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2022-08-20

ゆる言語学ラジオは「ラーメン二郎」でいつか「マフィア」になる? “言語”の面白さを届けるコンテンツの裏側を直接聞いてみた!

 

バリューブックスが、本を必要とするプレーヤーを支援するアンバサダー制度。

第1回のアンバサダーとなった「コテンラジオ」に引き続き、2022年7月からは「ゆる言語学ラジオ」のスポンサードも始まりました!

 

左:水野太貴さん 右:堀元見さん

 

”ゆるく楽しく言語の話をする”をテーマに、さまざまな切り口で言語の面白さを届けてくれる、「ゆる言語学ラジオ」。2022年8月時点で、YouTube のチャンネル登録者は15万人以上にも上ります。

バリューブックスでは、彼らがコンテンツ制作に必要とする参考書籍の提供と、公式グッズ販売のための物流管理・販売代行を行っています。

 

「ゆる言語学ラジオ」がバリューブックスのアンバサダーになりました!

 

「言語オタク」の水野さんが繰り出す豊富な言語トークに、「言語学素人」でありながらも豊富な知識で対応していく堀元さん。

今回は、バリューブックスのアンバサダーとなってくれたおふたりに

 

・ゆる言語学ラジオはどのようにして生まれたのか
・魅力的なコンテンツを支える事前のリサーチ
・新たな「ゆる◯◯学ラジオ」計画

 

などなど、その裏側をゆるくお聞きしてきました。

今回インタビューを務めた私、飯田も根っからのゆる言語学ラジオリスナーです。

まだゆる言語学ラジオを耳にしたことがない方にも、ぜひ、彼らの面白さと言語の奥深さを体感いただければ幸いです。

 

 

インドゾウが導いたふたりの出会い

 

━━ まずはじめに、ゆる言語学ラジオの結成秘話をお聞きしたくて。おふたりはどのようにして出会ったんですか?

 

 水野:
もともと、堀元さんが書いていたブログ記事を2年ほど読んでいたんです。あるとき、彼が Twitter で「意外なマニュアルで運用されているものが知りたい」と言っていたので、たまたま知っていたインドゾウの表面積を求める公式を伝えました。

 

ちなみに、インドゾウの表面積を求める公式は S=-8.245+6.807H+7.073FFC。
(Sはゾウの表面積、Hはゾウの身長、FFCはゾウの前足の太さ)

 

━━ マニアックな情報共有だ。 

 

 堀元:
いやー、僕、いい情報をくれるフォロワーが好きなんですよね。

 

 水野:
その1ヶ月後ぐらいに、今度は堀元さんがご飯を奢ってくれる人を募集していて。時間が空くと忘れられそうだったので、「インドゾウの表面積の公式のものです」と再度声をかけて、一緒に新宿のクラフトブルワリーでご飯を食べたのが最初の出会いですね。

 

不定期に「奢られツイート」をしている堀元さん

 

━━ そもそも、どうして水野さんはそんなに堀元さんと会いたかったんですか?

 

 水野:
僕は、本業が雑誌の編集者なんです。なので、若い書き手と繋がっておきたい、あわよくば原稿を書いてもらいたい、という気持ちがあって。実際、新宿で会うときも企画書を持っていっていたんですが、それが実現する前に「ゆる言語学ラジオ」が始まってしまいました。

 

━━ 編集するつもりが、逆に編集されてしまった。堀元さんは、はじめから水野さんと一緒に何かをするつもりだったわけではないですよね?

 

 堀元:
そうです。言い方は悪いんですが、水野さんはいちフォロワーだったので特に期待はしてなかったんですよ。でも、開始10分で面白い人だとわかりました。

会ってすぐに「このお店は 〇〇 系なので、この △△ は □□ で美味しいですよ」と、情報をいっぱいしゃべってくる。メニューをめくるたびに「それは、語源的には ◯△□ ですね」と、一時が万事そんな感じだったんです。

 

 

ラジオをやるからには、持続可能なコンテンツを目指す

 

 

 水野:
僕は、本を読んだりして得た面白かった話を、鉛筆でノートに書いていたんです。「アナログで馬鹿らしいよね、火事になったら消えちゃうし」と堀元さんに話したら、「もったいないから共有しようぜ!」と、翌日には専用のチャットルームを用意してくれて。

僕と堀元さんと彼の友人ふたり、計4人のチャットルームで、ただひたすらうんちくだけを投げ合う会話を半年ぐらいしてました。

 

 堀元:
ちなみに、そこで集まったひどい命名のものやおしゃれな悪口は、僕個人のコンテンツや1冊目の本にも活かされてます。

 

『教養悪口本』

 

 水野:
たとえば、濫(みだ)りに吹く、と書く「濫吹」という言葉があるんです。楽器が吹けないのに楽器団に入っているせいで、その場の誰よりも激しく動いて吹いているふりをする人。

その様子から転じて、無能なのに有能な人間の中に紛れて、有能なふりをする動きをする、という意味の言葉です。そういった言葉を堀元さんが喜んでくれて。

 

濫吹(らんすい) – 能力がないのに、あるように見せかける姿のこと。あまり言われたくない言葉。

 

━━ 水野さんは、堀元さんの優秀なネタ元にもなってたんですね。そこから、どのようにしてゆる言語学ラジオの企画が始まったんでしょう。堀元さんから打診したんですか?

 

 堀元:
はい、最初に飲んだ時はもちろん、日々のやりとりでも、「水野さんが話すことをラジオにしたら面白い」と思っていて。踏ん切りをつけてやるか!と、彼に企画を提案したんです。

 

━━ ラジオと言いつつ、ゆる言語学ラジオは YouTube に動画も投稿していますよね。単に音声だけを公開するよりも、制作コストが高くなると思うんですが。

 

 堀元:
おっしゃる通り、動画にするのは大変ですね。ただ、ポッドキャストで音声を流すだけでは、聞く人は増えにくい。ゆる言語学ラジオできちんと採算をとるために、動画も撮り、YouTube のアルゴリズムも考えてコンテンツをつくることで、視聴者を増やしたかったんです。

 

言語学者の先生をゲストで呼ぶなど、充実したコンテンツを届けるゆる言語学ラジオ

 

━━ 「これ、コンテンツにしたら面白そう」という発想で生まれるものも多いですが、堀元さんははじめから、ビジネスとしても捉えていたんですね。

 

 堀元:
僕は、それこそがクリエイティブだと思っているんです。「これをやったら面白い」という円があったとして、そのど真ん中をやるのはクリエイティブではない。「コンテンツの面白さ」と「持続可能なビジネス」を両立させるのが大切なんです。

この2つを満たそうとすると、共通点が少なく難しい作業になりますが、それを探る営みこそがクリエイティブだと常々考えています。

 

—— 心に響きます。

 

 水野:
感動のあまり涙が止まらないですね。

 

 堀元:
ちょっと! ふたりともいじり倒してくるじゃないですか!

 

 

最低10冊。地道なリサーチに下支えされたコンテンツづくり

 

━━ いじりみたいになっちゃって、すみません。でも、持続可能なコンテンツづくりをしてくれること、いちリスナーとしてもありがたいです!

そうして生まれたゆる言語学ラジオ、最初の動画が「イルカは喋っていない」というテーマでしたね。

 

 

 水野:
まぁ、みたいな回ですね……

 

━━ どうしてそんなに悲痛な表情を……?

 

 水野:
はじめた頃は、十分なリサーチをしていなかったんです。堀元さんは、ロゴを発注したり音声機材を買ったり初期投資をしていましたが、僕はまだ半信半疑で。1年ぐらい続けたとしても、チャンネル登録者はせいぜい1000人ぐらいかな、と想像していました。なので、事前準備も2〜3冊の本を読むぐらい。今思うと、脇が甘かったです。

 

2021年にスタートしたゆる言語学ラジオ。水野さんの予想に反し、翌年の JAPAN PODCAST AWARDS では「ベストナレッジ賞」「リスナーズ・チョイス」の2つを獲るまでに成長

 

━━ 難しい部分ですね。たとえば、友達に雑談として話すときには、わざわざリサーチしませんものね。

 

 水野:
そうなんです。はじめの方は飲み会でしゃべるような感覚だったんですコメント欄に「こういう文献もありますよ」なんてコメントがくることは、想定もしていなかった。気楽だったんです。

 

━━ それが気楽にならなくなった瞬間、つまり、ゆる言語学ラジオが一気に多くの人の目に触れたタイミングがあったんですか?

 

 堀元:
動画としては、日本語の主語をテーマとした「象は鼻が長い」の回がバズり、それにあわせてほかの動画の再生数も伸びました。もともと、プロの言語学者ではなく、あくまでも「言語好き」が語るラジオというスタンスではありました。それでも、なるべく間違った発信をしないよう、下準備に今まで以上の時間をかけるようになったんです。

 

━━ ただ、指摘を真摯に受け止め、訂正内容をきちんと公開し、日本語学や言語学の研究者に監修を求める動きをされていたのを、いちリスナーとしてよく覚えています。

 

「象は鼻が長い」の訂正と、コンテンツの方針について語っている回より
https://www.youtube.com/watch?v=9QWgnPhAh0s

 

 水野:
ありがとうございます。下調べが必要だと判断した重たいテーマについては、より時間やコストをかけるようになりました。最近公開したものですと、「た」についての回や、赤ちゃんの言語習得の回ですね。

 

 

 

━━ そのリサーチは、どのようにされているんですか?

 

 水野:
参考文献は、最低10冊は読み込んでいます。まず、関連する本を5冊程度読むとおおよその勘所が掴めます。その後、よかった本の巻末で紹介されている別の本にも手を伸ばしたり、異なるジャンルや別の切り口の本も読んだりすることで、台本に重層さが出るようにしています。また、これから動画にする「生成文法」の回などは、その提唱者が書いたご本尊とも言える本は読むようにしていますね。

 

━━ ひとつのコンテンツにかける時間もかかりますし、専門書を何冊も買い揃えるのは金銭的にも負担ですよね。

 

 水野:
そうですね。ただ、今後はバリューブックスさんが参考書籍代をすべて受け持ってくれるので、とても助かります。なぜ僕らにお金をくれるのか、非常に不気味ですけれど。

 

 堀元:
バリューブックスさんとのコラボ回でも話しましたが、ビジネスってお金を取った方がいいですからね。

 

大盤振る舞いで頭が悪くなってしまったバリューブックス

 

━━ いやぁ、耳が痛いです(笑)。でも、ゆる言語学ラジオへの支援によってバリューブックスを知ってくれる人が増えれば、ビジネスとしても帳尻があうと思っているので。不気味だと思いますが、引き続きよろしくお願いします!

 

 

雑談こそがゆる言語学ラジオの醍醐味

 

━━ ゆる言語学ラジオへのスポンサードをはじめて、リスナーの人たちの熱狂度というか、濃さをものすごく感じています。公式グッズの販売をバリューブックスではじめましたが、1ヶ月で1,300個以上のアイテムが売れてしまって。しかも、「N = 1」Tシャツとか、ファンでないと意味がよくわからないものが多いのに……

 

意味が気になる人は、ゆる言語学ラジオを聴こう!
N=1 Tシャツ L【ゆる言語学ラジオ 公式グッズ】

 

 堀元:
そ、そうですか? だいぶわかりやすいと思うけどな〜。

 

━━ バリューブックスで販売を始めてから、いろいろなスタッフに意味を聞かれるんです。僕も答えるのだけど、ただ説明しても面白くならないじゃないですか。なので、僕が会社内で意味を説明してすべる、ということが多発していて。

 

 水野:
地獄だ。

 

 堀元:
大変な仕事を背負わせてしまって、すみません!

 

━━ いえいえ、いいんです! 言いたかったのは、これだけ多くのヘビーなファンがついているゆる言語学ラジオはすごい、ということで。とはいえ、さらに視聴者も増えてきていると思います。「もっとライトな回を増やそう」といった方向性の舵切りは考えているんですか?

 

 水野:
大きくコンテンツの方向を変えよう、とは思っていませんね。もともと、ヘビーなテーマだけでなく、ライトなコンテンツも上げていますから。

 

 

 水野:
ただ、以前にさまざまな語源の話をする回をつくったこともあるんですが、今はやめています。語源の話や知識をダラダラとしゃべっているだけだと、リスナーにも響きにくいんです。

 

━━ 面白いですね。逆を言えば、ゆる言語学ラジオは知識を取得したい、勉強したい、といった気持ちだけで聞いているわけではない。

 

 水野:
そうなんです。純粋に知識を手に入れるだけであれば、ゆる言語学ラジオは効率が悪いコンテンツとも言えると思います。以前、リスナーさんにどういった部分に面白さを感じているか聞いたら、みなさんバラバラで。極端な例ですが、僕と堀元さんの関係性や話のテンポを楽しんでいて、内容は全然覚えていない、という人もいるくらいです。

僕たちも、短い時間にたくさんの情報量をギュッと詰め込もう、とは考えていないんです。むしろ、ちょっと別の話も織り交ぜて長くしてやろう、と思っているくらいで。

 

 堀元:
ガツンと具材が乗ったラーメン二郎って、本体はあくまでもニンニクを美味しく食べさせるためのおまけだ、という話があるんですよ。

 

ニンニクを美味しく食べるためのラーメン

 

—— ?

 

 水野:

 

 堀元:
つまり、一個の事例を紹介する際に、似た他の事例もたくさん話すんです。長く話しているのは、思いついたことや面白そうな話をたくさん詰め込んでいるからと言えますね。

 

━━ 骨子となるテーマの幹に、たくさんの枝葉をつけている。情報量としては、その枝葉の方が多いくらいのコンテンツだ、ということですね。

 

 堀元:
はい、そういうことです。

 

 水野:
ラーメン二郎の例えは適切なのか……?

 

 

知的ふざけおしゃべり特化版のマフィアをつくりたい

 

━━ ゆる言語学ラジオは、おふたりの活動だけでなく、「ゆる◯◯学ラジオ」を生み出すためのプロジェクト、「ゆる学徒ハウス」も始められましたよね。ラジオのパーソナリティーを一般公募して、さまざまな話し手を生み出そうとしている。

 

 

 堀元:
新しい番組が増えるということは、僕たちと気の合うパーソナリティーが生まれるということなんです。隣接するジャンル同士でコラボしたりと、おたがいを活かせるようになる。知的にふざけながらおしゃべりする集団をつくって、マフィアみたいにしたいですね。

 

早速、多種多様なコンテンツが集う「ゆる学徒ハウス」

 

 水野:
マフィアて。グループ YouTuber でええやん。

 

━━ まぁ、ある企業から輩出された起業家たちを含めて「PayPal マフィア」や「Google マフィア」と呼んだりしますもんね。

 

 堀元:
まさにそういうイメージです! ゆくゆくは、ビルも欲しくて。

 

━━ ビル。

 

ビル。

 

 堀元:
ビルの2階がスタジオで、所属するパーソナリティーたちが自由に収録できる。1階を物販兼コミュニティスペースにすることで、ファンとパーソナリティーの交流もできる。そんなリアルな空間をつくりたいですね。

 

━━ 壮大な計画ですが、楽しみだなぁ。バリューブックスとしても、様々なサポートや、リスナーが楽しめるコラボ企画を開催し、「ゆる言語学ラジオ・ビル」取得の一助になれたらと思います。引き続き、よろしくお願いします!

 

 堀元:
ぜひぜひ! 今度、バリューブックスさんが拠点を置く長野にも遊びに行かせてください!

 

 水野:
これからも、ゆる言語学ラジオをよろしくお願いします!

 

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8/31 まで、ゆる言語学ラジオとのコラボ企画を実施中です!
終了まであとわずか、ぜひご参加くださいませ〜!

 

積み本を売って「ゆる言語学ラジオ」グッズを手に入れよう!

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

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