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2021-07-16

「どっちつかずの組織」を本気で目指すために。社長交代、役員メンバー変更のご報告と、私たち6人の思い

左から)中村和義、酒井茜、中村大樹、清水健介、鳥居希、内沼晋太郎

 

2021年7月16日、バリューブックスは代表取締役を変更し、役員構成も新しいものとなりました。

 

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これまでの役員構成

・代表取締役  中村大樹
・取締役    清水健介
・取締役    中村和義
・取締役    鳥居希
・社外取締役  内沼晋太郎

15期(7/16)からの役員構成

・代表取締役  清水健介
・取締役副社長 中村和義
・取締役    中村大樹
・取締役    鳥居希
・取締役    内沼晋太郎
・取締役    酒井茜

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社長交代。その言葉だけだと、ともすればネガティブなイメージに捉えられてしまうこともあるかも知れません。しかし、今の私たちが注力すべきこと、個々人の人生や働き方などを考えたとき、ひとつの戦略として「役員の再編成」という選択肢を、むしろ積極的に採用することにしました。

とはいえ、「よし、社長を交代しよう!」と旧代表の中村大樹が明確に提案したのは数ヶ月前。役員内での話し合いや、社内の全スタッフへの周知、諸々の事務作業に取り掛かるうちに日々は流れ、7/16 の発表直前にやっと、今回の決断を役員チームでゆっくり振り返る機会をつくれました。

社長を交代しようと思ったのは、なぜなのか。

いま、バリューブックスが直面している課題はなんなのか。

これから、どんな組織になろうとしているのか。

いつもの発信とはちょっと様子が違い、私たちの「内部」をそのままお伝えするような話し合いではありますが、「こんな風に悩み、考え、動き出している会社です」と、等身大の姿を見ていただければ幸いです。

 

バリューブックスの実店舗、「NABO」に役員チーム6名が集合。内沼晋太郎の進行とともに、今回の決断に至る経緯を振り返っていきます。

 

 

「社長を交代する」という戦略を、ポジティブな選択肢だと思えるようになった

 

 

内沼:
大樹さんは、「社長を交代する」ということについて、いつから考えていたんですか?

 

中村大樹:
うーん、そうですね。ひとつのきっかけは、5年ほど前にアメリカに出張し、ベンチマークしていた会社をいくつか見学したことでした。創業者が残っていない会社もあれば、残ってはいても社長は別、という会社もあって。それが、それまで自分の頭の中にはない選択肢だったため新鮮で、かつ自由でバリューブックスに合っているようにも感じたんです。

日本においては、自分が見聞きしている範囲にはなりますが、創業者がずっと社長を続けるケースを見受けることが多くて。社長が交代するとなっても、それは現社長に続けられない理由があったり、会社に一大事が起きていたりと、ネガティブな事態によるものに見えていたんです。

でも、彼らの会社経営に触れたことで、社長や役員の構成を変えることは積極的な選択肢のひとつなんだ、と感じられました。個人的な価値観やライフスタイル、会社の置かれた状況などを加味して、戦略的に変えていくものなんだ、と。

 

 

また、私生活において、第2子が生まれたことも、自分の働き方を考える大きなポイントでした。これまで以上に、家族との時間をつくっていきたい。そのためには、自分がこのままの働き方を続けるわけにはいかないな、と思ったんです。

それに、正直に言えば、ここ数年は「勝手に社長をやめていた状態」とも言えるかも知れません。

 

内沼:
社長をやめていた?

 

 

中村大樹:
会社として、12期目(2018年7月〜)に「セルフマネジメント型の組織を目指していこう」と掲げました。端的に言えば、マネージャーや上司といったマネジメントする人をなくして、各々が自分の力を一番発揮できる場所に移動し、活躍していこう、という体制ですね。僕個人にとってはセルフマネジメント型の組織は向いていて、ここ数年は自分の目下のプロジェクトであるサービス開発に注力することができました。

ただ、逆に言えば、困っている人を気にかけてあげたり、みんなが活躍する場をつくる、といった「社長の責任」が自分の中で希薄化してしまっていました。加えて、セルフマネジメント型の組織になったことで働きにくくなる人が増えたり、マネジメントを必要とするスタッフが多かったりと、この体制で不具合が起きているということも分かってきて。

こうした点について、ずっと考えたり対応してくれていたのが、清水さんと酒井さんでした。「働く人たちがより活躍する場所にしないといけない」という意志を強く持ってくれていた。

自分の働き方や、自分がどう動けば会社の成長に一番貢献できるか、と考えたときに、バリューブックスのサービス開発に注力すべきだ、と思ったんです。同時に、既にそこに深くコミットしてしまっている自分は、社長というポジションにいるべきではない。

セルフマネジメント型の組織に移行して、自分は違和感なく動けているけれど、うまくフィットできず苦しんでいる人がいる。その改善に一番の関心を持っている人が、社長というポジションに据わるべきだと感じたんです。

 

 

「セルフマネジメント」という言葉が不自由さを生み出していた

 

内沼:
なるほど。「セルフマネジメント型」を目指していくなかで起きた社内の変動について、特にロジスティックス、いわゆる倉庫業務の全般に深く関わっていた清水さんの目にはどんな風に映っていたんですか?

 

 

清水:
まず大前提としては、セルフマネジメント型の組織を目指したことで、成功した部分ももちろんあると思っています。ピラミッド型の構造をなくし、部署間の移動もスムーズになったことで、それまでのポジションから飛び抜けて行ったスタッフが何人かいます。そもそも優秀だったけれど、組織が柔軟になったことで抑圧状態から開放された、とも言えるかも知れません。

また、情報の透明性も上げたことで、広い視野を持って動ける人も増えました。決算書を含め、ほぼ全ての情報を全スタッフがアクセスできるようにしたので、自分で情報を吸い上げ、より幅広く動けるようになる人が出てきたことは、成功と言えるでしょうね。

一方で、「セルフマネジメント型を目指す」と言いながら、スタッフたちにコーチングを施すといったサポートを、役員チームはできていなかった。「物事は自分で決めよう」と、ただ放り出す形に近かったかも知れません。

 

 

清水:
やっぱり、組織の中で個々人が何かを決めるって、難易度の高いことだったんだと実感しました。また、「セルフマネジメント」という言葉がひとり歩きしてしまった印象もあって。

セルフマネジメントと言えど、自分たちで考えながら、みんなを引っ張るリーダーを据えたり、働きやすい仕組みや制度をつくっていってもいいわけです。でも、「ルールをつくってはいけない」「人に指示を出してはいけない」という状況が生まれているようにも見えました。

「セルフマネジメント」という言葉が、不自由さを生んでしまっていたんです。個々人の言葉の定義が違っていたり、スタッフ同士のコミュニケーションが減ってしまったりと、みんなが働きにくい環境になってしまっていました。

 

 

酒井:
私も、同じような印象を抱いていました。12期目に組織の形が変わり、それに戸惑っている人も多くいました。それは、自分自身も含めて。

私はもともと、総務・経理チームのマネージャーをしていましたが、セルフマネジメント型に変わり、清水さんの話にもあったように「指示を出しちゃいけないんだ」といった感覚を覚えてしまったんです。また逆に、私以外の人は「指示を仰いじゃいけないんだ」と感じていたりして。おたがい、ほどよい距離を掴めないままでした。

業務効率の面でも、ここ数年は落ちていたと思います。何か決断するときに、背中を押してほしい人って多いんです。「いいんじゃない? やればいいよ」と言ってほしい。もちろん、全部自分で考えて決断する必要はなく、どんどん相談してもいいはずだけど、それがしにくい雰囲気ができてしまっていて。その結果、物事の判断が遅くなってしまい、非効率になる場面も多かったと思います。

今回、私ははじめて役員チームの一員となったのですが、現場で見聞きしていること、また、自分自身がそこで体感していることを踏まえて、それぞれが動きやすい環境にしていきたいんです。

 

内沼:
多くのスタッフと関わるおふたりは、みんなの戸惑いに直接触れながら、対応してきたんですね。清水さんはこの15期目で社長へと肩書きを変えますが、酒井さんが言うように、まずはこの「働きづらさ」を改善することに注力していくのですか?

 

 

「セルフマネジメント型組織」を否定せずに、みんなが活躍できる環境を目指す

 

 

清水:
そうですね、今さらな話に聞こえてしまうかも知れませんが、まずは基本的なルール整備をしないといけない、と思っています。当たり前なことだけど、たとえば部署を整理して、組織図をきちんとみんなで共有する、などですね。現状では、そういった部分ですら曖昧なので。

ただ、セルフマネジメント型組織を目指す前の、いわゆるピラミッド型の組織に戻そうと単純に思っているわけではありません。例を挙げると、部署にマネージャーをおくかどうかは、あくまで「そのチームがマネージャーを求めているか」で判断したい。「セルフマネジメント型の働き方はダメだ」と言っているわけではないんです。

仕事の戦略を自分で決めながらスピーディーに行動したい人はそうすればいいし、求められた仕事を的確にこなすのが得意な人は、その力をもっと活かせる環境にしたい。画一的なルールで会社を縛るのではなく、スタッフそれぞれの特性を活かしたい、というのが目的なので。

あとは、感情論にも近いのですが、自己重要感を持てていることって、大切だと思うんです。僕自身、自分のした仕事に「いいねー!」と言われるだけでも、モチベーションは上がる。これについては、他人の声に左右されず、自分の描いたビジョンにまっすぐ進むことのできる大樹との大きな違いかも知れないですね(笑)

なので、スタッフ同士のコミュニケーション量を増やしたり、仕事の成果が数字で見えるようにしたりと、自分がどう貢献できているかを実感しやすい環境にしたいです。自分のために頑張るでも、他人のために頑張るでもいい。どちらにせよ、その人が成長する機会を提供していきたいです。

 

 

それぞれの役員が挑戦する役割と未来

 

内沼:
今回、大樹さんから清水さんへと社長交代を実施しましたが、和義さんも、新たに副社長というバリューブックスでは初めての肩書きに変わりましたよね。ここに込められた意味を教えてもらえますか?

 

 

中村和義:
そうですね、自分もこれまで清水さんと同じように、ロジスティックスの部分にも関わってきました。それと同時に、外部の企業と協業したりコミュニケーションを取ったりと、社外の人たちと一緒に取り組む活動も比較的多かったんです。

たとえば、本の卸の事業。バリューブックスの在庫や取り組みを活かした卸事業は、様々な企業や無印良品さんといった全国規模のお店ともパートナーシップが生まれてきています。その多くが、単に本を卸すだけの関係性ではなく、おたがいの強みを活かした新しい取り組みができないか、と前向きに話し合うことができている。

清水さんは、現場の仕事を誰よりも理解し動ける人です。だからこそ、僕は外部との繋がりや関係を築くところに注力し、その上で、清水さんと一緒に社内と社外を繋げる動きを果たしたいと思っているんです。

社長となる清水さんと同じように現場を見つつ、自分の力を活かして社外のパートナーたちとの関係性を社内に還元していきたい。そうした思いから、「副社長」という肩書きをつけることになったんです。

 

内沼:
内と外、和義さんは両方にまたがりながら働いていますもんね。ロジスティックスの現場を踏まえながら、外部の企業やパートナーとの協業を模索していくということですね。

鳥居さんは、役職自体に変更があったわけではないですが、バリューブックスの現状の課題も踏まえ、どんなことに取り組んでいく予定なんですか?

 

 

鳥居:
セルフマネジメント型になったことで、より活躍できるようになった人もいるし、悩み苦しんでいる人もいる。私の役割としては、社内のみんなの働き方や考え方について、新しい選択肢を知る機会をつくっていきたいんです。

たとえば、バリューブックス は今「B Corporation」(以下B Corp)という認証の取得を進めつつ、英語版で出版されている『The B Corp Handbook』の日本語版をつくっているところです。「B Corp」とは、かんたんに言ってしまえば、よりよい社会をつくろうと活動している会社に与えられる認証制度ですね。

その「B Corp」の内容をまとめた『The B Corp Handbook』の翻訳プロジェクトは、社内・社外を問わず多くの人たちとゼミ形式で行っています。このゼミを、もっとオープンなコミュニティへと変え、社内の人たちを含めてB Corpに関心のある人たちがもっと参加しやすい状況にしたいと思っています。

そこには、ビジネスを通してよりよい社会をつくりたい、と熱意を持った様々な人が集まっています。自然と、会社経営や働く上でのヒントがちりばめられている。それを活かす人が増える環境にしていきたいんです。

 

 

内沼:
そうですよね、「B Corp」は一社だけが、自分たちだけが取得を目指せばいい、というものではない。それでは結局、社会は変わっていかないですから。「B Corp」の考え方を広めつつ、そこから自然に生まれた関係性を社内にも還元していきたい、ということですね。

さて、みんなに質問する一方でしたが、僕のこれからの役割についても話さないといけないですよね。今回、僕はこれまでの「社外取締役」から「取締役」へと肩書きが代わりました。「社外」が取れた、ということですね。

とはいえ、これまでの動き方が既に「社外取締役」の枠を超えていたので、実態に合わせた面も大きいんです。たとえば、今僕たちが話しているこの場所、バリューブックスの実店舗である「NABO」の運営にも、直接的に関わってきました。その他も様々なプロジェクトにも主体的に参加してきたつもりです。

 

 

とはいえ、やはり「社外」という肩書きが、一種の逃げというか、関わりが曖昧になる要因にもなっていた気がして。そこで、自分の働き方や立ち位置を明確にするためにも、改めてみんなと同じように「取締役」という肩書きへと変えました。一昨年から自身の生活の拠点を東京から上田に置いたのですが、それには「バリューブックスのプロジェクトにもっと精力的に関わっていきたい」という思いもあります。

僕は、マネジメントや会社内の働き方に関する知見が多いわけではありません。自分で経営している会社もありますが、バリューブックスと同じようにそこは課題です。ただ、出版業界の仕組みや、紙が印刷され本になる工程など、本に関することは川上から川下まで、様々なプロジェクトに関わってきました。その経験を活かして、バリューブックスのサービスをもっと使いやすくしたり、読書に親しむ人たちにこのサービスをもっと知ってもらえるよう、頑張っていきたいと思っています。

さて、ぐるりと一周してみんなが思いの丈を話したわけですが、大樹さんは社長という肩書きを手放してどんな領域に力を入れようとしているのか、改めて教えてもらえますか?

 

 

中村大樹:
会社は15期に入りましたが、2〜3年前までバリューブックスは「本の買取サービス」として認知されていました。ただ最近では、自社の在庫を直接お客様に買っていただけるようになったり、過去に読んだ本や気になったものを登録できるライブラリ機能を実装したり、関連の書籍のレコメンドが出るようになったりと、様々なサービスを展開できるようになってきたんです。社内のエンジニアや外部のパートナーも増えたことで、バリューブックスをもっと「読書をする人たちの総合支援サービスサイト」にしたいと、強く思っているんです。

Amazon、メルカリといった、様々な商材を網羅した大きなサービスはすでに存在しています。でも、「本」に特化した総合サービスは、まだベストな答えが世の中には出ていないと感じていて。徐々にではありますが、ユーザー数が増えたり、よい反応も返ってきているので、自分はここをぐんぐんと伸ばしていきたいですね。

 

異なる人たちがおたがいを活かしあえる、「どっちつかずの組織」を目指して

 

 

内沼:
こうして振り返ってみると、おたがいがやろうとしていることは重なっている部分もあるし、ある意味、バラバラでもありますね。

 

清水:
うん、そうですね。大樹はサービス開発に注力することが一番パフォーマンスを発揮するだろうし、セルフマネジメント型の組織で活き活きと働けているひとり。一方自分は、いまの環境に馴染めないスタッフや会社の効率性を思うと、まずは社内の環境を整えることに専念したいと思っています。

でも、役員チームの中でそれぞれの関心ごとや働き方が違っていることは、むしろ良いことだと思っています。だって、社内を見渡した時だって、現状の仕組みだからこそ輝いている人もいれば、悩んでいる人もいる。どういう環境なら自分の力が発揮できるのか、どんな分野に関心を持っているのかって、結局は人それぞれだから。

「会社」といういち組織である以上、ひとりひとりにオーダーメイドの体制を提供するのは非現実的だけど、なるべくスタッフそれぞれの特性に対応できるルールや仕組みをつくりたいですね。

 

中村大樹:
これまで、正直に言うと会社経営が厳しい場面もあったけれど、「目指す社風にフィットできない人は解雇して、合いそうな人だけに入社してもらう」という選択を『しない』というのが、役員チームの一番のルールだったのかもね。そういった選択をする会社はたくさんあるし、それがいけないこととは思っていない。だけど、自分たちはそうしないと決めた以上、「会社にいる様々な人の幸福」を目指さないといけないわけだから。

 

 

清水:
そうだね。だから、これからのバリューブックスがやろうとしているのは、本気で「どっちつかずの組織」をつくることと言えるかも知れない。

たとえば、ものすごく自由に働きながら理想主義を唱える人もいれば、コツコツと目の前の仕事を片付けながら現実的に物事を捉える人もいると思う。そのどちらかに片寄るのではなく、また、そういった両極端の平均値を目指すのでもなく、異なる極端な人たちが共存できて、おたがいを活かしあえる会社にしていきたいよね。

 

内沼:
うん、僕も本当にそう思います。おたがいがそれぞれの目線を持ちながら、そして助け合いながら、もっともっと魅力的な会社を目指していきましょう!

 

 

posted by バリューブックス 編集部

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