です。
長電話で語られる内容は音楽や芸術の枠を超え、多岐に渡り、二人の軽妙な会話から飛び出す言葉の数々は大きな示唆に富むものでした。事実、この本は“長電話“という手法も含め、多くのアーティストに影響を与えることとなり、絶版である今では幻の名著と呼ばれるに至っています。
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https://1satsu.jp/item/18004/
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posted by 神谷周作
愛知県生まれ。
都内にてウェブメディアを運営する企業に勤めたのち、愛猫と一緒に上田に移住してきました。
趣味は、レンチキュラー印刷がされたグッズの収集。
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