EndPaper

本に触れる。
その小さなきっかけを届ける
ウェブマガジン。

2022-01-19

納品書のウラ書き vol41 夜の手ざわりを確かめながら

バリューブックスの本を購入していただいたお客様にお届けしている「本の納品書」
その裏面に掲載している書評「納品書のウラ書き」のバックナンバーを公開します。
納品書のウラ書きにまつわる詳しいストーリーはこちらをご覧ください。

 

——

口からは白い息がこぼれでて、両手をポケットにしまい込みたくなる冬の夜。早く暖かい我が家に帰りたいでしょうが、少しだけ、夜の感触を味わってみませんか。街灯の先は暗くてよく見えないけれど、見上げると小さな星々がまたたいている。まるで世界に自分だけのような孤独を覚える夜は、内省するのにほどよい空間なのかも。夜との対話は、自分との対話。家に着いてからもそんな感覚を保てるように、不思議な短編集、夜の手触りを感じられる絵本、星との対話を収めた日記を選んでみました。あなただけの夜。それは、どんな手触りだったでしょうか?

 

 

ミルハウザーが紡ぐ物語に触れていると、僕の頭は奇妙に揺り動かされます。幽霊が時折姿を見せる街、人魚の死体に心や生活をかき乱されていく人々。非現実的な設定は、隅々までリアルに描かれる筆致で支えられているけれど、それでもやっぱり、おかしい。不思議な出来事それ自体ではなく、戸惑い、興奮し、未知との出会いに恋い焦がれる”私たち”に焦点を当てながら、物語は進みます。見知っているはずの世界を覆い隠し、異世界への入り口を垣間見せる夜の闇。ミルハウザーは、その奥へと私たちを連れて行ってくれるのです。

『夜の声  

スティーヴン・ミルハウザー著 柴田元幸 翻訳(白水社)

 

 

 

時にページに穴が空き、時に半透明の紙が現れながら、小さな虫になった心地で世界が探検できる仕掛け絵本。稀代のデザイナーであるブルーノ・ムナーリが手掛け、長らく品切れ状態であったものが、彼の生誕110周年を記念して復刊されました。真っ暗な夜にぽつんと浮かぶ光を追いかけながら、舞台は草原へ、そして洞穴へと移っていく。変化する紙の形や素材が物語に深い奥行きをつくり出すことを、ページをめくるたびに実感させられます。目だけでなく、手でも十二分に楽しませてくれる美しい1冊です。

『闇の夜に』 

ブルーノ・ムナーリ著 藤本和子 翻訳(河出書房新社)

 

 

 

 

1960年に岡山県の山の上に建設された、岡山天体物理観測所。この天文台の副所長を務めていた著者による、星の観測日記、もとい「観測者日記」です。星の軌道を観測し、その生態をつまびらかにするのが役目ですから、昼夜は逆転。沸かした牛乳を飲み、眠気覚ましにレコードをかけながら、星との対話を続けていきます。時折り、天文台を訪れる息子や同胞の科学者たちとの交流を重ねながら。何光年と離れた星々と、目の前の来訪者とのやりとりが同じ親しさで語られるのが、なんとも気持ちよい。静かな観測者の生活が、夜に温かな光を灯します。

『天文台日記   

石田五郎著(中央公論新社)

posted by バリューブックス 編集部

BACK NUMBER