【買うだけで寄付になる】『おやつのおぼうさん おすそわけで子どもたちを笑顔に!』
2025-11-12
2025-12-19

2025年10月10日に発売のバリューブックスオリジナルビール第二弾「BOOK SESSION IPA」発売を記念して、三回に渡ってお届けする、ほろ酔い企画。
第二回は、長野県在住の詩人・ウチダゴウさんと、古本屋「書麓アルプ」の店主・小野村美郷さんによるセッション。森の中にあるウチダさんの自宅にて、愛犬のロッホとグレンに見守られながら、暖炉の火を囲んで集まります。
実はここ10年以上、ちゃんと本を読んでいないというウチダさん。
一方、小野村さんは、読むよりも「集める」ことに惹かれてきた本屋。
詩や短歌、木彫り熊、絵本。
ほろ酔いの時間だからこそこぼれ落ちる、本との少しアンビバレントな関係を、ビール片手に語ります。
▶︎オリジナルビール第一弾「BOOK IPA」についてはこちら

ウチダ:じゃあさっそく、乾杯!
小野村:乾杯〜。
ウチダ:僕の本を扱ってもらったり、詩の朗読会の会場としてアルプを使わせてもらったりしているので、会う機会は多いですけど、こうして一緒に飲むのは初めてですよね。
小野村:そうですよね。量はそんなにいけないです。
ウチダ:そっか。お酒の種類はなんでも?
小野村:ビールとかシャンパンとか、シュワシュワしてるやつが好きです。

ウチダ:これおいしいな。「BOOK SESSION IPA」っていうんだ。
小野村:うん、フルーティで爽やかな感じ。飲みやすいですね。
ウチダ:アルコール4.5%だから、本を読みながら飲むのにもいいってことですね。いやあ、ありがたい。
小野村:(笑)。普段は飲みながら本読んだりするんですか?
ウチダ:ここで爆弾発言をすると、僕は最近ぜんぜん本を読んでないんです。
小野村:最近ってどのぐらいですか? ちょっとお休みしてる感じですかね。
ウチダ:いや、10年以上はちゃんと読んでないかも。だからめちゃくちゃ読んでないです。学生のころは月に15冊ぐらい読んでましたが。
小野村:当時はどんなジャンルを読んでたんですか?
ウチダ:海外のも日本のもなんでも。中学生のときだったら沢木耕太郎の『深夜特急』とか。それまで恋愛小説にはいっさい興味がなかったのに、高校生になったら急に江國香織、村山由佳、鷺沢萠を読み出したりして。

小野村:へえー。なんか良いですね。
ウチダ:まわりにそんな男子はいなかったけど(笑)。詩を書き始めたのが高校ぐらいなんですけど、一番最初に読んだ詩は、確か、小学高学年の頃、中学受験の設問をきっかけに手にした、高村光太郎の『智恵子抄』です。小野村さんはどうですか?
小野村:仕事柄すごく読んでそうに見られるんですけど、今はたくさん読むかっていうとそうでもないんです。本屋を始めたのも、本を集めるのが好きっていうのがきっかけなので。
ウチダ:ほう。読むよりも集めるのが好きなんだ。
小野村:もちろん読むのも好きですけど、積読が多いタイプなんです。自宅は壁一面を木箱と板で本棚にしていて、それでも入りきらずにダンボールに入った状態の本とかもあります。

ウチダ:本はどんなところに惹かれて集めたくなるんだろう。
小野村:今は電子書籍も増えているけど、やっぱり形あるところというか、手ざわりがちゃんとあるのが好きというか。集める理由としてはそこが一番かなって感じですね。
ウチダ:本がある空間も好き?
小野村:はい。過去に働いていた大型書店はけっこうな物量があったので、夜勤でお客さんが誰もいない店内っていうのがもう最高で。
ウチダ:それって店員としてどうなの(笑)。でもわかる。書店員さんならではの醍醐味っていうかね。

小野村:しばらく本を読んでいないというゴウさんが、今日はどんな本を選んだのかすごく気になります。
ウチダ:お酒に合いそうな本ってことで、まずは谷川俊太郎さんの『夜のミッキー・マウス』。谷川さんの毒っぽいところが出ていて好きなんです。ただ人前で声に出して読むには勇気がいる内容だから、お酒がまわってから読んだほうがいいかもしれない。

小野村:(目次を見ながら)これとか、有名な詩もありますね。
ウチダ:そうそうそう。生と性にまつわる詩が多いから、飲んでるときぐらいがちょうどいいんじゃない? と思って。
小野村:詩って、お酒をちびちび飲みながら読むのにちょうどいいですよね。私が選んだのも詩や短歌が多めです。すごく迷いながらがんばって絞り込みました。
ウチダ:ダンボールを抱えてやってきたから、何を持ってきたのかと思えば全部本でびっくりしたよね(笑)。これは山にちなんだ詩集?

小野村:そうです。針ノ木岳っていう長野と富山にまたがる北アルプスの山があるんですけど、私はそこの山小屋で働いていたことがあって、そこに串田孫一さんが針ノ木岳の山頂で詠んだ詩が飾ってあったんです。後日古本屋で見つけたこの『山の詩集』のページをめくってみたら、その詩が載っていて、うれしい出会いだなと思ってすぐに買いました。
ウチダ:山好きの人からしたら、それは絶対買っちゃうよね。ちなみに孫一さんの息子さん、演出家で俳優の串田和美さんの朗読を聞いたことがあるのだけれど、声がまたいいんだよなあ。おじいさんになってからもどこかに少年を感じる瞬間があって。
小野村:和美さんの朗読もいいですよね。帯には「この一冊をポケットに 山を歩いてみませんか」って書いてあるんですけど、ポケットに入れるにはちょっと大き過ぎる。そこも含めて好きなんです。

ウチダ:その白い本は?
小野村:これは『雪のうた』という歌集で、100人の歌人による100首をまとめたものです。雪以外にも雨、海、花、月、夢……みたいに色んなテーマがあります。
ウチダ:ってことは山もあるのかな?
小野村:今のところないですね(笑)。いつか読んでみたいなあ。ゴウさんは短歌好きですか?
ウチダ:実は僕、短歌に対してずっと思ってることがあって、短歌ってずるいんだよね。

小野村:ずるい、ですか(笑)。なんでそう思ったんでしょう。
ウチダ:なんでだろうな。詩と違って瞬時に終われるところ。あの短さはずるいよなあって。まあ、そこが良さなんだけどね。
小野村:短歌って、ショート動画が全盛期の今の時代にも合ってる気がします。さっきの歌集のシリーズには『私のうた』っていうのがあるんですけど、1ページ毎にお題があって、自分で考えた歌を書いていくノート仕様になってるものもあるんです。
ウチダ:もし僕が短歌に手を出したら、詩が書けなくなっちゃうかも。その逆もあるかもしれないけど、今はなんとなく距離を置いてる。だから、読みたいんだけど読みたくないみたいな感じ。短歌とはそういう存在であり関係です。

小野村:木彫り熊の本を紹介するからと、お気に入りの木彫り熊も連れてきちゃいました。このふたつは北海道の洞爺湖の近くのお土産屋さんにあったものと、京都の古道具蚤の市で見つけたものです。
ウチダ:うちにも以前アルプで買った木彫の熊がいますよ。

小野村:ありがとうございます。『熊彫』は木彫り熊のガイドブック的な1冊で、名古屋のON READINGさんの出版レーベルであるELVIS PRESSが発行元です。最近買った『たしかに熊だが』は、木彫り熊の歴史をテーマにしたもはや時代小説みたいな感じの本。いなもあきこさんの1作目だそうで、坂巻弓華さんの装画も素敵ですよね。
ウチダ:実在する人物が出てくる小説っていうのも面白い。今は木彫りの熊が好きな人も多いから、これは気になる人多いだろうなあ。木彫り熊はどのぐらい集めてるの?
小野村:大きいのから小さいのまで、自宅と店にあるので50体ぐらいですかね。
ウチダ:おおー、すごい。じゃあ僕の番。ライナー・チムニクというドイツの絵本作家の『レクトロ物語』という本です。今はもうなくなっちゃったけど、パロル舎っていう出版社が出していて、ほかにもチムニク作品を読んで面白いなと思って買ったんですよね。
小野村:挿絵も多くてかわいいですね。線画のタッチもいいなあ。

ウチダ:うん。あったかいんだけど、ちゃんと寂しさを感じるっていうかね。
小野村:(本の後ろを見ながら)“いつも新しい自分を夢見ているレクトロは、道路掃除夫、駅長代理、飛行船のビラまき係など、風変わりな仕事につきますが、そのたびに奇妙な事件がふりかかり、どの仕事も長続きしません……”。
ウチダ:仕事が続かない人間の話なんだけど風刺も効いていて、最後はけっこう衝撃的な終わり方をするんだよね。
小野村:そういわれるとかなり気になります。
ウチダ:それから、田口犬男さんの『モー将軍』。一般の人にとってはおそらく”知らない詩人”になるとは思うのだけれど、ぼくのなかではONE OF THE GREATEST POETSです。大学生の頃だったか、ぼくはこの人の詩集を読んで、当時の自分が詩でやりたかったことをすでに、そして完璧な状態で表現していて、圧倒的な敗北感があったね。今ぼくはかなりポップな立ち回りをしているし、一見すると違うタイプの詩人だけれど、社会や人間への憂いと愛情をユーモラスな寓話に潜ませて書いてくる感じは通じていると思っています。
小野村:そういえば、ゴウさんがしばらく本を読まなくなったのって、何か理由やきっかけがあったんですか?

ウチダ:そんなに深い理由はないんだけど、本屋さんって本の表紙とか背表紙の言葉がずらっと並んでいて、つまりそれって全部その人たちの声であり思想じゃないですか。その圧にどうしても耐えられないっていうか、みんな静かにしてくれよ、みたいな(笑)。
小野村:私と真逆ですね(笑)。本に囲まれてると落ち着きますし、ないとそわそわしますもん。
ウチダ:学生の頃はよく通っていたし、それこそ大型書店なんてオアシスのような場所でもあったんだけど、どういうわけかしんどくなっちゃって。おそらく本格的に詩を書くようになって、言葉と向き合う時間が増えてからなのかな。
小野村:人の考えや価値観に引っ張られないようにってことなんですかね。
ウチダ:ぼくにとっては、詩って〈言葉〉ではなくて、〈詩という存在そのもの〉なんです。たとえば「ぼくが詩を書く」のではなくて、ちょっと大袈裟にいうと、「詩の語りをぼくが聞いて、それを読者や観客に渡す役割としてぼくがいる」感覚。
書店に並ぶ本の言葉は〈人間〉によるものですよね。いっぽう、ぼくが日々接している詩のことばの話者は〈詩〉なんです。後者と過ごす時間が濃くなって、もうそっちとの会話が長くなっちゃったものだから、本の言葉が読めなくなっちゃった、ということだと思っています。 逆にいうと、モノとしての本は好き。というか、さっきから本に対して消極的な発言ばかりしている僕ですが、なんと今年は3冊も本を出してるんです。言ってることとやってることが矛盾しまくりですね。
小野村:続々と出されてましたよね。これは絵本ですか。表紙がインパクトあります。

ウチダ:『せんめんじょできっちんで』は、2024年の夏にPLAY! MUSEUMで開催された「オバケ?」展がきっかけで生まれた本です。僕が展覧会で書いた詩を元に、絵本作家のザ・キャビンカンパニーさんが絵を描いてくれて、ブックデザインは髙田唯さんです。ブルーシープさんから発行されてます。
小野村:一番新しいのは犬の詩集ですか?
ウチダ:そうです。『なんてすてきないぬ』は今年の11月に発売したばかり。貼り絵作家のちぎらまりこさんとつくった、犬好きによる犬好きのための本で、犬好きたちの四方山話を収録した対談コラムもあります。
小野村:犬好きにはたまらない内容ですね。もう一冊はどんな内容ですか?
ウチダ:『どうしようもなくだれかを好きになること』は、若者たちや、かつて若者だったものたちの恋模様を書いた詩をまとめています。キュンキュンする詩もあれば、別れの詩もあるし、ちょっとエロティックな詩もある。

小野村:ビールとの相性もバッチリですね。ゴウさんって、ほんとうにいろんな詩を書かれてますね。
ウチダ:僕にとっての詩は、文学作品じゃなくてエンターテインメントだと思ってるんです。音楽を聴いたり映画を観たりしたときに思わずグラっときちゃうような感覚を、詩を読んだときにも味わってもらえたらすごくうれしい。
小野村:そういう感覚って、本読んでるときもありますよね。今日はひたすら好きな本の話ができて楽しかったです。ロッホとグレンもありがとう!
ウチダ:こちらこそ楽しかった! 近々また続きをやりましょう。

詩人・ウチダゴウさんセレクト
▶︎『どうしようもなくだれかをすきになること』著:ウチダゴウ
▶︎『せんめんじょできっちんで』著:ウチダゴウ、ザ・キャビンカンパニー
書麓 アルプ・小野村美郷さんセレクト
▶︎『熊彫 〜義親さんと木彫りの熊〜』 発行:ELVIS PRESS
▶︎『たしかに熊だが』 著:いなもあきこ
テキスト:井上春香
撮影:篠原幸宏
posted by バリューブックス 編集部
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