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2021-03-08

「本だったノート」ができるまで

 

約1万冊

 

こちらの数字は、バリューブックスが1日に古紙回収に回している本の数です。

バリューブックスには、毎日約2万冊の本が届きます。そして、実はそのうちの半分を買い取ることができていません。

バリューブックスから出た本も、みなさんが古紙回収の日に出した本たちも、最終的には製紙工場に運ばれ、新しい紙へと生まれ変わります。

古紙回収に回すことが悪いことではない、けれども、もっと別の形で価値を生むことができないか。そんな考えから「本だったノート」の制作が始まりました。

 

 

過去には、本が本としての命を終え、そして紙として新しい始まりを迎えるまでの道のりを取材しました。
「本が命を終えるとき—古紙回収のゆくえを追う—」

 

 

紙のことならと、まず最初に相談を持ちかけたのが 藤原印刷 さんでした。

藤原印刷さんは、書籍に特化した創業約70年の印刷会社で、バリューブックスと同じく長野県に本社を構えています。

創業者である女性タイピストの藤原輝さんが、心を込めて一文字一文字を打ち込み、一冊一冊大切に本を作ってきたことを、“心刷” という言葉で表現し、会社の理念として掲げています。心を込めて作品づくりと向き合っている、僕たちも何かにつけお世話になっているとっても素敵な企業です。

 

 

藤原印刷 印刷工場の外観。2019年に開催された「心刷祭」にて。

 

 

専務取締役の藤原隆充さんに僕たちが考えていることを相談した際に、紹介いただいたのが、大阪の 山陽製紙 さんという会社。山陽製紙さんについて調べていく中で、創業92年という歴史あるメーカーでありながら、古紙の再生など、環境に配慮した事業展開に力をいれている企業ということがわかりました。

藤原印刷さん、山陽製紙さんとならなにかできるかも…… と相談をはじめたのが今年のはじめのこと。そこからあれよあれよという間に(なんと約1ヶ月で!)形になったのが「本だったノート」です。

 

こちらの記事では、本だったノートができるまでの過程を追ってみます。

 

研究から、製作まで。ニーズに答える再生紙のスペシャリスト

 

 

「こんな紙はできないか?」といったニーズに答えるべく、各種専門機器を備えた研究開発室をもつ山陽製紙。再生紙とオーガニックコットンを混ぜ込みできたメモ帳、コーヒー粕を入れた紙でつくられた名刺、工業用クレープ紙が原料のレジャーシートなど、さまざまな紙に、新たな命を吹き込んだ製品をつくってきました。

一般的に製紙メーカーが対応できない、小ロットでの製紙を請け負っているからこそ、これまでに多くの企業との協業を重ねることができたのです。

 

古本を用いた再生紙の製作は、過去に試したことがないとのことでしたが、担当の長谷川さんからは「できると思います。まずはやってみます。」と心強い返答が。

 

実際の 抄造* 現場を zoom で中継いただきましたので、写真とともに時系列で紹介できればと思います。

 

正直心が痛む光景もあります。ただ、日々たくさんの本が古紙回収に回っているということ、また、今回の取り組みを通してそれらが新たな価値を生みだす兆しを感じ取っていただけたら幸いです。

 

*抄造(しょうぞう):紙の原料をすいてつくる製紙方法。

 

溶かす、混ぜる、紙になる

 

 

こちらが、山陽製紙さんにお送りした “古紙回収に回すはずだった本” たち。

出来上がりの状態を安定させるためにも、今回は文庫本と新書のみを選び、カバーを外した後に、抄造場のある大阪府泉南市にお送りしました。

 

 

まずは「パルパー」と呼ばれる巨大なミキサーのような機械で本と水を混ぜながら、細かく粉砕、液体状にしていきます。

山陽製紙さんで活用される水は、地下水(伏流水)を活用しています。また、製造過程で排出する水は、高度排水処理設備を導入し、魚がすめるほどの綺麗な水にして川に返されているとのこと。

 

 

 

抄造をするのに、欠かせないのがこちらの素材です。みなさんのご家庭にもあるだろう身近なものを活用しているのですが、何だと思いますか。

 

実は、こちら牛乳パックです。

 

最終的に紙になった際の状態を安定させ、書き心地と紙の強度、一番は環境負荷の低減などを担保するために牛乳パックと合紙から成る再生パルプを混ぜていきます。

今回は、古本と牛乳パックから成る再生パルプの割合は半分ずつ、それぞれ300kg 用意しました。

 

牛乳パックから成る再生パルプも加え、撹拌し液体状に。

 

2つの原料がまたたく間に混ざりあっていく。

 

 

蒸気で、乾かし、紙になる!?

 

「シクナー」という機械で原料を洗い、濃縮させて原料濃度を安定させる。

 

原料が混ざり合ったところで、それらを漉し、紙の状態に整えていきます。

話をお伺いしているなかで、驚いたのが乾燥させる方法について。薄く伸ばした紙をロール状に挟み込み、水を絞ったのちに乾燥させていくのですが、“蒸気” から発生する熱を活用し乾燥させていきます。

蒸気の熱エネルギーを湿紙に出来るだけ無駄なく伝えることで、高い生産性を生むことができるとのこと。

紙に加工する過程で余分な水分を除いていく。

 

ドライヤーによる、蒸気での乾燥を行う。

 

乾燥させた後は、シート状に巻き取り……

 

原料の完成。最終的な品質は、熟練した技術者によるチェックが欠かせない。

 

 

こうした過程を経て、本が再生紙へと生まれ変わっています。

ロール状にした再生紙は「四六全判」サイズに断裁された後、藤原印刷に送られ、印刷工程に移ります。こちらの断裁作業ではミリ単位の調整が必要になるため、人による最終的なチェックが必須です。

 

四六全判サイズに断裁し、藤原印刷さんに送られる。

 

 

印刷のプロフェッショナル集団、藤原印刷

 

印刷工程に立ち会わせていただけるとのことで、バリューブックスの本社から車で約1時間、松本市の藤原印刷さんに足を運びました。

 

山陽製紙さんから送られてきた「本だった紙」。

 

 

今回のデザインを担当してくださった太田真紀さんと共に、藤原印刷の藤原隆充さん・小澤信貴さん説明の下、印刷工程を見学させていただきます。

 

実は今回使用するインクにもこだわりが。

藤原印刷さんで日々出てくる「廃インク」を活用し、印刷をしていきます。用意したのは4種類のインク。元々、朱肉の色を出すためにつかわれていたインク、心理学の雑誌に使われていたインクなど、インク1つとってもそれぞれのストーリーを感じます。

 

まずは印刷機のローラーにインクをなじませていく。このインクは心理学系の雑誌で使われていたもの。

 

藤原印刷 小澤さん。アルミ素材の刷版にインキを付着させて用紙に転写(印刷)をしていく。

 

 

山陽製紙から届いた紙は印刷機のサイズに合わせ、藤原印刷にて「四六判四切」サイズに断裁されます。「本だったノート」の最終的な仕上がりサイズは縦横105×173mm の新書サイズになるのですが、このサイズにした理由も、断裁時に出る紙のロスを極力減らすため。

 

“できる限りの循環を生めるようなノートにしたい” そんな僕たちの要望をすこしでも実現できるよう、藤原印刷さんの熱意と経験を生かした提案をいただき、このノートが段々と形になっていきます。

 

断裁した紙を印刷に丁寧にセットしていく。

 

朱肉の色を出すためにつかわれていたという鮮やかな赤色。

 

 

最後は「ひと」がものを言う

 

印刷に特化したさまざまな機械が立ち並ぶ藤原印刷さんの工場。それぞれの機械が轟音を上げ、ものすごいスピードで印刷物ができ上がっている様子は圧巻でした。

けれども、どの工程にも必ず人が起点となり、1枚1枚が印刷されていきます。機械化、効率化が進められてはいますが、最後は「ひと」による心が込もった手仕事がものを言う場所なのだと強く感じました。

 

デザイナーの太田さんも加わり、最終的な印刷具合を調整していく。

 

仕上がりの確認が済んだものは1枚ずつ、OKの文字を。

 

完成した4色の「本だったノートの元」を手に記念写真をパシャり。

 

 

 

手作業が光る、ちいさくて、ていねいな製本所

 

本だったノートの完成まで、あともう一息。長野市の製本会社 宮島製本所 さんに向かいます。宮島製本所は、長野県内で唯一「紙ホチキス」を扱われているとのことで、藤原印刷さんにご紹介いただき、今回の製本を依頼させていただきました。

紙ホチキスとは? 代表取締役の宮島美彦さんに製本の様子を説明いただきながら、お話を伺いしました。

宮島製本所 代表取締役の宮島さん 

 

 

宮島さんは約40年続く、宮島製本所の2代目です。宮島さんの工場では、製本過程のほとんどが手作業。1冊1冊ていねいにつくりあげていきます。

こちらが紙ホチキスの元となる芯。その名の通り、紙を用いたホチキスで、紙をこより状にひねり、つくられています。

 

針金を使用し製本された本では、そのまま資源回収、シュレッダーにかけることができません。そんな問題を解決する新しい 中綴じ* の方法が紙ホチキスを用いた製本です。

*中綴じ:紙の背の中央に針金や紙ホチキスを通して綴じる製本方法。

 

紙ホチキスを用いて中綴じをする機械。他の製本比べて時間やコストがかかるといった理由で、
導入している企業の数は多くないとのこと。

 

紙ホチキスで綴じられた本だったノート。強度は針金を使用した場合と遜色ない。
紙ホチキスの芯を、針であけた穴に差し込み、折り畳んでから、熱圧着することで綴じることができる。

 

「うちは環境のことを特別に謳っているわけではない。けれども、こういったものを導入することで、地域の子どもたちの教育に繋がるような取り組みは、積極的に行っていきたいと思っているよ」

「依頼いただいたものを、きっちりこなして、納品する。それだけ」

まっすぐな目で、話してくださる宮島さんの言葉が印象的でした。

 

仕上がりの新書サイズに断裁をしていく。

 

ノートの角にはちょっとした加工を。

 

少しだけ丸みを持たせたデザインになっています。こちらの工程も全て手作業で行います。

 

宮島製本所の工場風景

 

 

たくさんの工程が、たくさんの人の手によって行われることで、1冊のノートができ上がっています。

こちらの記事を通して、ノートができるまでのストーリー、込めた思いがすこしでも伝われば幸いです。

 

 

一歩ずつ、考えていきたいと思います

 

小さな一歩であって、まだまだなにかできるはず。これからも古紙回収に回すはずだった本に、新しい価値を生めるような取り組みを考えていきたいと思います。

 

そして、引き続きバリューブックスは廃棄せざるを得ない本を減らせるよう取り組んでいきます。

 

本だったノート

デザイン:太田真紀

印刷:藤原印刷

製本:宮島製本所

再生紙抄造:山陽製紙

企画:バリューブックス

写真撮影:篠原幸宏

 

posted by 神谷周作

愛知県生まれ。
都内にてウェブメディアを運営する企業に勤めたのち、愛猫と一緒に上田に移住してきました。
趣味は、レンチキュラー印刷がされたグッズの収集。

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