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バリューブックスのこと、いろいろ

本のエコシステムの「新しい1ページ」を求めて vol.2 | 2017-04-05

世界の古本屋、Better World Books

Better World Booksの社屋前に置かれた本の寄付を募る「ドロップボックス」と呼ばれるブックポスト。ポストが本当に大きくて、まるでバリューブックス一行が小さくなったよう。

続いて一行は「Better World Books」をインディアナ州、ミシャワカに訪ねました。ミシャワカは、シカゴから自動車で2時間ほどの距離で、ミシガン湖を挟んでシカゴの東対岸側にあります。車を走らせていると、農場が視界に広がる豊かな自然に囲まれた街です。
Better World Booksは書籍を収集し販売するオンライン書店。いわばバリューブックスと同業です。集められた書籍はアフリカなど、本が不足している地域へと寄付されたり、売上の一部は世界中の識字率向上活動のために投資されています。
また同社は、ビジネスの力を使って社会と環境の課題を解決することを事業とする優良な営利企業として「B Corp」認証を取得している企業。バリューブックスにとって、将来のベンチマークになる企業なのかもしれません。

 

【海の向こうの、似た者同士】

 

Better World Booksは、同社のある場所から10キロメートル程度離れた、サウスベンド近郊のノートルダム大学に通っていた学生たち、ザビエルとクリス、そしてジェイによって2002年に創業されています。
創業前のザビエルとクリスは、日本の大学生と同じように、卒業後の進路に考えを巡らせていたといいます。当時のアメリカでは、ITベンチャーの起業ラッシュ「ドットコム・ブーム」が崩壊し、経済はどん底。インターネット事業の見通しは暗い時代でした。情報システムと機械工学の学位を持つ2人の人生は、まさに向かい風の船出だったと言えるでしょう。
そんな2人はある時、自宅のあるアパートに積み上げられたまま、捨てられるのを待っていた古い教科書を売ることを思い立ちました。
大学のキャンパスにある書店に持って行って売ってもたいしたお金にはならず、彼らはそれをビジネスに結びつけようとは思わなかったでしょう。しかし、インターネット上で販売したところ、新年度が始まる前、夏真っ盛りの時期なのにも関わらず、“評判のホットケーキのように”売れ始めたといいます。この出来事こそ、彼らが、まだインターネット上で物を売買することが一般的ではない時代に、オンライン書籍市場に興味を持ったきっかけになりました。

 

中村:僕は7、8年前、Better World Booksをネットサーフィンで見つけました。ちょうど僕たちが古本をリユースすることによって、NPOやNGOのファンドレイジング(寄付集め)を支える仕組みである「チャリボン」を始めた頃でした。
当時の僕らは、それほど大きなビジョンを描いていたわけではなかった。成功するかどうかも分からないので、自分たちのできる範囲でやって、知り合いのNPOが盛り上げてくれればいいなあ、というくらいの気持ちでした。
だから当時、Better World Booksの事業規模を見たときは驚きました。何よりも、日本の常識に照らせば、企業のCSR活動に位置づけられるようなことを、本流の事業として展開し、売上を伸ばしていたことは衝撃的でした。
その一方で、僕も大学の頃に使っていた物理の教科書をアマゾンで販売したことが起業のきっかけになったので、どこか親近感を持って、ベンチマークにしていた企業でしたね。

 

Better World Booksが提供しているプログラム「Book for Book」は、もっともシンプルな本の寄付を実現しています。つまり、Better World Booksで本を1冊購入すると、世界で本を必要としている人に本が1冊寄付される仕組みです。
寄付、また大学や図書館のファンドレイジングのために集まった本をアフリカの人々に提供することで、アフリカの本不足を解消し、識字率を高める活動を展開する「Books For Africa」などの団体と提携するほか、数百ものNPOを通じ、本が寄付されます。2017年の3月21日現在のデータでは、約2269万冊が寄付されているといいます。
また、すべての本の購入によって、協力関係にある「Room to Read」などの識字率向上活動等を展開する団体へのファンドレイジングが行われます。2017年3月21日現在のデータでは、約2454万ドルの資金が提供されています。

 

バリューブックスの「チャリボン」は、利用者が寄付したい書籍、ゲーム、DVDをバリューブックスに送付すると、買取相当額がNPOやNGO等へ寄付できる仕組みです。また、利用者自身で寄付先を指定することができます。
寄付金の使途は非常に幅広く、提携する89のNPOやNGOを通じて環境保護、子どもの学習や若者の自立・就労支援、日本に暮らす難民の方々の自立支援などに使われるほか、66の大学の奨学金や図書館の蔵書購入などにも使われています。
また、6つの自治体に対しても、寄付を通し、さまざまなプロジェクトを支援しています。代表的なものには、東日本大震災で被災した陸前高田市の図書館の再建を支援する「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト」、国立市民に長く愛されてきた旧国立駅舎を蘇らせるべく始まった「赤い三角屋根プロジェクト古本募金」があります。
利用者からは「思い入れのあるものを捨ててしまうのは抵抗があるけれど、こうして、支援につながると気持ちよく整理することができるので嬉しい」といった声が寄せられています。

 

中村:Better World Booksとバリューブックスは、共通点がとても多い。たとえば僕たちは、長野県の上田市という、いわゆる地方都市を拠点にしている。Better World Booksのあるミシャワカも、アメリカで言えば地方都市。辺鄙なところに拠点を置きながら、世界にインパクトを与えている彼らに会えることは、この旅でも大きな楽しみでした。

 

<Better World Books オペレーション部門 ファイナンシャルアナリストのJoe Bradford氏。Better World Booksのミッションに共感して入社したと話してくれた。>

 

【世界とともにある古本屋】

 

実際に訪れたBetter World Booksは、創業期を終え、効率を重視するマネジメントが行われている、成熟したベンチャー企業という印象を一行に与えたといいます。

 

鳥居:世界からいろんな人が視察に訪れるそうですが、日本からの来客は珍しいといいます。しかも似たもの同士でもあることから、訪問をとても喜んでくださいました。

 

一行は、Better World Booksの巨大な倉庫に案内され、実際の作業を見学しました。その様子は自分たちの業務と似通ったところもある一方で、カルチャーショックもあったといいます。

 

中村:もっとも驚いたのは、倉庫内を本が飛び交っていたことですね(笑)。出荷する地域ごとに本を仕分けしていたのでしょうが、ベルトコンベアーで運ばれていくる本をぼんぼん放り投げて箱に入れていくんです。この本の扱い方の大胆さ(雑さ?)は僕たちはもちろん、日本ではまず考えられない。うちでやったら間違いなく怒られます。アメリカっぽいなと思いましたね。なんといってもアメリカ中から古本が集まるわけですから。

 

ベルトコンベアーで流れてきた本は、次々にコンテナに投げ込まれる。同じ古本屋の仕事でも、やはり味付けはアメリカンだ。

屋外に置かれていた、本の寄付を募るドロップボックス。全米を対象に展開する古本屋の規模感を感じられる風景。

 

中村は、Better World Booksを視察する中で、彼らの「売る努力」に凄みを感じたといいます。

 

中村:Better World Booksは、僕たちのように個人から書籍を仕入れるBtoCの取引の割合は少なく、図書館などから書籍を仕入れるBtoBの取引が主です。
そのせいか、倉庫には品質がバラバラの本で溢れかえっていました。日本では売り物にならないような、状態の悪い本の率が高いという印象さえ受けました。しかしその状況下でも、彼らは売る努力を惜しまない。
状態の悪い本であっても廃棄せず、価格を見直したりして売ることを重視するし、貴重な本は適切に仕分けされ、きちんとオークションに出品して価値を出すことが考えられていた。
僕たちは本を集めるとき、現在の古本市場で売れる本を選択的に集めようとします。一方で彼らは、まず集められる本はすべて集めることに心を砕いているところに、本を救う信念を感じました。

 

できるだけ多くの本を救い、それらをリユースする道を徹底的に追及するその姿は、Better World Booksが経営の軸とする、環境・社会・経済3つの側面から活動の価値を評価する「トリプルボトムライン」の考え方を体現していました。

 

鳥居:集まった本の価値を最大限生かし、また環境への負荷を減らそうとする覚悟と自信を感じずにはいられませんでしたね。

中村:図書館の“除籍本”は日本の市場では売れない。少なくとも僕たちは売れないと思い込んでいる。しかし、自分たちは売るための努力をしたことがあったのだろうか? と考えさせられました。きちんと説明し、見合った金額で顧客に訴えれば、除籍本であっても売れるようになるかもしれない。さらにそれが、図書館や大学への支援になれば、手を伸ばす人も増えるかもしれないのです。

 

こうした姿勢は、Better World Booksの創業期から貫かれていました。書籍の入手先を探していたザビエルが目をつけたのが、図書館が書籍の入れ替えを行うと同時に廃棄される大量の書籍だったのです。彼らは埋立地に送られる書籍を救うべく、アメリカ中の図書館員とパートナーシップを結ぶことにしたのです。

 

鳥居:利益や効率を重視する経営にも学ぶことは多かったですね。私たちは、買取金額をそのまま寄付するモデルですが、彼らはファンドレイジングを目的として本を送ってくる大学や図書館との間で「レベニューシェア」を行い、売り上げの一部を還元するというモデルを採用しています。また、Book For Bookで本を寄付する以外にも、「リテラシー パートナーズ」というプログラムで識字率向上のために活動するNPOに売上の一部を寄付をしたり、「リテラシー グランツ」というプログラムで教育を通じて貧困をなくしていくため、NPOや図書館のプロジェクトに補助金を交付しています。それらの活動を通じて少しでも多くの本を送ったり、資金を提供できるように、利益と効率を徹底的に追求している姿勢には学ぶところが多いです。
彼らが支援する団体は識字率向上や教育のために活動するところに限られており、寄付する団体それぞれのミッションを深く理解し、協業に近い考え方をしていたことが印象的でした。その中で、パートナーの団体には、利益を上げるために協力してもらうこともあると話していました。

中村:寄付を行う団体と、書籍を引き取る組織との間で目的意識を共有して、いっしょに本をリユースしている、という姿勢に近いよね。「分立した、いち古本業者」ではなく、本をリユースすることで社会や世界をよくしていこう、という目的ごと共有しているから、ビジネスが良い循環をしている。

 

Better World Booksは海の向こうの奇遇な似たもの同士。世界の古本屋は、効率よくビジネスを動かす、成熟したベンチャー企業の顔をしながら、世界にとって本当のいいことに実直に取り組む古本屋なのでした。

 

 

森旭彦|AKIHICO MORI

ライター・ジャーナリスト。サイエンス、テクノロジー、スタートアップに関心があり、さまざまなメディアで執筆する。また、書籍の構成ライターとして、成毛眞著『面白い本』『もっと面白い本』などに関わっている。
http://www.morry.mobi/

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