【ほろ酔いで語る「本の話」】第一回 仕事おわりのセッション
2025-10-23
2025-11-04

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冷たい風に、冬の気配がまじるこの季節。忙しさのなかで、心がふっと立ち止まる瞬間はありませんか。そんなときは、あたたかな言葉と静かな物語に身をゆだねてみてください。日々のささやかな出来事がそっと胸にしみて、「今日も、これでいい」――そんなふうに自分をやさしく包みなおせる6冊です。
雪沼とその周辺
堀江敏幸 著
季節は十一月。閉業をむかえたボウリング場の営業最終日。夜九時になり、誰も来ないまま店を閉めることになるだろうと思っていた主人のもとに、トイレを借りに来た一組のカップルがやってくる。川端康成賞を受賞した名短編「スタンスドット」他、山あいの小さな町「雪沼」を舞台にして語られる温かな余韻あふれる連作短編集。
大聖堂
レイモンド・カーヴァー 著、村上春樹 訳
交通事故で子どもを失ってしまった夫婦の深い悲しみと、小さな希望を描いた名短編「ささやかだけれど、役に立つこと」を含む、アメリカの作家レイモンド・カーヴァーの代表的な短編集。村上春樹の端正な訳文が、どこにでもいる人々の人生の中に生じる悲喜こもごものささやかな瞬間を、繊細な筆致で描き出します。
ハレルヤ
保坂和志 著
猫との日々を通して、生きることと別れの意味を見つめる短編集。保坂和志が描くのは、猫とともに過ごす穏やかな時間と、そこに流れる生命のリズムです。
失う悲しみの奥にある温もり、そして残された記憶と時間から呼び起こされる、生きることの喜び。猫の動きや仕草の描写が完璧で、まるで今そこに飛んだり跳ねたりする猫を見ているようです。
世界はうつくしいと
長田弘 著
日々のなかにある小さな美しさを、澄んだ言葉で丁寧にすくい上げる詩集。長田弘の詩は、景色や記憶、そして心の奥に眠るやさしさを呼び起こします。読むたびに、あたりまえの一日が少し違って見えてくる。悲しみのあとにも、世界はこんなにも美しい――そんな気づきを手渡してくれる一冊です。
ちいさなトガリネズミ
みやこしあきこ 著
森の奥に暮らすトガリネズミの、ささやかな日々を描いた絵本。朝の光、仕事の合間のひと息、夕暮れの食卓――小さなできごとのひとつひとつが、ゆっくりと心を満たしていきます。みやこしあきこの柔らかな絵が、日常の時間をやさしく包み込む。あわただしい毎日の中で、小さな幸せに気づかせてくれる物語です。
コスモス
光用千春 著
母親が家をでたあとに始まった、落ち込んだ父親とのふたり暮らし。小学3年生の花さんが過ごす、その日常を描いたコミックです。
こどもをこどもっぽく描かずに、むしろ花さんの冷静な言葉は、背筋が正されることばかり。気の抜けたような線とクスッと笑えるセリフには重苦しいところが全くなく、心が軽くなるような読後感があります。
posted by バリューブックス 編集部
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