2025-12-17

【B Friends! – 世界のB Corp™と、これからの話を。】第三回 中川政七商店 代表取締役社長 千石あやさん「続けるために、変えていく。伝統をアップデートするものづくりを。」

 

バリューブックスは2024年10月、念願のB Corp認証を取得し、B Corpの一員となりました。

B Corp認証とは、社会や環境に配慮しながら持続可能な経営を行う企業に与えられる国際的な認証のこと。世界では現在、102カ国で約10,000社以上が取得しています。

この連載では、社会や環境のことを考えながら、じっくり、誠実に、仕事をしているB Corpの仲間たちを訪ねて、一緒にこれからの働き方やものづくりについて考えます。

 

第三回となる今回は、奈良を拠点に創業300年の歴史を持つ「中川政七商店」を訪ねました。

これまでもバリューブックスとは、コラボレーション企画や、企業の共同体〈PARaDE〉でご一緒してきた間柄。そして2025年8月、同社もB Corp企業の仲間入りを果たしました。実はその認証プロセスでは、私たちがサポートをさせていただいたのです。

2018年に第14代社長として就任した千石あやさんは、中川家以外から初めて生まれた社長であり、同時に女性のリーダーでもあります。大きな組織変化の中で「日本の工芸を元気にする!」というビジョンをどう実践してきたのか。そして、B Corpの考え方をどう“自分たちの言葉”に変えてきたのか。

 

聞き手は、バリューブックス代表であり、日本におけるB Corpムーブメントを推進する「B Market Builder Japan」の共同代表でもある鳥居希が務めます。

 

▼過去のインタビューはこちら

【インタビュー】300年続く奈良の老舗「中川政七商店」が、現代に工芸を受け継ぐ理由。“人の気配”があるものづくりとは。

 

 

ビジョンも利益も諦めない、「51:49」の考え方

 

鳥居:

今日は貴重なお時間ありがとうございます。

普段から中川政七商店さんの服をよく着ていて、今日もその一着で来ました。

千石:

あ、本当ですね!とてもお似合いです。

鳥居:

ありがとうございます(笑)。

まずは改めて、中川政七商店がどんな会社なのかを教えてください。

千石:

私たちはもともと、「奈良晒(ならざらし)」という麻織物の商いから始まりました。1716年創業なので、300年以上の歴史があります。現在は、麻はもちろん全国の工芸をベースにした日用品のブランドの展開や、工芸業界の経営支援や流通支援事業もおこなっています。

 

 

鳥居:

その軸にあるのが、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンなんですよね。

中川政七商店のみなさんと接していると、その言葉がスローガンではなく、ちゃんと日々の業務と結びついている印象があります。社内では、このビジョンをどのように共有しているのでしょうか?

 

 

千石:

入社面接の段階から、まずビジョンへの共感を重視しています。共通の旗印に一緒に向かえるかを確認したうえで、仲間になってもらうんです。その後は年に一回の全社研修で目線をそろえて「チューニング」する時間をつくっています。それは日本の工芸を元気にするのか、という会話は、何をやるにしても必ず通るんです。

鳥居:

チューニング、ですか。

千石:

はい。だから新しいプロジェクトを立ち上げるときも、「これは何のためか」「ビジョンとどう関わるのか」から始めます。

それはマネジメント層だけではなくて、あらゆる部署、あらゆる場面で、ビジョンのレイヤーから入ることが多いですね。

鳥居:

会社全体が、ビジョンを念頭において動いている感じですね。

千石:

そうですね。私たちはよく「ビジョンドリブン」と言っていますが、一方で決してビジョンだけで突き進むわけではありません。営利企業である以上、利益をしっかり生み出して事業を続けることも同じくらい大切です。そのバランスを「ビジョン:利益=51:49」で考えています。

 

 

鳥居:

絶妙な数字ですね。

千石:

もともと厳密には言語化できていない、感覚的な数字として話していたのですが、最近になって、評価制度などにも反映するようになりました。

鳥居:

実際にビジョンと利益のバランスを意識する場面というと、どんな時ですか?

千石:

たとえば「デザイン監修」のお仕事です。

私たちが製造の責任を持たず、デザインデータだけを提供する、あるいは監修だけを行うケースは、簡単に言うとすごく儲かる仕事なんですね。原価もかからないので、利益率だけで見ればとても良い。

鳥居:

でもそれはビジョンに対しては誠実な仕事ではない、と。

 

 

千石:

そうですね。一度お受けしたことがあるのですが、結果的に「どこでつくられているのかよくわからない」ものが大量に市場に出回ってしまったんです。それは「日本の工芸を元気にする!」というビジョンとは違うのではないか、と。

逆に、ビジョン的には素晴らしいイベントでも、予算が完全に度外視されている場合には、費用対効果を含めてきちんと検証します。

そのどちらのケースでも、「ビジョンと利益のバランス」を考えて意思決定するようにしています。

鳥居:

その基準が共有されることで、社員のみなさんの意思決定もしやすくなりましたか?

千石:

前から考え方としてはあったんですが、きちんと言語化して、「こういうスタンスでいきましょう」と全社に共有し、人事考課の項目の中にも入れました。

「共通認識になる」ことで、「こういうときはビジョンを選ぶよね」とか「ここは一度立ち止まろう」といった判断がしやすくなった、という声は多いです。

鳥居:

ビジョンを“仕組み”にすることで、日常に落とし込んでいるんですね。

 

伝統をアップデートさせていく

 

鳥居:

私は実際にユーザーでもありますが、実際に生活に溶け込みつつも個性のある商品はどうやって生まれているのでしょう?

千石:

そう思っていただけているのは、すごくうれしいです。

うちでは商品部が企画デザインを担当しているのですが、「自分たちがまず生活者である」という意識がすごく強いです。暮らしの道具は、使ってみないと本当の良さがわからない。

鳥居:

使い勝手がいいのはもちろんなんですが、キッチンにひとつ置くだけで、いつもの景色が少し変わると、うれしくなりますよね。

千石:

まさに、大切にしているのは、「佇まい」と「使い勝手」の両立です。何を足して、何を削ぎ落とすのか。そこをデザイナーたちが、日々自分の暮らしのなかで試しながら考え続けている感じですね。

 

 

鳥居:

そんな暮らしの道具として、工芸を扱い続けるなかで、伝統を守るべき部分と、変えていくべき部分のバランスはどう考えていますか?

千石:

基本的には、工芸は「変化するもの」だと考えています。

鳥居:

それはなぜでしょう?

千石:

もともと工芸は、時代ごとの職人さんが、素材や暮らしに合わせて、少しずつ形を変えながら受け継いできたもの。だからこそ、私たちも今の暮らしにおいて「いいもの」が何かを、常に考え続けています。

鳥居:

時代にあわせてアップデートしてきたんですね。全国にいる職人さんやメーカーの方たちとの関わりのなかで、大切にしていることはありますか?

千石:

フラットな関係性を意識しています。ビジネスライクに進めることがほとんどなくて、対等な立場で、信頼関係を積み重ねていくことを大事にしています。

ときにはこちらから無理なお願いをすることもあるのですが、お互いに「いいものをつくろう」と思っているからこそ、一緒に進めていけるんだと思います。

 

産地訪問の様子(写真提供:中川政七商店 、撮影:Shungo Takeda)

 

鳥居:

以前、コンサルティング先のメーカーの方同士で中期経営計画を発表する会議に参加させていただいたとき、みなさんが同じ目線で話しているのがすごく印象的でした。

千石:

経営再生支援としてコンサルをするので、わたしたちはもちろん各企業の数字や課題感を把握しているんですが、参加しているメーカーさん同士もお互いの情報をシェアしたり、悩み事を相談する「仲間」としての意識が強いようです。

鳥居:

同じような規模の会社の社長同士が課題を共有し、学び合う場になっているんですね。

千石:

私たち自身も製造、商品開発、販路開拓、物流など、様々な場面でトライ&エラーを繰り返しながら、仕組みを作ってきました。メーカーの方たちが共通して抱える課題に対して、自分たちのノウハウをシェアすることで、工芸業界全体を元気にすることができる。

鳥居:

メーカーと小売店をつなぐ合同展示会「大日本市」も、その積み重ねから生まれたんですね。

千石:

はい。展示会の運営も自分たちでやっているのですが、単体収支だけを考えると大きな利益にはなりにくいんです。でも私たちのお付き合いのある小売店さんとメーカーを繋げば、双方にとっていいことがあるし、販路まで自立自走できるメーカーが一社でも増えることは、長い目で見れば中川政七商店が協業できるメーカーが増えることでもある。日本の工芸を元気にすることに繋がるんです。

 

大日本市の様子(写真提供:中川政七商店)

 

奈良という土地で、暮らしと仕事を重ねる

 

鳥居:

奈良に拠点を置くことも、中川政七商店さんの特徴だと思います。奈良という場所で、どんなふうにブランディングや会社づくりを考えているのでしょうか。

千石:

奈良に本社がある意味は、大きいと思っています。

ひとつは、いい意味で流行にそれほど晒されない。だからこそ、「自分たちは何がいいと思うか」をじっくり追求できる環境があります

都会にいると、家と会社の往復だけになることも多いけど、奈良では通勤するだけでも季節の変化を感じられる。お祭りや行事に触れる機会も多いです。そういう日々の体験が、私たちの価値観やものづくりの世界観に影響していると感じます。

 

 

鳥居:

たしかに、地域の風土って、働き方や考え方にも影響しますよね。

千石:

本社社員の多くが奈良に住んでいます。大阪や京都、滋賀から通っているスタッフもいますが、7割以上が転職を機に奈良に移住していますね。

2021年に創業地である奈良にオープンした「鹿猿狐ビルヂング」も、私たちの世界観を発信する拠点のひとつです。築130年の旧居を改装した空間や、麻織物のものづくりを体験できる蔵、奈良の風土を味わう飲食店もあります。去年秋には観光案内所「奈良風土案内所」を立ち上げ、社員がセレクトした奈良の面白い場所やお店を、独自の視点で紹介しています。

その日に実際に回れるスポットを社員が取材して情報カードにしていて、お客さまは自由に組み合わせて自分だけの観光ガイドブックがつくれるのですが、そういう活動も含めて、「奈良で暮らしながら働くこと」が、ブランドの一部になっている気がします。

 

「引き継ぐこと」と「変えること」。社長交代で目指したもの

 

鳥居:

千石さんが代表に就任された2018年は、初めて「中川家」以外からの社長ということで、大きな節目でもありました。そのとき、どんな気持ちで引き受けられたのでしょうか。

千石:

正直に言うと、最初はとても迷いました。

300年以上の歴史がある会社で、しかも創業家ではない立場で代表になるというのは、やはり大きな責任です。でも同時に、「この会社を次の時代につなぐ」という気持ちも強くありました。

伝統をただ守るのではなく、変化させながら続ける。その役割を自分が担うなら、と思ったんです。

 

本社の様子(写真提供:中川政七商店 )

 

鳥居:

「引き継ぐ」と「変える」、その両方があるわけですね。

千石:

まず絶対に変えないと決めたのは、「日本の工芸を元気にする!」というビジョン。これは会社の芯だと思っているので、ぶらしてはいけない部分ですね。

それから「フラットさ」。前社長の中川と立ち話の15分で物事が決まる、みたいなスピード感も含めて、すごく心地よかったんです。会社が大きくなってルールが増えても、その文化はなくしたくないですね。

鳥居:

なるほど。

一方で、中川さん自身も「自分に意思決定が集中しすぎていた」と話されていましたよね。

 

 

千石:

そうなんです。

それを変えるための「社長交代」でもあったと思っています。

以前は中川がほぼ全部決めていたので、「中川が決める→みんな動く」みたいな構造がどうしてもできてしまった。社長が代わることで、みんなで視点をそろえて、自分たちで判断できる組織にしたかったんです。

鳥居:

バリューブックスでは、意思決定が社長に集中しているというより、「意思決定の場に男性が多い」というジェンダーギャップの課題があります。そのような点から意識的に変えた部分はありますか?

千石:

うちは社員の8割が女性ですが、性別で役割を決める文化はもともとあまりなかったと思います。ただ、細かいところでは当たり前として残っていたものもありました。

 

 

鳥居:

当たり前として残っていたもの?

千石:

たとえば、キッチンの掃除やふきん洗い、ポットの水替えは女性の当番制。一方で玄関や庭の掃き掃除は男性と、無意識に性別で役割ができていて、「これ、おかしくない?」という声が出てから、男女問わず平等に分担する体制に変えたんです。

神棚の水替えも、最初は「女性はやってはいけない」という伝統的な慣習に則ってたんですが、そこも神様に「平等にさせていただきます」とお伝えし、性差なくやるようにしました。

鳥居:

まさに“伝統をアップデート”ですね。

千石:

伝統や慣習って、そのまま残すのが正しい場面もあるけれど、会社のなかでできることは、できるだけフラットにしたいと思っています。

鳥居:

では、なにかを決める時に、いちばん大事にしているのは何でしょうか?

千石:

「全社最適」で考えることですかね。まずビジョンを軸に、会社やブランドにとって何が一番良いかを考え、個人の感情には流されないようにしています。

 

 

鳥居:

それってすごく、B Corp的な考えでもありますね。「Benefit for all(すべてにとっていいことが大事)」

千石:

そうですね。うちは真面目で優しい人が多いので、誰かへの気遣いで判断がゆれる場面もあるんですけど、そこは「いや、会社全体で見たらどう?」と立ち返ります。

意見が採用されなかったとしても、その人の思考や努力を否定しているんじゃなくて、全社最適で考えた結果。部署の都合だけで動くのも、だめじゃないけど、“ダサいよね”という文化があるかも。

 

写真提供:中川政七商店

 

B Corp取得への取り組みがもたらした、内側からの変化

 

鳥居:

B Corpの認証取得を、私たちもサポートさせていただきましたが、まずは、そのきっかけから教えていただけますか?

千石:

最初は本当に雑談からだったんですよ(笑)。世の中でも環境問題への意識が高まってきていましたし、中川自身も経営から少し距離を置き始めた時期で、「改めて“いい会社とは何か”を考えたい」と。

そんなときにB Corpの存在を知りました。「ボランティアではなく、利益を出しながら継続して社会に良いことをする」という考え方が、まさに自分たちが大事にしてきたスタンスと近かった。「今まで大事にしてきたことをより良くできる指針だ」と思えたのが、取り組み始めたきっかけでした。

 

 

鳥居:

プロセスを一緒に進めていく中で、社内にはどんな変化がありましたか?

千石:

いちばん大きかったのは、話す時間が増えたことですね。

認証まで2年半ほどかかったのですが、ずっとB Corpの話をしていたわけではなくて、節目ごとに「ここまで来ました」「ここが課題です」と、全体集会やメールで共有していました。

そうしているうちに、社員から自然と「これってB Corp的にはどうなんですか?」と聞かれることが増えてきて。

鳥居:

日常的な業務のなかにもその価値観が浸透していったんですね。

千石:

たとえば、包装資材や素材選びを考えるとき、「B Corpの考え方としてどう?」という問いが生まれたり。当社は贈答でご利用されるお客さまも多いので、カトラリーの個包装やプラスチック包装をやめた時は、懸念のお声もあるのではと心配していました。でもご理解くださるお客さまが多く、私たちのスタンスに共感していただけたことが何よりうれしかったです。同時に、環境への意識が確実に高まっていることも実感しました。

 

 

鳥居:

それは、すごく良い変化ですね。働き方に関しては、なにか変化はありましたか?

千石:

これまでは「働き方の改善=経営陣が考えるもの」という雰囲気が強かったんですが、B Corpの考え方から「働く側の意見をもっと取り入れたい」という声が自然に出てきました

今は「いい会社をつくろう委員会 with B」みたいな取り組みを作ろうとしているところです。「サステナビリティ」「環境課題の改善」「社員の働き方」「工芸界の働き方」——大きく4つのテーマで少しずつ進めていけたらなと思っています。

 

 

鳥居:

B Corpのために何かをするというより、自分たちが大事にしてきたことを、改めて見つめ直す時間ができたんですね。

千石:

そうですね。ビジョン自体がとても大きな社会課題を含んでいるので、今まで必死に取り組んできたのですが、会社がある程度大きくなって安定してきたこともあり、自分たちも元気でいることを前向きに考えられる段階に来た感じがあります。

鳥居:

社員の方々は、B Corpに対してポジティブなリアクションの人が多いようですが、それはこれまで培ってきた社風も影響しているんでしょうか?

 

 

千石:

それもあるし、世代的な影響もあるかもしれないです。店舗は新卒スタッフでの採用も多いのですが、ここ数年の最終面接では、「サステナブルな活動にはどう取り組んでいますか?」と聞かれることがすごく増えました。

鳥居:

ベースとして環境や社会への意識が高い世代ですよね。

千石:

工芸の世界も、素材を余すことなく使おうとか、無駄のないものづくりをしようという考えが根底にあるので、環境問題への関心と重なる部分があるのかもしれないですね。

 

「工芸のしまいかた」まで考える、循環の仕組み

 

鳥居:

B Corpの文脈ともつながるところで、新たにはじまった「循環プログラム」のお話も聞かせてください。

「使用されなくなった自社商品を回収・修復・再流通させ、その利益の一部を作り手や原材料へ還元する」ということですが、なにがきっかけでスタートしたのでしょう?

千石:

最初は本当にシンプルで、「大事に使ってきた暮らしの道具を最後にゴミ箱へ捨てるのがつらいよね」という感覚からでした。

日本には「お焚き上げ」のように、ものを丁寧に手放す文化がありますよね。サステナブルという言葉が生まれる前から、私たちの生活には「循環の感覚」があったはずなんです。

そこから、「中川政七商店らしい終わらせ方って何だろう?」という話が動き始めました。

 

 

鳥居:

バリューブックスが取り組む、本の循環の仕組みと通じるものがありますね。古本を次の読み手に届けたり、役目を終えた本から「本だったノート」をつくったり。

千石:

そうなんです。工芸も「古物」として新たな価値を見いだす可能性もありますし、捨てられそうなものをアートとして再生することもできる。さまざまな素材があるなかで、まずは陶磁器からやってみよう、と始まったのが今回の循環プログラムです。

鳥居:

このプログラムもまたトライ&エラーのなかから、仕組みが育っていくんですね。

 

 

千石:

そうなればいいなと思います。まずは自分たちのものづくりの足元から、次にその外側へと広げていく。小さな実践の積み重ねが、最終的には世界的な課題にもつながっていくと思っています。

鳥居:

身近な問題から、最終的には海の環境などにもつながっていきますもんね。同じB Corp企業であるパタゴニアの哲学と通じるものを感じます。

 

 

千石:

そうですね。パタゴニアさんは、自分たちのフィールドを守るために、作りすぎない、デザインを増やしすぎない、原材料を徹底する取り組みを続けていますよね。

一方で、工芸は「作り続けることで文化が残る」という側面がある。だからこそ「作らない」という選択ではなくて、どう作るか、どう手放すかを考え続けることがとても大切だと思っています。

資源は限られていますし、いずれは原材料を自分たちでつくるところから向き合う必要も出てくる。ビジネスと環境のバランスは、本当に難しいテーマだと思います。

 

写真提供:中川政七商店

 

鳥居:

本当に、多くの企業がその答えを探している時代ですよね。

「日本の工芸を元気にすること」と「いい会社であること」、ビジョンとB Corpのふたつの軸をかかげて、これからどんな未来を描いていきたいですか?

千石:

工芸を通じて、もっと「つながり」を生み出していきたいです。

それは新しい商品やブランドという形だけでなく、たとえば奈良の暮らしを体験できる拠点をつくったり、他のB Corp企業や地域の仲間と新しい企画を育てたり。そうした関係の輪を広げていくことが、これからの挑戦です。

 

対談を終えて

 

今回の対談では、かねてより交流のあった中川政七商店が「B Corpの仲間になった」というよろこびを、あらためて実感する時間になりました。

ビジョンと利益のバランスをどう取るか、働き方をどう育てるか、同じように悩みながら進んでいる会社同士だからこそ、共感と学びが自然と重なりました。

 

工芸の世界で「つくる」「手放す」「循環させる」を丁寧に考えてきた中川政七商店の姿勢は、

本の循環を守ってきたバリューブックスの歩みとも響き合います。

 

身近なものづくりの在り方を見つめることが、やがて産地を支え、さらに海や地球の環境へとつながっていく——

その“小さな一歩から続いていく大きな未来”の感覚を教えてもらった気がします。

 

B Corpの仲間として、そして地域に根ざす会社として、これからも共に循環の輪を広げていけたら。

 

posted by 北村 有沙

石川県生まれ。都内の出版社勤務を経て、2018年にバリューブックス入社。旅、食、暮らしにまつわるあれこれを考えるのが好きです。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしています。

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