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2021-07-07

ほんと交換〜おしゃべり編〜

問touとバリューブックスで新たにはじめる実験的な取り組み「ほんと交換」。店内に設置した専用の本棚に100冊の本を置き、訪れた人が持ち寄った本と自由に交換できるというもの。さまざまな人の手によって入れ替わる本棚は、どんな変化を見せてくれるのでしょうか。それぞれの思いや価値観が交差する、本のサイクルを観察します。

今回は、発起人ふたりが気になる本をオンライン上で共有。感想や気づきをゆるりと交換します。

出演:平田はる香(株式会社わざわざ)、生江秀(株式会社バリューブックス)

 

 

人々の生活から生まれた「日常的な美」

 

生江:ぼくが紹介するのは、建築学者で民俗学研究家、今和次郎の『日本の民家』です。『日本の民家』は民家の構造や間取りについての考察がいま読んでもとても新鮮な日本民家研究の名著です。

 

平田:建築や人文学は、問touの選書でも人気のテーマですよね。どうして今和次郎に興味を持ったんですか?

 

生江:きっかけは建築家の藤森照信さんや美術家の赤瀬川原平さんの活動ですね。藤森さんや赤瀬川さんの『超芸術トマソン』や『路上観察学入門』という本が好きで、彼らがインスパイアされたのが今和次郎と彼の提唱した「考現学」なんです。それで今和次郎の本を手に取るようになりました。

 

 

生江さんが交換した本。右から、『考現学入門』今和次郎(ちくま文庫)、『日本の民家』今和次郎(岩波書店)

 

 

生江:今和次郎が『日本の民家』を書いた時代(大正時代末期)、都会の建築が進歩していくのとは対照的に、田舎の民家は時代遅れで格好悪いものというイメージが既にあって、このままでは日本の民家が忘れられてしまうという危機感を抱いた民俗学者の柳田國男たちが民家の調査をすることになって、その調査に若手の建築学研究者として建築方面から参加したのが今和次郎でした。

 

平田:はじめは建築の視点から民家に注目したんですね。

 

生江そうですね。今和次郎は、当初、建築的興味から失われつつあった日本の民家を調査して行ったんですが、しだいに「わびさび」や「用の美」などとは対局にあるような、人々の生活から生まれた「日常的な美」にどんどん魅了されて、普通それをスケッチする?というものをたくさんスケッチ、採集するようになったようです。

 

平田:例えば?

 

生江ブリキのやかんに花を植えてるものや石油缶で作ったランプとか。歴史的には関東大震災後のモノが不足している頃で、本来の用途とはちがうものでも、ひと工夫して楽しむ様子に魅了されてたくさんスケッチしています。今和次郎は、お金では買えないものの美しさに価値を見出していったんです。

 

平田:なるほど。その後、古物を本来の目的じゃない使い方をして、自分らしい美を見つけることを「みたて」と呼ぶようになりましたけど、そもそも生活者の間ではそんなことは自然にやっていたんですね。

 

 

デザインに隠された思考が知りたい

 

平田:すごく興味を持ちました。生江さんの話を聞くといつも本がほしくなります。私は最近、新しい視点を得るためや、問題を解決するために本を読むことが多いです。今回、紹介するのは、すべてデザインにまつわる本なんですけど、きっかけは年末に読み返した、「暮しの手帖社」初代編集長であり、デザイナーの花森安治さんの本。

作品集や関連著書を読み進めていくと、花森さんが描くポップなイラストも、美しい詩やデザインも、それ自体が作品なのではなく、すべては「生活はこうあるべき」ということを伝えるために、人生をかけて体現してきたのではないかと思ったんです。そこから「伝える手段としてのデザイン」についてもっと知りたくなりました。

 

 

平田さんが交換した本。左上から時計まわりに、『花森安治のデザイン』花森安治(暮しの手帖社)、『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』小山田育、渡邊デルーカ瞳(クロスメディア・パブリッシング)、『山名文夫 1897‐1980』山名文夫(DNPグラフィックデザインアーカイブ)、『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか 』石岡瑛子(小学館)、『木をかこう』ブルーノ・ムナーリ著、須賀敦子訳(至光社)、『デザインと革新』太刀川瑛弼(パイインターナショナル)

 

 

平田:例えば、描き方さえ覚えれば、誰でも簡単に木が描けるということをイラストで解説してくれる、ブルーノ・ムナーリの『木をかこう』。しくみを構造化してデザインすることに、ますます関心が高まりました。デザイングループ「NOSIGNER」を立ち上げた太刀川瑛弼さんの『デザインと革新』では、手がけた仕事とコピーが並ぶような構成で、思考が言語化されてデザインに落とし込まれる様子が見れて面白いです。

本当にいいデザインって見た目がきれいなだけじゃなく、そこに必ず意味がある。組織を作ることもデザインですよね。成功しているデザインには、どんな思考や経路が隠されているか知りたくて、アートディレクターやデザイナーによる本をよく読んでます。

 

生江:平田さんのなかの疑問から本を手に取っているんですね。ぼくの場合は、興味の対象に沿って本を選ぶのではなくて、いろんな本の上を歩いたうえで、あっちからやってくるのを採集する感じです。

 

平田:わたしも20代まではそういう読み方してたんですけど、30代から自分で会社を経営するようになって、求めるものに応じて本を読むスタイルに変わりました。あとは、子供の頃は小説をよく読んだけど、大人になるにつれ純粋に物語に没頭できなくなってしまったということもあって、読み方が変わったのかも。

 

生江:ある程度、物語を読んできた人だと、どうしても内容に既視感が出てしまいますからね。だからこそ人文関係の本がより面白く感じるようになる。

 

平田:だれかの研究や考えを吸収するための読書になってきますよね。

 

生江:平田さんは食べることと同じように、生きていくために本を読んでる感じがしますよね。

 

平田:誰も簡単に教えてくれないから、追い詰められて読書してるのかもしれないです(笑)これからも巨匠たちから学んでいきます。

 

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posted by バリューブックス 編集部

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