読書をするためだけの時間「NABO 読書室」はじめました
2025-01-31
2025-03-28
2021年(15期)にバリューブックスは、創業以来はじめての社長交代を行いました。役員体制も刷新し、「どっちつかずの組織」を運営していくなかで、経営戦略として成功した部分もあれば、新たに見えてきた問題もありました。18期を迎えた2024年7月、新たな課題と向き合うべく、初の女性社長として鳥居希が代表取締役に就任、さらに女性スタッフ2名を新たに執行役員に迎えました。
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【17期までの役員構成】
・代表取締役 清水健介
・取締役副社長 中村和義
・取締役 清水健介
・取締役 鳥居希
・取締役 内沼晋太郎
【18期からの役員構成】
・代表取締役 鳥居希
・取締役 中村和義
・取締役 中村大樹
・取締役 清水健介
・取締役 内沼晋太郎
・執行役員 相澤明菜
・執行役員 水野恵魅
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二度目の代表交代、そして新役員の選出には、どんな背景があったのか。
新体制となって目指す、組織の在り方とは。
内沼晋太郎の進行とともに、さまざまなキャリアや環境を持つ、8名の役員が語り合います。
(※この座談会2024年7月に開催されました)
▼前回の座談会記事はこちら
『「どっちつかずの組織」を本気で目指すために。社長交代、役員メンバー変更のご報告と、私たち6人の思い(2021/07/16)
▼代表就任時の鳥居希のコメントはこちら
『B Ambitious for Good ともに紡ぐ新たなページ 【新代表取締役 鳥居希からのメッセージ】』(2024/07/06)
▼新たな執行役員2人の紹介はこちら
本屋で働くわたしたち vol.7 【 バリューブックスのスタッフ紹介】
本屋で働くわたしたち vol.8 【 バリューブックスのスタッフ紹介】
内沼晋太郎:まずは清水さん、社長を3年間務めてみてどうでした?
清水健介:そうですね……率直に言って、かなり大変な3年間でした(笑)。赤字だった状況を脱するために、「どっちつかずの組織」を目指し、マーケティングやサービス開発に集中したことで、業績は改善しました。一方で、効率を優先する場面が増え、結果的にスタッフの働きやすい環境を整えるという点では、不足があったと感じています。
内沼晋太郎:効率を重視することと、スタッフが働きやすい環境をつくるという、その狭間のなかで、戦っている印象でした。
清水健介:そうですね。倉庫で働くスタッフの大半は女性スタッフですが、組織のトップには男性が多いこともあって、寄り添いきれない部分もあったのかもしれません。いろいろな人と話をしていく中で、社会問題になっているジェンダーギャップが、自分たちの会社にもそのまま当てはまっているということに気づきました。
会社として次のステージに進むためには、入社時から会社の利益だけでなく、社会と環境の利益も同じように大事にするB Corp認証の取得に向けて動いていた鳥居さんが、この課題に深く関わってくれることがベストだと感じました。
内沼晋太郎:鳥居さんが次にバトンを受け取ったわけですが、その決断に至るまでにどんな思いがあったのでしょうか?
鳥居希:ジェンダーギャップの問題はずっと頭の中にありました。バリューブックスのスタッフの多くは女性なのに、昨年の時点で女性役員は私だけ。意思決定の場にほとんど反映されていないという状況に疑問を感じました。
内沼晋太郎:B Corporation™︎(以下、B Corp)としても、ジェンダーギャップは大きな課題ですよね。
鳥居希:B Corpは「あらゆるバックグラウンドを持つ人が、、公平に働ける環境」をつくることを目的としています。2022年に、バリューブックス出版の1冊目として『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』を出版しましたが、制作過程では、自分たちは公平な環境を十分に作れていない、その矛盾をすごく感じていました。そこで、次の役員体制では女性の比率を増やし、より多様な声を反映できる組織をつくる必要があると考えたんです。
内沼晋太郎:そこで、新たに2名を役員として迎えることにしました。
鳥居希:自分は女性という共通項はあるけど、子供もいないし結婚もしてない。家庭を持って働くスタッフも多いので、彼女たちの声を代表するには私だけでは足りないと思いました。そこで、子供を育てながらキャリアを重ねている2人に声をかけました。
役員会の在り方として、偉い人が集まって意思決定する場というより、もう少し軽やかで、みんなの気持ちを代弁する場でありたいと思っています。
内沼晋太郎:新しく役員に選ばれた水野さん、相澤さんのお二人にもお話を伺いたいと思います。お二人ともまだ小さいお子さんの育児の最中でもありますよね。それぞれどのような経緯でバリューブックスに入社し、キャリアを築いてきたのでしょうか?
水野恵魅:私は結婚が早かったので、一人目が幼稚園に入るタイミングで社会へ出ました。ちょうどその頃、リーマンショックがあり、何十社応募してもどこにも雇ってもらえませんでした。派遣や内職を繰り返し、数年後に友人の紹介でバリューブックスにパートタイムで入社した頃には、働けるならなんでもいいという状態でした。だから、キャリアプランなんて考えたこともなかったのに、その数ヶ月後に仕事を評価してもらえて、給料が上がった時にはすごくうれしかったです。
水野恵魅:それから仕事が楽しくなり、倉庫でマネージャー業務も任されるようになりました。円滑に仕事ができるように、スタッフで話し合うことが増え、対話のなかで組織をつくっていくことにやりがいを感じるようになりました。
内沼晋太郎:水野さんと同じように、今はまだキャリアプランを考えたことがない人でも、ステップアップする機会さえあれば、視野が広がる人は多そうですよね。
相澤明菜:私は反対にキャリアを築いていく途中で、結婚や妊娠というイベントがありました。ウェブデザイナーとして東京で20年くらい働いてきましたが、残業は当たり前。終電で帰る日も少なくありませんでした。辛いけど我慢しながらやり過ごしていましたが、妊娠をきっかけに、同じ環境で働き続けることの難しさを感じるようになりました。それでも、育休から早く復帰しなきゃという思いがあったのは、キャリアを途中で手放してしまうのが怖かったから。
相澤明菜:その後は子育てをしながら、身体的にも精神的にもより良い環境で働ける場を探して、バリューブックスに入社しました。主にバリューブックスサイトのUIデザインを担当しています。フルリモートで働いていましたが、去年、東京から長野県に移住しました。途中、また育休に入ることになりましたが、今回はリモートだったので、焦って復帰を考えることもなく、今は無理なく時短で働けています。
内沼晋太郎:役員として声をかけられた時は、どんな気持ちでしたか?
水野恵魅:最初に声をかけてもらった時は驚きました。ただ、自分のキャリアを考えた時に、新しいことに挑戦できるうれしさもありました。ジェンダーギャップについては、社会問題になっていることは知っていたけど、正直自分では困ったことがなかったので、あまり意識したことがありませんでした。会社が課題とすることで、その無自覚な状態こそが問題だと気付かされました。主婦でありながら働くスタッフの代弁者としての役割だったら、役員として、一緒にその課題に取り組むイメージができました。
相澤明菜:私も最初はすごくびっくりしました。でも、私自身、子育てをしながらキャリアを積み重ねてきた経験を活かして、他のスタッフの力になれるのではないかと思いました。また、これまでの仕事を続けながら、役員の課題に取り組むという前提もあり、安心して参加できました。
内沼晋太郎:新たな役員メンバーの二人に話をうかがってきましたが、改めて、鳥居さんがこれまで歩んできた経緯を教えてください。
鳥居希:私は、大学卒業後にグローバルな仕事がしたくて、外資系の証券会社に入社しました。働いている間は没頭して楽しかったけど、毎日お金やビジネスへのものすごい熱量を目の当たりにしてきて、こんなに長時間働いて没頭するんだったら、これを社会をよくするために使えないのかな、となんとなく思っていました。でも、やりがいがあったし、お給料もいいからやめられない。そんなある日、自分が働いていたポジションがなくなり、すべて強制終了になりました。自分がその対象になるとは思いもしなくて悔しかったけど、呪縛から解き放たれた感覚もあったんです。
鳥居希:それから地元・上田市に戻って、自分で事業をやろうと考えていたところに、幼馴染だった大樹さんと再会しました。ちょうどその頃、B LabやB Corpの存在を知り、日本でもB Labをつくりたいという相談をしていたのですが、自分で事業を始めるより、バリューブックスを、他のみんなと一緒に、いい会社に育てることに関わっていきたいと思うようになり、入社しました。
最初は寄付事業「チャリボン」の担当になり、それをきっかけにNPOや外部の企業の方たちとのつながりも増えていきました。その後は現在にいたるまで、B Corp認証の取得を進めながら、ハンドブックの出版も実現しました。
内沼晋太郎:今回、代表として3年間の任期がありますが、チームの形成だったり、会社づくりにおいて、どういったビジョンを描いていますか?
鳥居希:まずはジェンダーギャップを内側から解消していくことを目指します。数値的に改善しようとすれば、外から人を募集すればいいけど、今いるスタッフにとって、働きやすい環境をつくるのが最優先だと思っています。社会の抑圧から、「キャリアを望んではいけない」と無意識に考えてしまっている人もいるかもしれない。
その人本来の特性や、やりたかったことを自然に引き出し、仕事に活かせるような仕組みを考えて、カルチャーをつくっていきたい。例えば働く環境が変わったとしても、バリューブックスで働いた経験が、別の場所でも活かせるように。まずは今、社内アンケートを取ったり、チームの境界がない座談会を繰り返すことで、社内の声を解き放つところから始めています。
内沼晋太郎:まさに社内の状況を把握していっているところですよね。その後のアクションについて、少しお話してください。
鳥居希:新しい仕事をつくっていきたいです。女性に限らず、今はチームをまとめるリーダー職が、主なキャリアアップ先です。だけど、その役職を無限に増やすことはできないし、そもそも他のスキルはあるけどマネージメントが得意でない人もいる。だから、キャリアアップの先に新たな選択肢をつくっていきたい。例えば、地元のNPOのマーケティング支援や、B Corp関連企業のサポートを通して、外部との関わりから新たな仕事の可能性を探っていこうと思います。
内沼晋太郎:スキルアップの機会も、いろいろつくっていかなければいけないですよね。
鳥居希:ひとつ考えているのは、決算(会計)の勉強会。それを市内の企業と合同でできればいい。社員のスキルアップのための場を作る企業が増えていけば、社会を変えられる。バリューブックスが「いい会社」になることも大事だけど、世の中に影響を与えることにつなげていきたいですね。
中村大樹:向き合うべき問題はジェンダーギャップだけじゃないんですよね。男性でうまく活躍できない人もいるし、コミュニケーションが苦手な人もいる。いろんな問題がある。「いい会社」を目指しているけど、組織としてまだまだ不完全なところは多い。
内沼晋太郎:他にもいろんな問題があるのは十分にわかっているけど、その最初のステップとして、解決しなきゃいけないことのひとつがジェンダーギャップなんですよね。
鳥居希:まずはジェンダーの問題から取り組むことによって、ほかのマイノリティ性を持っている人の苦しみにも気付けるし、声をあげられるきっかけにもなると思っています。
中村和義:女性スタッフの割合が多いから目立ってしまうけど、男女関係なく得意な部分を活かせるサポートする。みんなそれぞれ問題を抱えているし、ちがう苦しさがある。特定の人を優遇するんじゃなく、パートスタッフやフルリモートのスタッフでも、誰にでもチャンスが巡ってくるような環境を整えたいですね。
内沼晋太郎:ここまで女性役員の話を中心にきいてきましたが、新しい体制のなかで、他のメンバーとしてはどんな3年間にしていきたいですか?
清水健介:現場にいて感じるのは、そもそも何を頑張ればいいかわからないという人が多いんですよね。その先の選択肢を用意したり、目指すべきものを提示することで、スタッフのモチベーションにつなげていきたい。
内沼晋太郎:鳥居さんの話にもあった、新しい仕事をつくるということですね。
清水健介:それもあるし、組織づくりにも関係します。スキルが高いからステップアップしたはずなのに、人間関係を気にして、本来の能力を仕事に活かせなくなってしまう。
中村大樹:以前、セルフマネジメントを取り入れたのは、そういったマネージャーとしての苦しみから解放するところに理由があったけど、いきなり上司をなくしてしまったせいで、うまく機能しなかった。
清水健介:ルールをつくるのは大切だけど、不満に照準をあわせて生まれたルールは長く機能していかないよね。これからは、マネジメントの仕組みから丁寧に設計していく必要があると思っています。
中村和義:僕は引き続き、外部の企業と協業したりコミュニケーションを取ったりと、社外の人たちと一緒に取り組む活動が多いので、それを活かして社外研修や新しい体験を提供し、スタッフのチャンスにつなげていきたいと思います。僕自身、バリューブックスに入社するまでは普通のサラリーマンではあったものの、あらゆるチャンスに対して前向きだったから、今の自分がある。意識を外に広げるサポートをしながら、スタッフのキャリアアップにもつなげていきたいです。
内沼晋太郎:視野を広げ、チャンスをつくることは大事ですよね。自分が何の役に立っているかわからず、先も見えないという、視界が悪い状況から生まれる生き苦しさがあるなら、見通しをよくする必要がある。組織図を見やすくすることもひとつだし、自分の得意なところだと、ジェンダーや社会課題に特化した本の読書会を開催するとか。考える機会や学ぶ機会を作るところに、もう少し貢献していきたい。
個人的なところでは、国内外の出版業界について取材し、出版社や書店と接点をつくることで、本にまつわる動きの中心にバリューブックスがいるような状況をつくるところに、役立てられるといいなと思います。
中村大樹:僕は引き続き役員会には参加せず、マーケティングや新規事業に専念していきますが、スタッフと向き合う時間は増やしていきたいと思っています。
今回、創業以来はじめて社内全体にアンケートをとりました。働く環境や、待遇、人間関係について。それって、ある種のパンドラの箱じゃないですか。開けることで、会社や社会に対して不満や問題を抱えている、多くの人たちの存在が可視化された。その状態をつくってしまったことを反省しながら、でも、僕はそういう人たちだからこそ、一緒に働きたいと思っているんです。なぜなら、会社をつくった自分たち自身がそういう存在だったから。
内沼晋太郎:創業者の大樹さん自身が、うまく働けず起業したところから、バリューブックスは始まっていますもんね。
中村大樹:創業したばかりの頃は、さまざまな理由で生きづらさを抱えている人が集まっていて、自分も就職できずに苦労した経験があったから、自然とお互いに助け合っていました。
中村大樹:困ってる人がいたら話しかけて、その人の苦しさをどうやったら解消できるか一緒に考える、というのが原点にあったはずなのに、ここ数年は仕組みづくりに息巻いて、ひとりひとりの苦しみに向き合ってこなかった。今、改めて声を聞く大切さを感じています。パンドラの箱は、開けてよかった。
内沼晋太郎:大樹さん個人としても、スタッフと向き合っていきたいということですよね。
中村大樹:そうですね。現場に出て、話を聞く。もう一度そこから始めようと思います。
鳥居:パンドラの箱を開けるのも、新たな組織のあり方を追究して実践していくのも、勇気がいることだけど、それぞれが問題意識に向き合いつつ、お互いにサポートしながらやっていきましょう!
posted by 北村 有沙
石川県生まれ。上京後、雑誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、気づけば上田へ。旅、食、暮らしにまつわるあれこれを考えるのが好きです。趣味はお酒とラジオ。
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