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2021-06-30

味わいを変え、販路を変え、美味しさだけは揺るがない。ペットボトル提供も始めた、進化を続ける丸山珈琲の未来。

 

長野県軽井沢に本店を構える丸山珈琲。産地の買い付けからお客さまに提供するカップ一杯に至るすべてのプロセスに密接に関わることで、上質なスペシャルティコーヒーを日々届けています。昨年から、バリューブックスと丸山珈琲はコラボキャンペーンを重ねており、今回もご一緒させていただくことになりました。

 

昨年末から実施した丸山珈琲とのキャンペーン

 

今回お話をお伺いしたのは、代表でありながら、バイヤーとして世界各地の産地を巡り自らコーヒー豆を厳選されている丸山健太郎さんです。これまでは1年の半分近くを海外で過ごし、世界中の高品質なコーヒーを買い付けていた丸山さんですが、新型コロナウィルスの拡大で状況は一変。丸山さんは何を考え、どのような変革をされてきたのか。丸山珈琲の「変わる今とつくりたい未来」についてお話を聞きました。

 

 

コーヒーは嗜好品なのか、日常飲料なのか? 丸山珈琲の原点回帰

 

丸山珈琲
1991年に軽井沢で創業し、現在、長野と東京を中心に9店舗を展開。代表取締役社長の丸山健太郎がバイヤーとして世界中の産地を自ら巡り、個性豊かな各地の高品質コーヒー豆を直接買い付けを実施。「いつものコーヒーがもっとおいしくなれば、毎日はもっとしあわせになる」をテーマに、産地からカップに注がれるまでのプロセスに密接に関わり、生産者の想いが詰まった至高のコーヒーを届けている。

 

 

━━ 本日はよろしくお願いします。実は、つい最近も家族が長野に来た時に、丸山珈琲の豆を買って帰りたいと言っていたので、お店を案内しました。

そういう風に、わざわざ買いに来るものというイメージが丸山珈琲にはありますよね。そういったブランドは、やはりこれまで意識して作られてきたのでしょうか。

 

よろしくお願いします。イメージづくり、つまりブランディングというのは「何をやらないか」を決めるということです。ここには手を出さないと決めることによって、ブランドはつくられていくと思っています。ただ、ここ最近ずっと私が悩んでいたことがありまして。コーヒーは嗜好品なのか、日常飲料なのかということです。

自分としては、6:4、7:3くらいの割合で、嗜好品としてのコーヒーを提供してこようとしていました。たとえば有名スポーツカーだと、100の需要があったら、99しかつくらない、といった戦略です。同じようなことを考えつつも、これは何百万もする車や、1本1万円以上するワインといった、高級品で成り立つ話です。コーヒーは毎日飲むものですよね。あまりにハイエンドにしてしまいますと、だれも飲まなくなってしまう。そこがいつも迷っていたところなんです。

社会が変わったことで、ずっと家に閉じこもって、会議は zoom で行っていました。その間に家で飲むコーヒーは、本当に大切なものだと気づいたんです。1日のアクセントとして、日常飲料として、すごく重要な存在だと実感しました。もちろん、嗜好品の面も大事にしていますが、日常飲料としてうちのコーヒーがお客さまにすごく喜ばれているという感覚を、今一度認識しなきゃないけない。それで今は、そういう方向にも力を入れています。

 

━━ なるほど。丸山珈琲のこれまでを振り返っても、大きな変化が求められた1年だとは思いますが、その中でもこれはやらない、変えないと決めていたことはあったのですか。

 

答えは1つだけで、それは味です。

たとえば、いままで目にすることがなかった量販店での取り扱いが始まったとして、はじめは「なんだ、丸山珈琲はこんなところで売っているのか」と思われるかもしれません。しかし、一口飲んでみたら「うまいじゃないか、さすがだな」と思えるものを提供することは、変えてません。丸山珈琲の価値をいろいろと削ぎ落としていくと、最後に残るのは品質だと考えています。

ただ、いままでよりもう少し広い範囲の人に楽しんでいただかないとな、と思っています。スペシャルティコーヒーというのは、いわば点数にすると80点から100点のコーヒーなのです。その中で、ずっと私たちは85点以上のものを、下手したら90点以上のものを提供してきました。

正直、80点から85点のコーヒーも、飲んだらとても美味しいんです。その中で、85点以上のものにこだわり続けるということは、幅を狭くしてしまうと思っていて。

 

━━ 味・品質は保ちつつも、層を広げていこうと。

 

そうですね。もともとツルヤさん(長野県を中心に展開するスーパー)では、以前からそういう意識を持って展開してきました。イメージを毀損せずに、むしろそれでいいと思ってくださるお客様がついてきてくれた。

そのような経験もあって、品質を保ちつつも、広げていくことに力を注いでいきたいと思っています。

実は、去年の夏ぐらいまでは店舗を増やそうと考えていました。コロナ禍で、他業種含め撤退する店舗も増えるだろうと。こういう言い方はいいかわかりませんが、この状況をを逆に出店のチャンスだと捉えている面もありました。しかし、いろいろと見通しつかないなかで、安心して飲食を行う店舗を増やすことは、やはり難しいと思って。今一度、私たちの原点に戻ることにしたんです。

 

━━ 原点とは、具体的にはどのようなことでしょうか?

 

丸山珈琲と聞くと、軽井沢の店舗など、おしゃれな喫茶店のイメージがあるかと思います。店内には腕利きのバリスタがいて、香り高いコーヒーと共にスペシャルティコーヒーの体験を提供する喫茶店を運営している。そういうイメージをお客さまには抱いていただいてきました。

意外に思われるかもしれませんが、昔から売り上げの半分以上がコーヒー豆の販売であって、これまでずっとコーヒー豆の焙煎業者として成長を重ねてきたんです。

 

 

━━ たしかに、自分も喫茶店としての丸山珈琲のイメージが強いです。

 

実際は、私たちは豆を買付けるところから、最後の1杯のコーヒーをカップに入れて提供するところまで、業界における川上から川下までを一貫してやっています。つまり、時代に合わせてどこのポジションを強くしていくかを選べるということです。

コロナで業界全体のゲームがガラッと変わったことで、まずは原点に戻ろうと決めました。出店のことを考えていたのが、急転直下、逆に店舗を閉めることにしました。辛い決断ではありましたが、去年の10月末で、長野駅前のMIDORI長野店、そして鎌倉、表参道と、どれも好立地な店舗を閉めました。

一方で、各地域の地場のスーパーでの取り扱いを始めていただいたり、オンラインにも力を入れたりしたことなどもあってか、緊急事態宣言の延長や、各店舗の売上減少をそんなに気にしなくてもよくなりました。もちろん、全く意識していないわけではありませんが。

 

━━ 今の話をお聞きして思ったのは、コーヒーというものそれ自体の需要はなくならないからこそ、注力するポイントを変えつつ、ここ1年の世の中の大きな変化に対応されていったんだろうなということです。

丸山珈琲に限らず、お店に行って、そこでゆっくりコーヒーを飲む時間をとるのが、なかなか難しい時代になったと思います。再びお店の中でゆっくりコーヒーを楽しむ時間がいずれ戻ってくると考えられているのか、あるいは、それはかなり先になるという前提なのか、どのように考えられているのかお伺いしたいです。

 

ある程度コロナが収まれば、当然立地的な消費はあると思います。みんなで飲んでわーっと盛り上がったり、集まって一緒にじっくりとコーヒーを楽しんだり。そういった一時的な盛り上がりはあると思いますが、以前と同じ状態に戻るとは、正直思っていません。

たとえば、巣篭もり中に「これって家で楽しめるじゃん」と感じた方もいるかと思います。自宅で家族とともに、マグカップで飲む一杯の時間もいいなと。

コーヒーはこう楽しむものだ、という前提が実はそうでもなかったと分かった、ある種いい機会だったと思います。

飲食店のあり方も変わってくると思いますし、コロナのみならず他のウイルスのパンデミックも予想されます。今の私の気持ちとしては、いろいろなことが落ち着いたからといっても、じゃあお店をドンドン開いていこうとは考えていません。飲食店とはなんなのか、カフェとはなんなのか、もう一回分解して考える必要があると思っています。

 

 

 

10年前の自分が聞いたら、「そんなバカな」と言われることを今やっている。

 

━━ さきほど話にあった「日常飲料としてのコーヒー」に関連しますが、今回のバリューブックスとのコラボ企画のプレゼント内容の1つに、ペットボトルのブラックアイスコーヒーがあります。ボトルでの販売は初めてということですが、その経緯や思いを聞かせていただけますか。

 

創業30周年を迎え新たな挑戦として、
「丸山珈琲のブラックアイスコーヒー(無糖)」を2021年6月10日から販売開始した

 

10年前の私に、「ペットボトルのコーヒーをやるんだぞ」と言ったら、「そんなバカな」と言われると思います。面白いのが、今は丸山珈琲でデカフェを提供していますが、はじめはそんなつもりは全くなかったんです。ドリップバッグもそうです。邪道とは言いませんが、そんなもの美味いはずがないと思い込んでいたのです。

ある時などは、アメリカのコーヒー業界の友人が転職したと聞いて、どこに転職したのと尋ねてみると、デカフェの会社に転職したと。その時の自分の反応といったら「え、まじか、お前……」みたいな感じでした(笑)

「高品質で有名な大きな会社にいたのに、その会社やめて、なぜわざわざデカフェの会社に勤めるんだ」と話をしたら、「健太郎、それは違うぞ」と。いい豆にデカフェの処理をしたら、ちゃんと美味しいんだと言うんです。実際にコーヒー豆をもらって、日本に帰って飲んでみると、たしかに美味しいんですよ。正直びっくりしました。そして、丸山珈琲で扱っている豆もデカフェの処理をしたら、それも美味しいデカフェになりました。

デカフェだから美味しくない、ドリップバッグだから美味しくない、作り方や点(た)て方のせいにしていたんですが、美味しくないとしたら、全部材料のせいなんですよ。「こういうものだから、こんなもんだろ」という気持ちでつくってしまうことが、味の劣化に繋がってしまっているんです。それで自然と、みんな「あのジャンルのコーヒーは美味しくない」というイメージが付いてしまっている。

 

━━ ペットボトルも例外ではないと。

 

正直、ペットボトルの製品化は不安ではありました。ただ、さきほど述べたように、日常飲料として幅広く・簡単に楽しむ体験を提供するためには、やらなきゃいけない商品だと思ってチャレンジしてみました。

結果、非常に美味しくできたんです。びっくりするぐらい。いろいろな制約があって、焙煎や抽出の試行錯誤はありましたけど、これも「いい素材を使えばいいんだ」というのが非常によくわかりました。

 

━━ これまでの丸山珈琲の積み重ねがあってこそですよね。提供方法を考え直したり、販路の開拓を本気で検討する。常に柔軟なチャレンジをされてきたからこそ、今回のペットボトルも実現したのですね。

 

たとえば、初対面の方に挨拶する際に、もしそこでペットボトルを持っていたら、わざわざ店舗に足を運んでいただかなくても丸山珈琲の味を知っていただける。それくらい美味しいものができたと思います。そういう意味では、魅力が伝わりやすくなったのかな、とも感じています。

 

 

 

コラボを通した、切磋琢磨

 

━━ ちなみに、今回は本屋であるバリューブックスとのコラボレーションですが、丸山さんはきっと幼いころから読書に親しんでいますよね。とある記事で、小学生のころからウパニシャッド哲学に興味を持っていた、なんてエピソードも拝見しました。

 

変な小学生ですよね。昔から本は好きなんですよ。大事な出会いや、大事なインプットは、ネットもない時代というのもあり、本から得ていました。あの時に、たまたま見つけた本で人生が変わることってありますよね。

小学生のころ、町に一軒あった本屋の棚の上に、なにか怪しい本があったんですよね。おそるおそる手に取ってみると、ハードカバーのインド哲学の本だったのですが、値段が1300円もする。当時、『週刊少年ジャンプ』が70円や80円の時代です。こんなに高い本買う人がいるんだな、いつか買いたいなぁ、と感じていて。のちに買うことはできたんですが、そういった本との出会いは今になっても大事な資産だと思っています。

 

━━ なるほど。幼少期から本を通して、世界を広げていたんですね。

 

そうですね、特にビジネスのことは本で学びました。うちの妻が、僕があまりにも本を買ってくるもんだから音をあげまして(笑)。しかも、気がつくと同じ本を買っちゃったりすることも。そんなこともありますが、昔から本というのは絶対投資すべきものだと思い、読み続けてきました。

 

━━ 今回、私たちバリューブックスとのコラボが始まりましたが、丸山珈琲はこれまでにも様々な企業とコラボされていますよね。

 

素材にこだわった「ものづくり」に取り組む丸山珈琲と霧島酒造によるコラボレーション商品「焼酎コーヒーゼリー」
2021年の新商品として現在好評発売中。詳細はこちらから

 

私、コラボが好きなんですよ。最近はやりすぎだと社員に言われて、自重気味です(笑)

ただ、今後もコラボを行なっていきたいと思っているんです。「社員のモチベーションアップ」と「ブランドの成長」という2つの側面から、コラボの価値捉えています。

 

━━ 社員のモチベーションアップ、もう少し詳しくお伺いしたいです。

 

コーヒー屋って、毎日同じ作業の繰り返しなんです。朝出勤して、掃除して、店が始まって、コーヒーを提供して、最後にレジ閉めて、と忙しい。もちろん、そういった1日を通してのお客さまとの交流は大切にしていますが、基本的には地道な作業の積み重ねです。

そんな中、たとえばいろいろな企業や文化とコラボすることによって、働いているスタッフも誇らしく感じることができる。自分たちの職場が、コーヒーというものに価値を見出されているんだ、と実感できるのは、いいモチベーションになると思っています。

また、ブランドの成長という面では、第一線で活躍されている他業種の方と組むことで、とても大きな刺激を受けることができます。チョコレート、お茶、あるいはワインなど、さまざまな方々とのコラボを通してインスピレーションをいただいています。もちろんこちらとしても、良い影響をコラボ先にも提供できているとは考えていて。

コラボという切磋琢磨を通して、互いに成長することができていると思っています。

 

━━ コーヒーと本は、相性がいいと言われることが多いですよね。そういう意味では、丸山珈琲とバリューブックスのコラボも広がりがありそうですね。

 

音楽でいいますと、ベートーベンの楽曲に合うコーヒーを提供する企画をしたこともありました。そのような文脈で、本に合うコーヒーを選ぶのは面白いかもしれません。本に合わせてバリスタがコーヒーを勧める、という形ですね。

ただ、うちもコラボを色々やってきているので、気をつけないと自己満足で終わってしまう危険性もありますね。きちんとコーヒーに広がりを持たせ、売上に繋がることができたらいいなと思っています。

やるからには、本もコーヒーも売れるようにしたいですからね。

 

丸山珈琲 ハルニレテラス店には、バリューブックスが選書した本が壁一面に並んでいる

 

━━ 逆に、丸山珈琲の豆に合わせて本を選書する、なんてこともできそうですね!今回のコラボをきっかけに、いろいろな展開を今後ご一緒できるとうれしいです。

 

 

 


 

本取材はバリューブックス14周年を記念したコラボキャンペーン「ほんのきもち」に際して行われました。

丸山珈琲の素敵なプレゼントが “もれなく” 手に入るキャンペーンに関して、詳しくは特設サイトをご覧ください。

 

「ほんのきもち」特設サイト:https://www.valuebooks.jp/anniversary

 

 

 

丸山珈琲HP:https://www.maruyamacoffee.com

 

 

posted by バリューブックス 編集部

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