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2020-08-27

怪談好きがすすめる、夏に読みたい5冊の怖い本

 

こんにちは、バリューブックス編集者の飯田です。

長かった梅雨も終わり、蒸し暑く日本らしい夏がやってきましたね。

となれば、楽しみたい夏の名物のひとつ、”怪談話”。

今回、怪談が大好きなバリューブックスのスタッフ、相良さんにおすすめの怪談本を5冊紹介してもらいました。ふだんはエンジニアとしてPCに向かっている相良さん。仕事終わりにお呼びして、お気に入りの本について話してもらいました。

 

 

日が落ち、窓の向こうにはのっぺりとした暗い夜が広がっている。
ろうそくの灯りだけを頼りにしながら、ポツポツと相良さんが話し始めました……

 

 

聞き手:飯田
バリューブックスの編集者。怖い話は苦手。お化けはいると思っているから、心霊スポットにも絶対行かない。

 

語り手:相良
バリューブックスのエンジニア。怖い話が大好き。趣味は軽装で山を駆け登る快速登山(スカイランニング)で、トレーニングのためには夜の山にも躊躇なく入っていく。

 

相良:
こんばんは。

飯田:
こんばんは。ありがとうございます、仕事終わりにきていただいて。

相良:
いえいえ。今日は、あまり怖くないのからけっこう怖いものまで、幅を持たせて本を選んでみました。

飯田:
恐怖のグラデーションだ…… お手柔らかにお願いします。

相良:
では、早速いきますか。

飯田:
よろしくお願いします……

 

『異界探訪記 恐い旅』松原タニシ

 

 

飯田:
著者の松原タニシさん、聞いたことがあります! たしか、事故物件に住む芸人さんでしたよね?

相良:
そうなんです。まさに『事故物件怪談 恐い間取り』という本も出されていて、これはその続編になります。

飯田:
これは、旅がテーマなんですね。

相良:
実は『事故物件怪談 恐い間取り』も、半分くらいは間取りについて書いているんですが、もう半分は心霊スポットに行ったときの体験談なんです。松原さんは、心霊スポットに行く様子をYouTubeで配信されたりもしていますね。

飯田:
むちゃくちゃ危ない。ちなみに、この本では 行った先でどんなことが起きるんですか……?

 

 

相良:
まぁ、ほとんど何も起こりません。

飯田:
何も起きない…… 安心するけど、怪談話としてそれでいいんですかね。

相良:
いえいえ、この本は心霊スポットに向かう時に、そこの”いわれ”を話してくれるんです。ただ怖い場所に行くのではなく、どうしてそこが恐れられているのか、何が起きたと言われているのかを書いてくれていて。

たとえば、昔そこに訪れたテレビのスタッフが首なし地蔵に触れて亡くなった話や、霊媒師の修行場がもともと防空壕になっていたというエピソードなど。

飯田:
おお、なるほど…… (パラパラとめくって)僕の地元、神奈川の神社まで載っていますね!そうそう、自刃した源義経の首が川から流れてきて、それを祀ったと言われているところなんです。

でも、これぐらいの怖さならまだ耐えられそう。

相良:
まだ序盤ですので。ちゃんと怖い本も用意していますよ。

飯田:
あ、そうですか……

 

 

『怪と幽』

 

 

相良:
もう1冊、旅つながりで『怪と幽』も持ってきました。雑誌「怪と幽」は、その名のとおり妖怪専門誌だった「怪」と怪談専門誌だった「幽」が合併してできたものなんです。

今回紹介したいのは、台湾を特集している号ですね。読んでいると台湾に行きたくなります。旅に出たい、ついでに怖い思いをしたい、という気分の時ならとてもおすすめです。

飯田:
まぁ、たしかに世の中は台湾ブームですが……

相良:
実は台湾で妖怪が流行っているらしいです。

 

 

飯田:
流行るんだ!妖怪!

相良:
妖怪関連の本が出たり、小説の題材になっているようです。最初は日本の妖怪ブームが台湾に入っていった形で、そこから台湾独自の妖怪が発掘される流れになったそうです。この本でも、妖怪を題材とした物語を書く作家さんへのインタビューや、おすすめの妖怪スポットなどが掲載されています。

飯田:
ほんとだ、「旅行のついでに立ち寄りたい 台湾の妖怪伝説地」。妖怪なら、幽霊よりはちょっとだけ親しみやすそうだから平気かもしれない……

 

「怪談売買録」黒木あるじ

 

 

相良:
著者の黒木あるじさんは、怪談を売り買いする「怪談売買所」というイベントをされているんです。

飯田:
怪談を売り買いする……?

相良:
お客さんが自分自身や友人などが体験した不思議なエピソードを黒木さんに話すと、黒木さんがお客さんに「拝聴料」を払うんです。逆に、怪談話を聞きたい人は「語り賃」を払って黒木さんに怪談を話してもらう。

お客さんが怪談を持ち込んで、お金の代わりに黒木さんから怪談を話してもらう、というパターンもありますね。

「怪談売買所」の発案自体は、本書の著者である黒木さんではなく、怪談作家の宇津呂鹿太郎さんが考えたものなんです。黒木さんもそのアイデアを拝借して、各地でこのイベントを実施されています。

飯田:
お金の代わりに怪談を交換したりするんですね。

 

 

相良:
この本は、そうして黒木さんが集めた話をまとめたものですね。おもしろいのが、ひとつの土地で何人もの話を集めていると、不思議な繋がりが出てきたりするんです。「あれ? この話って、さっきの怪談と繋がってるんじゃないか?」と。

複数の話がまとまっているからこその面白さがありますね。

飯田:
へー! ひとつのパッケージになっている本ならではの魅力ですね。

相良:
しかも、怪談を売買しているまさにその時にも、不可思議なことが起きるんです。黒木さんが休憩をしていると、「会場で子供を遊ばせていてもいいんですか?」と聞かれたり。そこに子供なんて、いないのに。

飯田:
ああ、何かを呼び寄せてしまっている……

 

『怪談狩り』中山市郎

 

 

相良
次は、中山市郎さんの「怪談狩り」です。

飯田:
わ、たくさん出てるんですね。

相良:
そうなんです。しかも、1話ずつの分量が短く、気になる話がぎっしり入っているので、物量もちょうどいいんですよね。

飯田:
ほんとだ、短いものだと2ページで終わっていますね。えーと、お母さんを驚かそうと思ってベッドの下に潜り込んだら、部屋を何人もの足が通り抜けていって…… ゾクっとする話がたくさん入っていますね。

なかでも印象的な話はありますか?

 

 

相良:
『怪談狩り 禍々しい家』に収録されている、山の牧場の話ですね。これはもともと、中山さんが怪異蒐集家の木原浩勝さんとの共著、『新耳袋 第四夜』という本に書いていた体験談なんです。

たまたま、とある山の上に行ったときに不思議な牧場を見つけるんです。牧場らしい雰囲気なのだけど、動物もいなければ人もいない。それに、中の事務所に入ってみるとなぜか大きな岩がある。まるで岩の周りに事務所を建てたような形で。

しかも、事務所は2階建てなのに、なぜか1階から2階に上がる怪談がない。2階には、外の丘から無理やり入っていくような構造なんです。さらに、2階には開かずの間もあって。

飯田:
なんだか気持ちわるい構造ですね。

相良:
本書はその後日談でして、改めてその牧場に行くんです。すると、今度は人がいる。

飯田:
おお。

相良:
でも、話を聞こうとしても、「分かりません」とはぐらかされるような感じなんです。どれだけ話を聞いても要領を得ない。

飯田:
え、結局すっきりしないんですね。

相良:
そこがいいんですよね。後日談ではあるけれど、余計な種明かしがあるわけじゃない。不思議だった場所の謎が、より深まっていくのが心地良いです。

 

 

『怪談のテープ起こし』三津田信三

 

 

相良:
これは、著者の三津田さんが雑誌で連載していた怪談をまとめたものなんです。他人の家の留守番を頼まれたときに怪異が起きた話だったり、登山をしていると同行者たちがだんだんとおかしくなる話だったり。

飯田:
ほうほう。

相良:
しかし、それらの話をただ収録するのではなく、新たに著者自身と編集者とのエピソードが加えられているんです。

この本に載っている話は、どれも取材をしていくなかで集まった、という経緯なんです。いろいろな人の体験談をテープに収録し、それを書き起こして発表している。それぞれの話も怖いのですが、実は、このテープを巡って編集者におかしなことが起き始めるんです。

 

 

飯田:
ええ……

相良:
編集者が取材用の音源テープを預かっているのですが、中毒のようにそれを聞くようになるんです。さらに、飲もうとした紅茶に人影が映ったり、トイレの個室に入ったときに奇妙なことが起きたりと、不可解な現象が目につくようになって。

それを危険に感じた著者がテープを自分のもとに戻すのですが、今度は著者自身にもおかしなことが起き始めるんです。捨てたはずのテープが、自分のもとに戻ってくる。それを再生してみると……

飯田:
聞きたくない……

相良:
怖い話を書くだけでなく、「怖い話を書いているあいだに起きた怖いこと」を織り交ぜているのが、この本の奥行きになっていますね。

体験談の形式を取っているものの、全体としては怪談というよりホラー小説に近いと思います。ですので、小説が好きな方にもおすすめしたい1冊ですね。

飯田:
たしかに、ジワジワと恐怖がこちら側に迫ってくるのがゾッとします。これで、5冊の紹介が(やっと)終わりましたね…… ありがとうございました!

 

読み手の想像力が、怪談を怖くさせる

 

 

飯田:
おかげさまで、いい塩梅に背筋がヒュッと寒くなりました。最後に少しだけアドバイスをいただきたいんですが、「いい怪談本」と出会うためのコツってあるんですか?

相良:
よき語り手と出会うことですね。怪談はこうして「本」にもなっていますが、友達どうしで語りあったりと「口承」の側面も強いですね。それこそ、稲川淳二さんによる怪談ライブのように。

怖かった事実をそのまま話しても、意外に怖くなかったりするんです。怖く語る、という技術が大いに影響してくるんです。

ですので、いい語り手 ━━ 本の場合は著者ですね ━━ と出会えたら、その人の著作を集めていくとよいと思います。

飯田:
なるほど。ちなみに、相良さんにとってよき語り手とは、どんな人ですか?

 

 

相良:
すべてを幽霊のせいにしない、ですね。

飯田:
え? どういうことですか?

相良:
得体のしれないものと遭遇したとき、「それにはこういう原因があった」と理由を明らかにされてしまうと、怖くなくなるんです。その原因を考えるからこそ、怖いわけじゃないですか。

飯田:
分からないから怖い、と。

相良:
そうです。「こんなことが起きました」と、ある種突き放すように終わると、そのあとに「あれはいったい何だったんだろう」とこちらの想像力が働くんです。なので、削ぎ落とされた文章好きですね。余計なものを書かない方が、怖く感じます。

スリムな文章ではあるけれど、それでいてポイントはちゃんと抑えている。そんな怪談が好きですね。

飯田:
なるほど! 自分好みの怪談、僕も恐る恐る探してみようと思います。

 

 

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怪談を売り買いする!? 怪談作家に怖い話を「売って」みた

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

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