2026-01-16

【本屋で本を書く】月岡ツキ『傷つきながら泳いでく』書き下ろしエッセイ


 
 
こんにちは。バリューブックスの実店舗「本と茶NABO(ネイボ)」店長の池上です。
2026年1月20日発売のエッセイ『傷つきながら泳いでく』の著者、月岡ツキさんは、NABOによく来てくださる常連さんでもあります。
 
『傷つきながら泳いでく』の7割はNABOで執筆したことを聞き、驚きました。本屋は本を読みにくるところであって、書きに来る場所だと思っていなかったからです。そのことは、本が生まれてくる過程に参加できたようで、とてもうれしいことでした。
 
そこで、一体なぜ本屋で本を書くのか、月岡さんにとってNABOや本屋はどういう場所なのか、エッセイを書き下ろしていただきました。
 
バリューブックスとNABOで購入するとサイン入り、限定アクリルキーホルダー付きです。ぜひチェックしてみてくださいね。
 
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著者の月岡ツキさん。NABOにて

 
 

本屋で本を書く / 月岡ツキ

 

NABOに行くとだいたいカウンターに座る。お茶のティーポットセットを頼んで、来るまでの間に新刊の棚を見に行き、気になる本があったら買う。お茶を飲みながらもだもだと本をめくり、なじみの店員さんとお喋りしてしばしまったりする。この「まったり」「もだもだ」がないと原稿を始められない。原稿を書きにきたんだから早く書けよというところなのだが、原稿を始めるためには「まったり」とか「もだもだ」が絶対に必要だ。気持ちの準備運動みたいなものである。そしてNABOにはいつも「まったり」「もだもだ」していい空気が流れている。本があって、他者がいる。

 
 

NABO店内風景

 
 
エッセイ集『傷つきながら泳いでく』を書いている間も、NABOに通った。原稿の7割くらいはNABOで書いたと思う。静かな家の机よりも、いろんな人が来て本を買ったりお茶を飲んだりお喋りしたりしているこの店の方が、集中できるのだ。もっと言えば、比較的静かな2階のテーブル席よりも、よく人が出入りするレジ横のカウンターの方がいい。他のお客さんたちや店員さんの会話を聞いているわけではないのだけど、人間の気配がある場所の方が言葉が出てくる。ただ単に寂しがりなのかもしれない。
 
 

 
 
『傷つきながら泳いでく』には昔のことをたくさん書いた。まだ自分一人ではいろんなことがままならなかった子どもの頃、救いになったのは学校や町の図書館だった。家のことや住んでいる場所のことや友達のこと、自分ではどうにもできないことたちについて、「自分にはどうにもできないんだ」ということもまだ理解できていなかったから、ただそのままずっと傷ついていた。子どもというのは、傷を回避する方法も、傷つけない方法も知らない。もしかしたら自分が傷ついているということにさえ、気づいていなかったかもしれない。でもやっぱり毎日、しんどかった。
 
 
そういうとき、気持ちが落ち着くのは「本がある場所」で、いろんな本の背表紙が並んでいるところにいると、「世界はここだけではない」と言ってもらえている気がした。盾みたいにして本を開いて、じっと読んでいる間は、世界が私を傷つけてこなかった。
 
 

NABO小説コーナーの一部

 
 
大人になって、「自分にはどうにもできないことがある」ということと同じくらい、「自分でどうにかしていける」ということも覚えて、少しは生きるのが辛くなくなったような気がする。それでも毎週のように本があるところに行って文章を書いているのは、それが私にとって、生きていくのに不可欠な行為だからだろう。本があって、他者がいる。いろんな世界があって、いろんな人がいる。でももう「ここから早く助けて欲しい」とは思わない。「だから自分もここにいていいんだ」と、素直に思える。
 
 
世の中は、人間のことを信じられなくなるような出来事で溢れている。人が人にこんなことをするのか、ということが毎日起こっている。人が本来は知性とか優しさとかを持って、何かを乗り越えていける生き物だということが、どんどん信じられなくなっていく。
 
 
だけど、世界の様々な諍いをひとりでどうにかすることはできないとしても、一人の人間として、自分という人をもう少し信じてみる、ということはできるかもしれない。人間は繊細で、生きている限り傷つき続ける。それでも、傷は癒えるし、またやり直せる。そういう強さがあるってことを、忘れたくない。そのために私は本を読んで、他者と関わり続けるのだと思う。私たちは弱くて小さな魚だけれど、傷つきながら泳いでいける、逞しい生き物でもある。そんな気持ちで書いた本、『傷つきながら泳いでく』です。どうかよろしくお願いいたします。
 
 

 
 
「シゴデキ」を目指すも休職。地元と東京への愛と憎。結婚と産まない選択……。
 
「がんばらなくていいよ」って本当?
 
ご自愛って、結局なんなんだ?
 
地元に戻ったほうが幸せなのか?
 
そんな疑問を抱きつつ過ごす同世代に読んでほしい、
 
いま30代女性から圧倒的支持を集める書き手が送る、もがきながらサバイブする私たちへのエール。
 
 

バリューブックス限定特典

ことばのアクリルキーホルダー

 

「全く安全ではないこの現実の海を、どうにかこうにか泳いでこうぜ。」デザイン:佐々木俊

 
 
本文に登場することばをアレンジして、透明感のあるアクリルキーホルダーに。デザインは、最果タヒさんの装丁などで知られ、文字のデザインがとびきりすばらしいデザイナー「佐々木俊」さん。『傷つきながら泳いでく』の装丁も手がけていたことから、キーホルダーのデザインも受けていただきました。
 
言葉が意味を脱ぎ捨てて「かたち」として気持ちのいい、とても素敵なものができあがりました。本作の読後感をそのままかたちにしたような、透明なボディに白文字をのせた、シンプルなアクリルキーホルダーです。
 

本書購入者限定「送料無料」クーポン

 
クーポンコード:TSUKIOKA
 
“2000円以上の購入”でこちらのクーポンは使用可能です。月岡ツキさんの他の書籍とともに併せてぜひご購入ください!
 
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posted by 池上 幸恵

長野県出身上田市在住。長野県上田市にてバリューブックスが運営する本屋「NABO」(ネイボ)店長。
趣味は、そのへんの土をもらったり掘ったりしたものを練って作った「土偶」作りと「日記」を書くこと、庭いじり。

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