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2023-08-02

“不要なものから大切なものへ”。Carton Studio×VALUE BOOKSの「旅するノート」発売

もう使う予定はないし、役割は終えている。だけれども、そのまま捨ててしまうのは、なんだかもったいなくて、愛おしさすら感じてしまう。

それは、ある人にとっては本だったり、ある人にとっては段ボールだったり……、それぞれ違うけれど、そこにある気持ちを大切にしたい。

そんな想いが重なって出来上がったのが、Carton Studio×VALUE BOOKSの「旅するノート」です。

今回のコラボレーション相手である島津冬樹さんは、Carton Studio名義で、世界中の街角から段ボールを拾い集め、財布などに生まれ変わらせるプロジェクトを続けている、自称“段ボールピッカー”。

これまでの活動やその原動力、「旅するノート」の制作過程におけるエピソードについてうかがいました。

 

島津冬樹(Carton Studio)
1987年生まれ。多摩美術大学在学中に活動をスタート。卒業後、広告代理店を経てアーティストへ。自身を追ったドキュメンタリー映画や著書が注目を集め、これまでに国内のみならず海外でも、個展やワークショップを多数展開。2022年、世界中に落ちている段ボールをマッピングできるプラットフォーム「Carton Picker Finder」をローンチ。2023年度より横浜美術大学非常勤講師も務める。
Instagram: @carton_wallet
Web site: https://carton-f.com/

 

—— まずは活動をスタートされた経緯を教えていただけますか。

美術系の大学に通っていた学生時代に、使っていた財布がボロボロになってしまい、間に合わせで段ボールで作ったのがきっかけです。その時使ったのは、近所のディスカウントスーパーの洋酒コーナーで目に止まった段ボールでした。

最初に作ったその財布は結局1年ほど使い続け、思いのほか丈夫であることがわかり、いつしか愛着も沸いてお気に入りのアイテムになっていきました。そこで、自分以外の人にも興味を持ってもらえるかもしれないと思って、学祭で販売したところ大好評で瞬く間に売り切れたんです。

同時期に、人生初の海外旅行でニューヨークに行き、海外の段ボールのかっこよさにも取り憑かれ、活動への意欲が加速していきました。

それで卒業後は“段ボールの道”に進みたいと先生に相談したのですが、「お前はまず社会人を経験した方がいい」と言われ、広告代理店に入社。会社員として働きながらも、どうにか休暇をとっては、段ボールを拾う旅に出掛けていました。

—— 活動を続けるなかでターニングポイントとなった出来事はありますか。

募る思いがあって、段ボールに人生を賭けると決め、2016年に会社を辞めたことですね。

それから、2018年に、9年間の段ボール拾いの旅をまとめたエッセイ『段ボールはたからもの』(柏書房)を出版したのですが、この本を書いたこともある意味ターニングポイントだったと言えるかもしれません。

というのも、世界中で活動を続ける中で、自分なりの視点は出来上がりつつあったものの、この本を書くまではそれを言語化できていなかったんです。

書籍化するにあたって、拾った段ボールを改めて見直し、整理することで、食、経済、伝統など、段ボールにはその場所に息づくありとあらゆるものが反映されていることが見えてきました。

—— 本を作ることで、段ボールの見方が深まったということですね。

それまではグラフィックに惹かれて段ボールを選んでいたのですが、そのグラフィックが生まれてくる背景への興味が強くなりました。

また、本とほぼ同じタイミングで公開された、自身の活動を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』(監督:岡島龍介 / 配給:ピクチャーズデプト)の制作を通して、段ボールが辿ってきた道を深掘りしたことで、なんとなくでやっていた活動に、意味を見出していきました。自分のやっていることが、社会につながる可能性がでてきたという感じですね。


手前から:『段ボールはたからもの』(柏書房)、写真集『CARTON BOXES FOR YOUR INSPIRATION』、『島津冬樹の段ボール財布の作り方』(ブティック社)


スタジオには世界各国で拾い集めた段ボールが並び、アーカイブされている。

—— “不要なものから、大切なものへ”というコンセプトは、どのように生まれたのでしょうか。

これは、会社員時代にコピーライターの同期と、「僕がやっているこの活動をひと言でいい表すとなんなんだろう」と話してたときに、自分の中からでてきた言葉でした。
その頃は、“アップサイクル”という言葉がまだあまり使われていなかったんですね。もし、アップサイクルという言葉を先に知っていたら、そのまま使っていたかもしれないけれど、知らなかったことで、結果的により忠実に自分なりのスタンスを表したコンセプトになったと思っています。

—— とても伝わりやすく、より本質的でもあるようにも感じます。

僕の場合、はじまりが世の中のためにといったモチベーションではなく、自分のために作った財布がスタートですし、軸にあるのは“段ボール愛”なので、SDGsとか、環境のためにやっています、ということを第一義に掲げることはできないと思っています。もちろん自分の活動がそういったことに光を当てられるのであれば、それは良いことなのですが、あくまでも“段ボール愛”があってこそというスタンスです。

—— 「旅するノート」には、古紙回収にまわるはずだった本からできた再生紙を使用していますが、これはバリューブックスの「捨てたくない本プロジェクト の一環として生まれたものです。実は、このプロジェクトの起点となっているのも、“本への愛”だと思っています。

重なるものがありますね。この紙は、よく見ると文字が残っているところも面白いですよね。例えば、これは「彼」っていう漢字がそのまま残ってる。どんな物語だったのかなと、思わず想像してしまいました。

そのもの自体の背景やストーリーにフォーカスして思いを馳せてみるのも、アップサイクルの商品の楽しみかたのひとつなんじゃないかなと思います。

——古本の買い取りを行っているバリューブックスには、全国から毎日たくさんの本が届きます。今回はその本を運んでくれた段ボールを、長野・上田の倉庫からピックアップしてノートのカバーに使っていただきましたが、集まった段ボールを見ていかがでしたか。

全国のご当地ものや、はじめて見る段ボールもあって、とても面白かったです。

時期的にみかんの段ボールが多かったのですが、和歌山産(有田みかん)が優勢なのが長野らしいと感じました。東京は、愛媛や静岡のみかんが多く出回っていますが、長野は和歌山が強い。ちなみに、有田みかんは、黄色系の色使いが特徴です。

信州エリアの段ボールも目立ちました。これもバリューブックスの倉庫が長野・上田にあるということが関係していると思いますが、そもそも農産物が盛んな地域は段ボールも豊作なんです。

それから、大学生のときにはじめてニューヨークを旅した際に持っていった財布の段ボールと再会することもできて、とても懐かしい気持ちになりました。静岡の淡島みかんの箱で、東京でも出回っているはずなのですが、この十数年見かけていなくて。みかん箱らしからぬシャープさのあるデザインが個性的でかっこいいなと、改めて思いました。


こちらの「信州 たてしなりんご」は、木版画のようなデザインが特徴的。調べたところ、りんごジュースの銘柄のようでした。


奥に並べられたパープルにオレンジのラインが配されたものが、十数年ぶりに再会した「青島みかん」の段ボール。

——青果以外だと、引越し業者の段ボールも目につきますね。

クロネコヤマトの海外引越し用の段ボールもありましたね。単身赴任だったのかなとか、勝手ながら妄想してしまいます。「本」「子供部屋」とかマジックで書かれているものもあったりして、一箱一箱からシーンが見えてきますよね。

倉庫に眠っていたような、すでに廃盤になっている古い段ボールも混じっていました。さまざまな場所を経由してバリューブックスの倉庫にたどり着いたものもあれば、時間を旅してきた段ボールもありますね。


一時保管中の段ボールが倉庫の一角に山積みに。その数は、毎日、数百箱にもなる。

——こうやって見ると、世の中には本当にいろんな種類の段ボールがありますね。無数にある中で、島津さんがグッとくる段ボールってどんなものなのでしょう。

ひと言で言えば、やっぱり“ストーリーが想像できるもの”ですかね。実は、どんなにグラフィックがかっこよくても、僕は新品の段ボールには魅力を感じないんです。例え無地だったとしても、いろんなテープや送り状の跡があって、それがひとつの物語を形成している、そんな段ボールに惹かれます。

——今回の「旅するノート」は、島津さんが旅に携帯しているトラベルノートがベースになっています。実際に、どんな風に使われているのか見せていただけますか。

これは2017年にブルガリアを訪れたときのノートです。スケジュールが書き込んであるのですが…….、散歩、市内巡り、ホームセンター、スーパー、撮影……、観光地の名前がひとつもないですが、段ボール拾いが目的なので、毎回このようなスケジュールになります(笑)。これが僕にとっての面白い旅です。

表紙も裏表紙もポケット仕様になっているので、旅の途中で見つけたラベルなどを収納しています。ブルガリアヨーグルトのふたやスーパーのレシートが入っていますね。


旅ごとに一冊ずつ携帯しているトラベルノート。ページを開くと、その国の記憶が蘇る。

——これから旅してみたい場所はどこですか。“段ボールピッカー”としての旅は、まだまだ続くのでしょうか。

これまでに約40カ国を旅してきましたが、まだ南米の地を踏めていないので、今年中に訪れるつもりです。目的地は、まずはブエノスアイレスあたり。農業大国なので、いろいろな段ボールに出合えるんじゃないかと期待しています。

世界中どこに行っても段ボールはあって、旅に出るたびに僕に新しいことを教えてくれるし、その時々移り変わる世の中も段ボールを通して覗くことができます。拾えると思ったら拾えなかったり、見立てが外れることもしばしばですが、そんな想定外も含めとにかく面白い。この旅は、当分飽きることがなさそうです。

 

「旅するノート」は、さまざまな人や場所を経由して、時には時間もこえて、バリューブックスに巡り着いた段ボールたちから生まれました。

中面の紙は、古紙回収にまわるはずだった本を再生した「本だった紙」でできています。

まずは、ひとつひとつ異なるストーリーが詰まったラインアップから、フィーリングの合う一冊を手にしてみませんか。

そして、このノートを携えて出掛け、物語の続きを書き込んでみるのはいかがでしょうか。

サイズは旅に携帯しやすい文庫サイズ(約A6)を採用しました。

■商品詳細
商品名:Carton Studio×VALUE BOOKS「旅するノート」
サイズ:約A6
ページ数:20ページ
価格:1,600円(税抜)

オンライン販売を開始いたしました!
商品一覧はこちらから

 

Carton Studio×VALUE BOOKS「旅するノート」発売記念イベントを、ブックバスで開催!

バリューブックスの運営する移動式本屋ブックバスにて、「旅するノート」を先行発売いたします。全て一点ものですので、ぜひ実際に手にとってご覧ください。

また、ご自身で「旅するノート」を作っていただくワークショップも開催します。お申し込みは下記のフォームより受付中です。

・イベント開催期間
8/11(祝)〜8/13(日)

・ワークショップ
8/11(祝)16:00〜、17:00〜 各3名
8/12(土)16:00〜、17:00〜 各3名
8/13(日)16:00〜、17:00〜 各3名

2,800円(税込)/1人

*お一人につき「旅するノート」一冊を作成いただきます。
*「漫画だったノート」1冊、ブックバスシール2枚のお土産つきです。
*ブックバスのスタッフがサポートするスタイルのワークショップです。島津さんによるレクチャーはございません。
*年齢制限はございませんが、ハサミを使うワークショップになりますので、小学生未満のお子様は保護者の方と一緒にご参加ください。
*屋外テントでの開催となります。天候により、中止になることもございますのでご了解ください。

お申し込みフォーム

・場所 ブックバス by VALUE BOOKS
東京都世田谷区北沢2-22-1
下北沢駅 南西口 徒歩1分 下北線路街「のはら」

 

 

posted by 西尾 清香

雑誌編集者として長らく活動した後、WEB制作会社を経て、現在はバリューブックスが運営する移動式本屋「ブックバス」の企画を担当。憧れだった“本屋で働くこと”が叶って幸せです。

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