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2020-12-09

【バリューブックス出版記】なぜバリューブックスが出版をはじめるのか?

 

こんにちは、バリューブックス編集部の神谷です。

古本の売買をコアの事業とし、本を通した寄付事業やリアルの書店運営まで「本」を軸に、さまざまな事業をしてきたバリューブックス。今度は “出版” にチャレンジしようと、現在準備を進めています。

 

一旦どんな本を出すのか?そもそもなぜバリューブックスが出版をするのか?出版を通じて何を実現したいのか?

出版事業を担当している、社外取締役の内沼さんに話を聞いてきました。

 

 

内沼晋太郎 | 株式会社バリューブックス社外取締役。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。「NUMABOOKS」として出版も行っている。

 

 

 

なぜ、バリューブックスが出版を?

 

神谷:
最初に核心の部分を聞ければと思うのですが、バリューブックスが出版をはじめようとするまでに至った経緯をお伺いできればと思います。

 

内沼:
いくつか点となる理由が重なって、出版にチャレンジしてみようとなったのですが、神谷さんはまだ入社して日が浅いですよね。2017年から実験的に取り組んでいる「バリューブックスエコシステム」って知ってますか?

 

神谷:
話に聞いたことがあるくらいで……

 

内沼:
バリューブックスエコシステムは、バリューブックスが古本の販売をした際に、提携している一部の出版社に対して、その本の売上の33パーセントを還元するという取り組みです。提携している出版社は、いい本を長く作り続けている会社。バリューブックスのサービスにおいて、一定の買取価格がつき続けている本、つまり「廃棄せずに済む本」を作り続けている出版社です。まずは実験的な試みとして、4社の出版社と提携をしています。

バリューブックスにとって、このエコシステムの1つの成功の形は、出版社さんや著者さんらが自ら「自分たちの本を売るなら、バリューブックスに売ってください」と、言いたくなってくださることなんです。

 

 

神谷:
なるほど、もしこのエコシステムがうまくいけば、出版社の方が古本を流通することにメリットを感じてくれ、必要以上に増刷をしたりすることもなくなる、かもしれないですね。

 

内沼:
ある本が古本市場に溢れてしまうと、買取価格のつけられない古本が増えてしまいますよね。そうなると、古紙回収に回さざるを得ません。もし、ゆっくりと長く読まれる本を集めて再流通させることができ、それを出版社の利益として還元できれば、出版社としては増刷をしないで古本を回していくことで収益を得続ける、ということも理想論としては描けます。

けどそれが実際、出版社の側から見たときに、どういったことになるのか。どれくらい買取の依頼がきて、どれくらい販売することができるのか、増刷しないで回すといった可能性は実際にあり得るのか? それは主な事業である古本買取をしているだけでは、わからない部分が多くて。

 

神谷:
自分たちが実際に本を出してみて、その生態系を描いてみようと。

 

内沼:
そうです。自分たちが出版することで、最大限にその生態系を生かす環境をつくることができる。まずは自分たちでエコシステムをつくってみて、出版社の側からしか見えない景色を見てみようというのが、出版をするに至った1つの経緯です。

 

 

もっと、本のことがわかりたい

 

 

神谷:
本を扱う事業といっても、それをつくる立場、循環させる立場では、見ている世界がだいぶ違いそうですしね。

 

内沼:
全然違うはずだと思います。たとえば、 Amazon での売上ランキングというのがありますが、これも古本の買取販売の側から見るのと、出版社の側から見るのとでは、だいぶ違うはずです。

僕らは、古本の買取価格を決める1つの参考として、それらのランキングを元に、市場での需要があるかないかを判断している。出版社の方も同じ数字は見ているとは思います。ただ、出版社側に立ったら、その数字は「Amazonランキング1位!」といったプロモーションの素材にもなるし、売れ行きの指標として、それこそ増刷するかしないかといった判断のための参考の数字にもなるはずです。僕らは古本を買って売る側としてしか、本の需要に関して考える機会がなかったけども、つくる側からみたときに、需要というものをどのように感じるのか? それを体感的に知ることが、この会社にとって意味があるだろうといったことも、出版に挑戦する理由の1つです。

 

神谷:
つくる側、循環させる側、双方の目を持ちたいと。

 

内沼:
エコシステムや、Amazon でのランキングというのは点の話でしかなくて、出版をする理由を一言で言うと「もっと、本のことがわかりたい」。自分たちが扱っている本という商品のことをもっと知りたいし、知るべきから、ということです。

自分自身、長らく本のセレクトの仕事をしたり、新刊書店を経営したりしてきましたが、その後に出版社をはじめたことで、本に対する考え方の解像度は段違いに上がりました。古本という商材を長年、大量に扱ってきたバリューブックスという会社としてそれをやってみることは、また違った大きな収穫があるだろうと。

 

 

仲間集めとしての、出版

 

 

神谷:
では、いったいどういった本を出す予定なんですか。

 

内沼:
まさしく、そこにもう一つの、いま出版をはじめる大きな理由があるのですが、先日 Medium 上に掲載された鳥居さん(バリューブックス取締役)へのインタビューに多くが語られています。会社の指標として、自分たちがどういう会社になっていくかを測る一つの指標として「B Corp」を取得しようとしている中で、より大きなムーブメントをつくっていくために仲間を見つけたいというのがあって。

 

神谷:
鳥居さんへのインタビュー!見ました!

※「B Corp」とはなにか?などB Corp取得を進めるまでのストーリーが綴られたバリューブックス取締役鳥居へのインタビューは こちら から

 

内沼:
「B corp」とは、海外ではパタゴニアや、アイスクリームのベン&ジェリーズ、クラウドファンディングプラットフォームのキックスターターなどの企業が取得している、ある種の “いい会社” の認証制度であると同時に、自社を継続的に評価していくための指標であり、バリューブックスでも取得に向けたプロセスを進めています。

ですが、社会に対してよい影響を与えるためには、バリューブックスだけが取得しても意味がありません。自分たちだけではなく、近い考えや価値観を持った他の会社と共通の「B Corp」という指標を持ち、それを広めるムーブメントを作っていくことを目指していくべきです。ですが、日本ではまだ日本語での情報が少ないこともあって、知名度が低く、認証を受けている企業もわずかしかありません。そこで、この『The B Corp Handbook』の翻訳権を取得し、出版することにしたのです。いわば、仲間を増やすための出版です。

 

 

神谷:
「B Corp」に関する本を出すことがその1つ手段だと。どんな内容の本なのですか?

 

内沼:
名前の通り、いわゆる公式のガイドブックです。認証のプロセスがまとまっているほか、取得した企業の事例も豊富に掲載されています。なお、この本を出版している『Berrett-Koehler Publishers』自体も、「B Corp」の認証を取得しています。 そして今回は、その翻訳するプロセスもちょっと変わっていて。

 

神谷:
といいますと?

 

内沼:
最初は専門の翻訳者に依頼して、一般的な翻訳出版のプロセスを取ろうとしていたのですが、当初、本書の解説を依頼しようと声をかけた黒鳥社の若林さんと議論を重ねる中で、なんかちょっと違うね、となりまして。

「B Corp」を日本でムーブメントにし、意味のある形で社会に実装していくためには、中心となるコミュニティが必要だろうと。むしろ、翻訳のプロセスさえも、仲間づくりのためのアクションにできるのではないかと。実際に、大学の先生がゼミ生と一緒に翻訳して出版をするといった事例もあります。それに近しい形で、「B Corp」の取得に関心のある企業の担当者など、「B Corp」に興味がある人を集めて同書を翻訳していく、つまり、みんなで作り上げる形式をとることにしました。

結局、若林さんは解説を書いていただくだけでなく、黒鳥社としてゼミの運営をバリューブックスと共同でしてくださることになりました。

 

神谷:
若林さんは『WIRED』の編集長時代に  「B Corp」に関連する特集を組まれていましたよね。

 

内沼:
そうなんです。その特集が組まれた少し後に、僕らがアメリカに行って、パタゴニアなどを視察して「B Corp」の認証を進めようとしていることも、 『WIRED』 に記事にしてもらっていて。 そういった経緯もあって、若林さんに解説を書いてもらえないかと思いました。まずは旧知であった僕から相談にいったところ、ありがたいことにすごく興味を示してくださいまして。そこで、単に解説を書いていただくだけではなく、バリューブックス×黒鳥社という形でいろいろな取り組みを一緒にできればと、まずはゼミを開くことになりました。

 

神谷:
「B Corp」をキーワードに、いろいろな仲間が集まり、今回の出版を進めていくのですね。

 

 

みんなでつくり上げるエコシステム

 

 

神谷:
少し話は戻ってしまいますが、エコシステムの話で1つ疑問があります。最初に話を聞いたエコシステムでいうと、国内の出版社に還元をする、という話だったと思うのですが、今回の出版は著作権を持っている企業は海外の企業になりますよね。そのような状況で、どのようにエコシステムをつくっていこうと考えているのですか?

 

内沼:
今回、現著作権者の方とは特殊な契約を結んでいて。自分たちはリユースの企業ではあるから、買い取った古本を再流通させたときにも一部の収益を支払いますと、通常ではないような契約を、特記事項として入れ込んでいます。

同時に、いま細かい部分は練っている段階なんですが、今回の翻訳に関する印税もそのような形でやろうとしています。一緒に翻訳するメンバーは翻訳者として日本版にクレジットされ、翻訳印税がレベニューシェアされる予定です。

 

その中で、僕らはそのシステムをきちんと伝えていく必要がある。この本をバリューブックスで売り、再流通がされると、現著作権者や翻訳者、編集者にも利益が還元されます、といろんな形で知らせていくことを考えています。

 

神谷:
こちらの詳細はまた決まり次第、お伺いできればと思います!

 

内沼:
ぜひよろしくお願いします!

他にも本って一体どうやってつくっていくのか?そのプロセスや、デザイナーさんとのやりとり、こういう装丁ができました!などといった情報も、順次発信していければと思います。

 

 

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〈B Corpについての概要、そして「B Corpハンドブック翻訳ゼミ」のお申し込みは、こちらから|応募締切:12月18日(金)中〉

posted by 神谷周作

愛知県生まれ。
都内にてウェブメディアを運営する企業に勤めたのち、愛猫と一緒に上田に移住してきました。
趣味は、レンチキュラー印刷がされたグッズの収集。

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