EndPaper

本に触れる。
その小さなきっかけを届ける
ウェブマガジン。

2020-08-27

納品書のウラ書き vol.7「さあ、”人間”を揺るがそう」

 

バリューブックスの本を購入していただいたお客様にお届けしている「本の納品書」
その裏面に掲載している編集者・飯田による書評「納品書のウラ書き」のバックナンバーを公開します。
納品書のウラ書きにまつわる詳しいストーリーはこちらをご覧ください。

 

——

 

2018年11月発行_vol.7 より

 

 

さあ、”人間”を揺るがそう

 

なんとも刺激的なタイトルです。文化人類学者・奥野克巳が訪ねたのはボルネオの狩猟採集民、プナン。彼らの日々の暮らしは、僕たちをとことん困惑させます。

題の通り、プナン語には反省にあたる言葉が見当たらず、感謝が示されることもほとんどない。さらには、「貸し借り」の概念さえもないというから驚きです。

他人の所有物を勝手に使い、あまつさえそれを別の村人へと渡してしまう。食時の会計は、その時に現金を持っている人が奢る。持つ者が持たざる物にシェアするのは当然の行為なのです。

所有欲を否定する彼らの振る舞いは、まるで未開の地に”本来の人間の在り方”が保存されているかのよう。しかし、むしろ所有を欲する僕らの方が本能的で、プナンの暮らしはある種の先進的なシェアリングエコノミーだと続くのがまた面白い。

「なぜ彼らには『ない』のだろう」という問いは、そのまま「なぜ僕らには『ある』のだろう」というこだまとなって返ってきます。プナンを知れば知るほどに、自分たちの足元がぐらぐらと不安定になる。でも、これこそが読書の醍醐味のひとつですね。

熱帯の木々を分け入り、分け入り、果たして僕らの目には何が映るのか? プナンは森で、静かに僕らを待っています。

 

ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと
奥野 克巳(著)
出版社:亜紀書房 (2018年5月24日)

 

 

 

合わせて読みたい1冊

 

 

人間はどうして悩むのか。それは、未来を想像してしまうからだ。ならば、ヤギになってしまおう。

そんな華麗(?)な論理のステップを踏み、ひとりのデザイナーが人間から抜け出しました。シャーマンに教えを乞い、人工装具で四足歩行を実現し、草の消化システムまでつくり上げてしまう。

アルプスの山あいで人類とヤギが結実する瞬間、それは笑えるほど美しいのでした。

 

人間をお休みしてヤギになってみた結果
トーマス トウェイツ (著)、 村井 理子 (翻訳)
出版社::新潮社 (2017年10月28日)

 

 

 

 

 

 

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

BACK NUMBER