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2019-12-30

不幸な本を生まないために。図書館が望む、より良い寄贈本の在り方。

 

 

11月、頬にふれる風が一段と冷たくなってきた頃、わたしたちは岩手県陸前高田市にいました。

さてその目的は、図書館に送られてきた大量の寄贈本を引き取ること。

上田市から約600キロ、空っぽのトラックを走らせ向かったのは陸前高田市立図書館

東日本大震災によって被災し、2017年に再建されたばかりの図書館です。

「再起をはかる図書館にとって寄贈本は助かる存在では?」現地を訪問する前のわたしは呑気にそんな風に考えていました。

しかし、図書館にとって「善意の寄贈本」は、手放しで歓迎できない事情がありました。

 

 

すべてを失った図書館が再始動するまで

 

 

2011年3月11日、陸前高田市立図書館は、東日本大震災の大津波により全壊。職員7名が犠牲となり、郷土資料6,000 冊を含む蔵書約80,000 冊が失われました。

 

被災後、陸前高田市ではたくさんの寄贈本が寄せられましたが、手が回らず避難所等に山積みになっていました。そこを訪れたバリューブックスの中村大樹社長が、放置されていた本を引き取り、先に運営していた「チャリボン」の要領で、買い取った金額を図書館へ寄付したのです。これをきっかけに、2012年4月、陸前高田市立図書館の再始動に向けた「ゆめプロジェクト」がスタートしました。

 

寄付者は、バリューブックスに読み終えた本を送ることで、その買取金額を陸前高田市へ寄付できる。つまり、本を直接図書館へ寄付するのではなく、本をお金に変えて寄付することができるという仕組みです。

2017年7月、陸前高田市図書館は、全国から寄せられた寄付により、商業施設「アバッセたかた」に併設する図書館として再建されました。

再建後は、寄付金を書籍購入費に充てることで持続的な支援を続け、2019年11月末までの「ゆめプロジェクト」による寄付金総額は、47,845,459円にのぼります。

 

 

行き場のない寄贈本をレスキューする

 

図書館が再建される少し前、陸前高田市立図書館は仮設図書館での営業を再開しました。本棚に並んだのは全国から集まった寄贈本。蔵書が失われ、新たに書籍を購入する余裕もなかった当時の図書館にとって、寄贈本の存在にどれほど救われたことでしょう。

しかし時が流れ現在、再建された図書館の容量や体制の変化から、郷土資料や震災関連の書籍以外の寄贈の受け入れ休止しています。地方の図書館の使命は、市民に対して最新の情報提供をすること。善意の気持ちから送ってもらった本が、選書の結果、残念ながら配架に至らないことも多いのです。

それでも、本を愛する気持ちから「図書館へ寄贈したい」という方は少なくありません。しかし、それが図書館が求める本ではなかった場合、だれの目にも触れられない、不幸な本が生まれてしまいます。

8年の間にたまった寄贈本は、廃校になった小学校に保管されていました。持て余した寄贈本を買い取り、寄付につなげることが、今回のわたしたちの目的です。日の目を浴びない本をレスキューするべく、人気のない校舎に足を踏み入れました。

 

 

2階にある教室の扉に手をかけると、目の前に現れたのは大量のダンボール。積み重なった本の山が、教室の約半分を埋め尽くしています。このうち、「バリューブックス行き」とラベリングされたのは、およそ300箱。1冊1冊、ISBNコードの有無を確認しながら仕分けをしていきます。

この日参加したバリューブックスのスタッフは、わたしをいれて4人。大量のダンボールに少し心が折れかけていると、そこへ図書館協会のスタッフや、地元NPO団体の「桜ライン311」「一般社団法人 SAVE TAKATA」のスタッフがお手伝いにきてくれました。テキパキ働くスタッフたちによって想像以上にスピーディに作業は進んでいきます。

 

 

どしん、どしん。
段ボールを積み降ろすたびに大きな音が、がらんどうの校舎に響きます。

 

 

1階に運び終わった箱から、中身を確認していきます。

買い取れる本は「ISBNコード」があるものだけ。バリューブックスでは本を識別するこのコードによって在庫を管理しているため、「ISBNコード」のない本はお金に変えることができないのです。

 

 

「古書」と呼ばれる古い本や、自費出版本などには、このコードがついていません。仕分けた結果、およそ半分の本に「ISBNコード」がありませんでした。それらはまとめて、コンテナへ。地元の古紙回収にまわされます。

 

 

買い取れそうな本はトラックで上田まで持ち帰ります。空っぽだったトラックには、ぎゅうぎゅうに本が積み込まれます。

 

 

たくさんの方にお手伝いいただいたこともあって、2日間を予定していた作業もほとんど1日の間に終えることができました。

約300箱の中から、今回レスキューできたのは163箱、7639冊。
さらに査定の結果、買い取れた本は2812冊、合計買取金額は182,665円となりました。

買取金額は「ゆめプロジェクト」に寄付され、陸前高田市立図書館の図書購入費にあてられます。また、買い取れなかった本の一部は、BOOKGIFT Project.など社会貢献の一環に活用されます。

 

 

 

そもそも、どうしてこんなにたくさんの本が図書館に送られてくるのでしょうか?

職員の千葉徳次さんにお話を聞いてみました。

 

 

――図書館には1度にどのくらいの本が送られてくるんでしょうか?

千葉さん:その時々ですけど、いちばん多くて100箱ほど送ってきた人がいたそうです。

――100箱!

千葉さん:いわゆる終活の一環なんでしょうか。

――寄贈者の方には、本をお金に変えて寄付する「ゆめプロジェクト」についてお伝えしているんですよね。

千葉さん:もちろんご説明しています。それでもバリューブックスではなく、図書館に本を送りたいという方はいらっしゃいます。

――それはなぜでしょう?

千葉さん:おそらく、自分の持っていた本を図書館に置きたいんですよね。お金に換えるのではなく、残したい。本を愛する者として、自分の蔵書を大切に扱いたい、という気持ちはよくわかります。

――でも、限られたスペースや選書する人手を考えると、寄贈本の引き受けは必ずしも図書館にとって良いことばかりではない、と。

千葉さん:そうですね。一方的に送られると、正直つらいものがあります。ただ、郷土資料や震災関連の書籍はいつでも歓迎していますし、事前にご連絡をいただき、寄贈本のリストを共有していただけるなら、その他の書籍も受け入れています。やはり絶版本など欲しくても新刊ではもう手にはいない本もありますから。せっかくの寄贈本が無駄にならないような寄贈を心がけていただきたいです。

 

【陸前高田市立図書館の本の寄贈について】
http://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/tosyokan/main/kisou/kisou.html

 

街の復興は始まったばかり

 

 

市内を車で走っていると、山を削るショベルカーや、道路を行き交うトラックの姿が目に入ります。山から土を運んで平地のかさ上げをしているのだそう。震災から8年が経過してもなお、その作業は続いています。

図書館が移設された街の中心地は、もとは標高3メートルほどでしたが、現在は標高13メートルにまでかさ上げされました。かつて商店街があったというたその場所には、ぽつりぽつりと真新しい建物が並びます。人通りはほとんどありません。その代わり、少し離れた仮設住宅にはいまだ明かりがともっています。

街はきれいになりました。けれど、そこにあったはずの日常は戻ってきていません。本当の復興はこれからです。

 

高田松原津波復興祈念公園
津波から奇跡的に生き残った「奇跡の一本松」
津波によって建物の半分が破壊された「陸前高田ユースホステル」(震災遺構)

 

いま、街は図書館を中心に新たに生まれ変わろうとしています。復興を支援する目的のひとつに「本の寄贈」があるならば、それは正しい形で行われてほしい。

不幸な本を生まないために、次につながる寄贈を図書館は待っています。

 

 

撮影:篠原幸宏

 

 

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posted by 北村 有沙

石川県生まれ。上京後、雑誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、気づけば上田へ。旅、食、暮らしにまつわるあれこれを考えるのが好きです。趣味はお酒とラジオ。

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