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2021-06-30

リビセンがレスキューをやめる日。失われるモノと文化が循環する未来を目指して。

 

 

バリューブックスが手掛ける移動式本屋、「ブックバス」。この素敵なバスをつくってくれたのは、長野県諏訪市で活躍する ReBuilding Center JAPAN です。

 

 

 

 

捨てられるモノ、失われる文化の価値を再発見して、今の社会へと循環させていく彼ら。新型コロナウィルスの影響や人々の環境意識が変わる中で、どのように活動を続けているのか。そして、どんな未来を描こうとしているのか。

代表の東野唯史さんに、ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン) の「変わる今とつくりたい未来」をお聞きしました。

 

 

ReBuilding Center JAPAN
2016年創業。長野県諏訪市にて、古材と古道具を販売する建築建材のリサイクルショップ。家屋や工場の片付け・解体の現場に伺い、行き場を失ったモノのレスキュー(引き取り)をしている。「REBUILD NEW CULTURE」の理念のもと、捨てられるモノ、忘れられていく文化を見つめ直し、本質的な価値を伝えながら再び誰かの生活を豊かにすることを目指す。古材を活かした店舗や施設の空間設計、オーダー家具の制作、地域から出る古材を使ったワークショップの開催、高性能断熱改修を施した中古住宅のリノベーションなど、様々な事業も手がける。

 

 

コロナ禍でも成長を続けるリビセン

 

━━ 東野さん、今日はよろしくお願いします。まず率直に、諏訪で実店舗を運営されていることもあって、新型コロナウィルスによる来客数の減少など、様々な変化があったんではないかと想像しています。まだその渦中とは思いますが、いかがでしたか?

 

まず、リビセンの主軸である古材・古道具のレスキュー(引き取り)は、コロナが広がってから依頼が増えたんです。

 

━━ え、そうなんですか! 

 

みんな、家にいる時間が増えて、片付けの需要が出てきたんでしょうね。リビセンでレスキューするのが難しいと判断した依頼は事前に断っているんですが、ふだんの成約率と変わらず、単純に仕入れ量が増えた形です。

 

━━ そうか、不用品を片付けよう、という気運が高まったんですね。ちなみに、どういったモノはリビセンでレスキューできないんですか?

 

新しいものは厳しいですね。かんたんに言えば、街のリサイクルショップでまだ値が付くようなものであれば、リビセンよりもそちらに持っていった方がいいと思います。ただ、リビセンは広告を打ってレスキュー依頼を集めたりはしていないので、そういうギャップは少ないですね。メディアでリビセンの活動を知った人や、来店して店の雰囲気を感じ取ってから連絡してくれる人が多いので、ミスマッチはあまりないかな。

 

 

 

 

━━ 仕入れは増えた。でも、お店は閉めていましたよね。販売についてはまだ厳しいんじゃないでしょうか?

 

それが、お店の売上も増えているんです。たしかに、去年の4〜5月は完全にお店は閉めて、6月もカフェ営業はお休みしていました。その間は売上は減ったけれど、なぜかお客さんが増えていって。その理由がまだ分からなくて、ちょっと不思議です(笑)。

閉めている間も、新しい棚をつくったり商品を整理したり、ただお休みするんじゃなく内側の調整に時間を使っていました。それに、コロナに合わせてオンラインストアも強化したんですが、それも伸びていますね。なので、全体としてはコロナの前より売上は増しているんです。

 

 

様々なアイテムが並ぶ ReBuilding Center JAPAN のオンラインサイト。
https://rebuildingcenterjp.stores.jp/

 

 

古材が持つメッセージを活かそうとする人が増えている

 

━━ 仕入れが増えて、売上も上がる。すごいですね。世の中にリビセンの認知度が上がっているのも大きい気がします。

 

はい、それは大きいと思います。当たり前のことだけど、続けるって大事なんだな、と実感してます。ありがたいことに、店舗の設計やリノベーションの仕事も減っていないんです。リビセンに頼みたいと思ってくれるお客さんって、いい意味でマーケティングを気にしていないみたいで(笑)。こういうお店をつくりたい、という熱意が原動力の人が多いんですよね。

また、「古材を使う」という選択肢を持つ人が増えていると実感してます。SDGs という言葉をよく見聞きするようになったけれど、みんな環境意識が高くなってきていますよね。環境のことを考えると、海外よりも国内の木を使う方が、国内の木よりも古材を使う方が、負荷は一番かからないんです。製材や運搬にかかるエネルギーが発生しないし、もっと言えば古材を捨てるとなると、木の中のカーボンを燃やして廃棄することになるので、その分 CO2 も出てしまう。古材を活かすことができれば、その分、環境負荷は減らせるんです。

リビセンへの設計依頼も、「古材を使ってお洒落な空間をつくりたい」というものよりも、「環境に配慮した空間というメッセージを打ち出したい」という依頼が増えてきている印象ですね。

 

 

 

日本中に広がっていく新しいリビセン

 

━━ リビセンを取り巻く社会が変わりつつあるんですね。ちなみに、そうした状況を踏まえて、社内の動きや姿勢に変化はありましたか?

 

実は、最近になってはじめて社内研修をしたんです。スタッフも全員参加で。というのも、今、リビセンのコアバリューをつくっているんです。そのコアバリューに対して、どういう考えを持って行動していくといいのか、これからの1年どういう風に働いていきたいか、みんなで話しながらグループワークをしました。

 

━━ コアバリューの策定と、スタッフ全員での研修。どうしてこのタイミングで始めようと思ったんですか?

 

リビセンが広がっていく兆しが見えてきたからです。現在、3カ所から「リビセンみたいなことをしたい」という声が届いているんです。リビセンのフランチャイズをしたい、リビセンと一緒に店を運営したい、コンサルに入って欲しい……と内容はそれぞれで違いますが、どれも「古材・古道具をレスキューして販売したい」という思いは同じで。

リビセンの名前が広がっていくからには、「リビセンとは何なのか」というコアバリューを伝えることが大事だと思ったんです。リビセンに来て、楽しそうな顔で帰っていく人たちがいる。どうしてあの人たちは楽しかったんだろう? それを、自分たちでもきちんと言語化する必要があると感じたんです。

 

━━ 日本中にリビセンが広がっていく…… わくわくする未来ですね。

 

でも、言語化だけじゃなく、リビセンを儲かる事業モデルとして確立させないといけない、とも思っているんです。たしかに「環境への負荷を減らしたい」という意識を持つ人は増えているけれど、そうした倫理観だけで事業を広げていくには限界がある。ビジネスとしてしっかり成立するからこそ、同じようなことをしたい、と思う人も増えるでしょうから。

 

 

 

レスキューをやめる日が来るかもしれない

 

━━ ジワジワとリビセンの活動が広がっていくなか、最終的に描きたい未来について教えてください。

 

大きな話になってしまうけれど、日本に新しい条例・法律が生まれるようにしたいですね。

リビセンは、ポートランドの「リビルディングセンター」(以下、 RBC )をモデルとして立ち上げました。ポートランドには、とてもいい条例があるんです。2016年に制定された「1916年以前(100年前)の建物を解体する際には、重機を使ってはいけない」というもの。

ポートランドはブームもあって人口が増え、それに伴って投資家もたくさん来るようになったんです。投資家としては、需要があるのだから古い建物は一気に壊して、ビルを建てたくなる。でも、そうなると昔ながらのポートランドが好きだった住民たちは出ていくことになる。それで、この条例ができたんです。

重機が使えず、手作業での解体となると、費用がかかるので投資効率が落ちますよね。だから「リノベにしよう」という動きが増える。解体することになったとしても、その古材は RBC や他の古材屋さんが買い取って、コミュニティで循環することになる。

この条例が出来た背景には RBC の存在も大きかったと思います。RBC は重機を使用しない解体も行っていたんですが、条例が出来てから時間が経ち、手作業の解体をする会社が増えてきた。なので、 RBC は2018年に「解体の仕事はもうやらない」と宣言したんです。「解体業者が増えたので、自分たちがやる必要はなくなった。出てきた古材は買い取るから」と、解体業者のリストもサイトに掲載して。

 

 

 

 

━━ 自分たちの存在によって社会が変わったから、自分たちはそこを任せて次のステージに向かう。すごくスマートな動き方ですね。

 

本当にそう思います。日本でも同じように、古い建物はリノベーションする、もしくは手作業で解体する、というルールが生まれ、それによって古い家やモノの価値が受け継がれる社会になって欲しい。そんな未来をつくるために、僕たちは日々レスキューして、古材を活かし続けています。

だから、ポートランドの「リビルディングセンター」のように、ゆくゆくは僕たちリビセンがレスキューをやめる日が来るかもしれない。そんな社会にしていきたいですね。

 

 

 


 

本取材はバリューブックス14周年を記念したコラボキャンペーン「ほんのきもち」に際して行われました。

リビセンの素敵なプレゼントが “もれなく” 手に入るキャンペーンに関して、詳しくは特設サイトをご覧ください。

 

「ほんのきもち」特設サイト:https://www.valuebooks.jp/anniversary

 

 

 

ReBuilding Center JAPAN HP:http://rebuildingcenter.jp

 

 

posted by バリューブックス 編集部

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