発売前より話題を呼んだ高橋悠治と坂本龍一による幻の対談本『長電話』の復刊によせたコメントを公開中!
2024-10-01
2018-10-05
わたしには過去2度の転職経験がある。
1社目は東京日本橋に本社がある防災機器を取り扱っている企業で、わたしが働いていた当時は社員が150人くらい。
2社目は大手精密機器メーカーの子会社で、わたしが働いていた当時は社員が700人くらいいたと記憶している。
そして、3社目がバリューブックス。
入社当時、1社目と2社目とはまったく異なる、ユニークな組織体制の会社だなと感じた。
以前働いていた2つの会社には、部門があり、その中に課があり、さらにその中に係があった。
まず本部長・役員がいて、部長がいて、課長がいて、係長がいて、そして社員がいて、、、という具合に上から順番に階層があって、ピラミッドのような形が作られていた。
そして、それを「組織図」という形で可視化してあった。
そのおかげで、自分はどこで何をする役割の人なのか、隣にいる同僚と自分との役割の違いは何か、わからないことや判断に困ることは誰に聞けばいいのか、隣の部門に影響することや協力が必要なときに誰と話をすればいいのか、がワリとすぐにわかるようになっていた。
社長からはじまり、役員、部長、課長、係長、社員、とピラミッドの上のほうから組織の隅々まで情報伝達・権限移譲をし、社長以外は誰かに必ずマネジメントを受けている状態。
そのマネジメントの効率を上げ、組織を止まらないように動かすためには、あらかじめ設計図が必要だ。
それが「組織図」で、普通はどこの会社にもあるものだと、わたしは認識していた。
わたしがバリューブックスに入社した当時(2016年7月)、バリューブックスには「組織図」らしきものは見当たらなかった。
それどころか、誰が何をやっているのか、その案件に関して誰が責任者なのかもかなりぼやけた感じだった。
はじめは少し違和感を感じたけれど、「組織体制をちゃんと表現しないことにデメリットはあるが、逆にこれがバリューブックスの強みでもあるな」と思っていた。
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けれど。
11期(2017年7月~2018年6月)がはじまるとき、バリューブックスは意思を持って組織体制を明確にし、「ちゃんとした組織図」でそれを表現した。
スタッフの数が増え、やりたい仕事も増えてきて、それにつれて社長や役員の目と手が行き届かない範囲も大きくなってきた。
そうしたら、どこで何が起こっているかもわからないし、問題が起きて、辛い思いをしている人がいたり、相談する相手がいなくて会社を去る選択をした人もいた、という事実を問題発生からかなり時間が経過してから知ることが増えていた。
だから、世の中のうまくいってそうな会社を見習って組織体制をちゃんとして、目と手が行き届く範囲を広げようということになった。
11期はいままでなんとなく分かれていた部署を明確に分け、その中でマネジメントがちゃんとできるようにマネージャー、リーダー、トレーナーという役職をつくった。
社長が役員を任命し、役員がマネージャーを任命し、マネージャーがリーダーを任命し、そのリーダーがグループを運営する。
上から下へと情報伝達・権限委譲が広がっていく「きれいなピラミッド型の組織をつくろう」「それぞれの役割や責任の範囲をはっきりさせ、マネジメント体制を強化して隅々まで神経を張り巡らせよう」というチャレンジ。
わたしなりの言葉で表現するならば「ちゃんとした会社にしよう」だ。
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ところが、チャレンジをはじめて約1年経ったころ。
12期目の入り口に立ったぼくたちは、
「ほんとうに、ちゃんとした会社をつくっていくことが全体としていいことなのか?」
という問いに悩んでいた。
約1年「ちゃんとした会社にしよう」というチャレンジを通じて、ピラミッド型組織のメリットとデメリットがみえてきた。
まず、バリューブックスで起こったことを整理しておこうと思う。
以前は、日々の役割分担をするのに混乱があった部署では、組織図をつくって部署と役割を明確にすることで分担が短時間でスムーズに行えるようになった、という声があがった。
部署と部署の間に落ちるような仕事は、押し付け合いになったり、宙に浮いて放っておかれることもあったけれど、各部署の役割を明確にしたことで、その部署が担う役割を基準に理論的に分担ができるようになった、という声も。
やりやすくなった・働きやすくなったという意見は、確かに多数あった。
リーダーやトレーナーに任命された人の中には、引き受けたものの「大変そうだから、本当は嫌だな…」とか「全体を把握して仕事の割り振りをするのは得意だけど、人間関係の悩みをされても困るな…」など、本心を言うことできなくて無理をして与えられた役割を演じ続け、辛くなってしまった人、すり減って涙を流す人、逃げ場がなくて辞めた人がいたり。
作業をするスタッフの中には、リーダーとは相性が悪く、誰にも相談できずに逃げ場がなくなり、辞めていってしまった人がいたり。
他には、部署や役割を明確に分けて「分業」を強めていったことで「全体性」が失われていったことも課題に上がった。
倉庫で働く人は倉庫の作業のことには詳しいけど、お客様と接しているカスタマーセンターの仕事のことはイマイチよくわからなくなってしまったり、逆もまたしかり。
どこで誰が、どんな仕事を、どんな気持ちでやっているのか、見えにくくなっていった。
分かりやすく明確にすることで効率よく働きやすくなった事実、与えられた役割を演じることの苦しさや逃げ場がない辛さを生み出してしまう事実、全体性が失われていった事実。
メリットとデメリットが混在したのが、バリューブックスにおけるピラミッド型組織運営だった。
マッキンゼーで10年以上組織変革プロジェクトに携わった後、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立した著者フレデリック・ラルーの本『ティール組織』にはこう書かれている。
組織図は複数の箱とそれらをつなぐ線でできている。
箱には肩書と職務の内容が書かれており、職務内容を見れば人々がその職務から何を期待されているのかがある程度わかる。
社員は自分が就いた職務に順応しなければならない。
ピラミッド型組織は、肩書と職務内容があらかじめ決まっている箱に次々と人が当てはめられていき、箱の中で決められた役割を正確に演じることが周囲から期待され、それによって組織が正しく動く、という理屈だ。
そしてそれは、設計図があり、部品があり、部品ひとつひとつが正確に動くことで正確に動く機械のようでもある。
どういうことか具体的にイメージしてもらうために、完成した機械の成り立ちを追ってみようと思う。
まず、機械をつくりたい設計者がいる。
設計者はコンセプトを決め、真っ白な紙に線を入れ、外観やフレームをラフに描いていく。
そのラフに、コンセプトを満たすための機能を盛り込んでいく。
その機能を動かすために、必要な部品を考え、図面に落とし込んでいく。
そして、設計図には欲しい機能と必要な部品がすべて描き出された。
あとは、それらの部品を図面通り正確につくり、図面通り正確に組み立てれば、設計者が考えたコンセプトを満たす機械は完成する。
では、その部品にフォーカスして考えてみよう。
ひとつひとつの部品には役割があり、その役割をこなすためには設計者が描いた通りの精度でつくられている必要がある。
たとえば、時計の歯車を思い浮かべてみる。
たとえば歯車の歯が12でなければならないところが10の歯でできていたとすれば、そもそもそれとかみ合う予定のもう片方の歯車は回らない。
たとえば歯車の歯数が合っていたとしても、ひとつひとつの歯の大きさがバラバラだったとしたら、時計は正確に時間を刻んではくれない。
それらが設計図通り、狂いなくつくられていなければ、機械は思った通りには動かない。
加えて、最初にどんなに正確につくりこんでも、部品はいずれ消耗する。
元通り動かすためには、消耗した箇所を修理しなければならない。
すると、それを修理をする人が必要になる。
急に壊れたら思った通りに仕事が進まないので、壊れやすい部品を洗い出し、定期的にチェックをする。
そして、消耗を少しでも抑えるために、できる限り円滑に回るように、油をさしたり。
熱くなって壊れてしまう箇所があれば、冷却する装置を追加したり。
壊れないように、円滑に回るように、機械各部の状態に常に細心の注意を払う、そのための管理者が必要になる。
部品が修復不可能なまでに壊れて動かなくなってしまったら、交換するしかない。
いったん機械を停止して、プロのサービスマンを呼んで、時間とお金をかけてオーバーホールしてもらうしかない。
目標達成のためにより良い機械が発売されたら買い替えよう、となる。
そしてそれは、ピラミッド型組織も同じだと思う。
設計者が描いた組織図通りに、ある役割を任命された人が配置されていく。
理屈では、すべての人が任命された役割の通りに正確に動けば、組織はうまく動くはずだ。
どこかがおかしくなって動かなくならないように、必ず誰かが誰かを管理して、常に見ている。
壊れないように、円滑に回るように、働く人たちの状態に細心の注意を払い続け、うまくいくように働きかけ続けなければならない。
管理する人と管理される人という関係性が自然とつくられていき、それが「使う側」「使われる側」という階層的なものに変化していく。
そして、管理する人にだけ情報が集まり、管理される人には必要な情報が行き届かなくなり、ただ情報が足りないというだけで管理する人とされる人の間に上下関係のようなものができていく。
設計図上、重要な役割に任命された人にだって、得意不得意があり、好き嫌いがあり、他にやりたいこともあれば、家に帰ってやることも、時間的制約もある。
当たり前のことなんだけれど、人のことを機械や部品のようにつくることはできない。
「思い通りに動かしたい」「正確につくれば正確に動く」という理想は、ときに苦しみを生みだす。
理想が強く正確に力強く動ける人と一緒に動かなければならなくなった人は、その役割や動きに少しでもズレがあった場合、逃げ場がなくすり減ってガタガタになっていくしかない。
多少のズレが許されなくなっていく。
自分がすり減っていくことに耐えられなくなって、そのうえ逃げ場もなければ、できる限り長くバリューブックスで働きたいと思っているわたしでさえ、辞めるしかない気がしてくる。
そんなことが起きていたのかもしれないと思うと、怖くなった。
誤解のないように書いておくと、ピラミッド型組織が悪いと言いたいわけではない。
もし仮に、様々な本で書かれているピラミッド型組織の成功例にでてくるような素晴らしい設計者がいて、マネジメントを疲弊せずに根気強く続けられる人、役割を忠実に演じ続けることができる人たちがたくさんいれば、問題なく回ったかもしれない。
バリューブックスの中には、ある特定の分野に秀でていたり、あるスキルにおいて高い能力を発揮する人がたくさんいる。
けど、マネージメントや組織論の本に書かれているようなピラミッド型組織を体現できる人はわたしたちの中にはほとんどいなかった、というのがこの1年を振り返ってみて分かったことだった。
バリューブックスにはピラミッド型組織は合わなかった、という話。
どの体制にも、メリットとデメリットがあるのはわかっているのだけれど。
12期目の入り口に立った2018年7月、「ほんとうに、ちゃんとした会社をつくっていくことが全体としていいことなのか?」という問いに悩んだ末に、
「上司も部下も、社長も役員もマネージャーもない。上下の階層をなくしていこう。」
と決め、とにかくまずは「社長自ら400人以上いるスタッフ全員に直接伝えることからはじめよう。」ということになった。
「ここに集まる人たちは、自分の人生の大切な時間を使って、ここで仕事をすることを自ら選んでいる。」
「充実した時間を過ごすために、自分の成長と活躍のことを自分で考え、行動することができる。」
そういう前提に立ち、バリューブックスは12期から「セルフマネジメント型組織」になっていくチャレンジを始めた。
ひとりひとりが全体とつながり、自分で考え、周囲の人との関係を構築しながら、行動していく。
混乱も、苦悩も、衝突もあるかもしれない。
でもその先には、ひとりひとりが自ら働き方を選択し、力強く自由に活躍し、気持ちよく働いて、いい仕事をし、充実した時間を過ごしているイメージがある。
何年かかるかわからないけれど、そんな組織になっていく。
その第一歩を踏み出しました。
それでは、またー!
posted by バリューブックス 編集部
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